あの日僕は捨てた

あの日、僕は捨てた
仕事もどうでもいいやと思った。
家族にも愛想をつかした。誰も助けてくれないと思った。毎日誰かがイライラしていて、腹の底から笑うなんて数年無くて。
時計は…夜の7時を回ってたかな
バイクで走ってたんだけど、父の依頼で祖父の家に何かを届けな行かなくちゃならなくて。荷物預かってたんだっけな

このくらいの暑さだったかな。時折涼しい風が吹く。空は少し暗みがかっていて。

また帰れば父が怒り、母も不機嫌なあの場所に帰る。小さな頃から変わらない場所へ

涙が出てきた。
もうやめたいな
でも、死にたくないな
ここで死んだら誰か見つけてくれるんか?

目まぐるしく過ぎていく日常の中で、ここまで不幸なのは俺だけで、世間の人達は楽しさに溢れているのかな?

なんて不幸な子なんだろ?
なんでこんなことに…の涙か?

ずっと暗闇の中で、大切に抱えた情念渦巻くブラックボックスを開けずに耐えてきた。

開けたら終わる
いい子でいなくてはいけない

ニコニコした偽の笑顔で
「父からの預かりものです」といい、俺を裏切った祖母とお茶を飲み、父の言うことを聞けばいいんだと言い放ったおばさんと談笑する。

それが正解なんだ


誰かの都合に付き合わされる人生が嫌で。泣きながら堤防に座り込んでいた。

泣き疲れたのか、ただ川を眺めていた。携帯が鳴っている。父か?
もーいいや。周りも暗くなる。

蚊に刺されたのか、痒い。生きている証拠だ。

現実逃避しないと、終わると思った。
ブラックボックスが空いて、とんでもないことになると思ったから、逃げた。

いや、逃げようと思ったんだろうか?

本当に落ち着いた時時計の針は22時をさしていた。荷物で預かったものも溶けていた。

着信は50を超えた。

このまま逃げたら経済的にもたないか…

諦めて家に戻ると、父が
「なんでそんな簡単なことが出来ねぇんだお前は!!」と理由も聞かずに罵倒してくる。

体の力が抜けた。
またあの場所に帰ってしまったんだと。

母が言うには服も泥だらけで、明らかにおかしいとは思ったと言う。

厳密には記憶もないし、どうしたらこんなに汚れるの?みたいな感じで。

いい歳して恥ずかしいと思わないのか?とかグチグチ言われたが、もうどうでも良くなった。

あの時、死を選ばなかったのは
あの時、逃げなかったのは

なんでだろう?と思う気持ちと。
逃げてやれば…どうなってたかな?と思う気持ちと。

悩んだ中で、僕は
僕らしさを「捨てた」

そうすれば必ず「普通の人間になれる」そう思っていたから。


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