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「コーヒー物語」#みんなで楽しむ朗読会2023梅雨

日曜日の午後3時。いつものようにテラス席で1人、本を片手にエスプレッソを飲んでいた。20席ほどのテラス席に太陽の光がまぶしい。丸いテーブルに赤いパラソル。

前の道は百貨店の買い物客が、大きな大きな紙袋を持って歩いている。

するとあるお婆さんがヨタヨタとコチラに向かって歩いてきた。

お婆さん「お兄さんここにはよく来るのかぁい?」

ノリユキ「はい、毎週日曜日にここでまったりするのが、僕のマイブームなんですよ。お婆さんはお近くの方ですか?」

お婆さん「いやいやぁ、たまたまぁ県外からぁ、ちょっと来ただけでねぇ」


そんなお婆さんは、背中が少し曲がった、顔がシワクチャのお婆さんだ。でも素敵な黄色のワンピースを着ており、品がある感じだ。


お婆さん「お兄さぁん、おいくつぅ?まだまだ人生これから、頑張ってねぇ。ニヤニヤ……ウフフ……」

ノリユキ「ありがとうございます。すごく洋服とか綺麗にされてますが、昔は何かされてたんですか?」

お婆さん「えぇぇ?なんてぇぇ?最近はもう耳が聞こえなくてねぇ〜」


ノリユキ「昔、何してたんですかぁーー」


お婆さん「いろぉんな国に行ったわぁ〜、人生は楽しいぃ方がいいから」

と、言ってお婆さんはどこかへ歩いていきました……。

なんだったのか。あのお婆さんは、わざわざ自慢しに来たのか。それにしても元気なお婆さんだなぁ。なかなかいないよな。不思議なお婆さん。

エスプレッソをもう一杯たのもうと、思った瞬間、さっきのお婆さんと、もう少しだけお話したいと思い、席を立ち、追いかけた。


しかし……。


そのお婆さんの姿はどこにもなかった。


どこ行ったんだろう。まだ近くにいるはずなんだけどなー。


ふと、空を見上げると、まぶしい太陽が、こちらを見ている。


お婆さんが僕に伝えたかったメッセージとは。


そして、その意味が、今になってようやく分かった。

僕にはおばあちゃんがいる。

小柄でB型のハキハキと思ったことはズバッと言うタイプだ。
少しポッチャリしてて、短髪。
まるで演歌歌手のような出で立ち。
電話の声もいつも大きい。

おばあちゃんの家はもともと実家から歩いて10分15分ほどで行ける距離で、子供のころは毎日のように遊びに行き、当時はおじいちゃんもまだいたので、
小学生だった僕は、オモチャをおねだりしておじいちゃん、おばあちゃんを困らせていたようだ。

そして高校生になった僕は、耳にピアスをあけたいと思うようになり、私立の進学校で、ある程度校則は厳しく、親にも反対されたため、
おじいちゃんにお願いに行った。

なぜおじいちゃんに?と思うだろう。

何を隠そう僕のおじいちゃんは耳にピアスをしているのだ。他にもいろいろ、ご想像におまかせしたい。

で、病院に連れて行ってもらい、僕もなんとかピアスデビューできた。


そんなおじいちゃんはずいぶん前に他界したが、形見である、カフスボタンは今でもたまに使っている。

白の四角い真珠のようなカフス。なかなかシブい。

おじいちゃんが先に旅立ったので、おばあちゃんだけになり、僕も結婚して実家を離れて、疎遠になった。

たまにおばあちゃんから電話が鳴るが、仕事でヘトヘトの僕は、テキトーに聞き流す。
なんなら忙しいフリをして、すぐ切ろうとしてた。


それから、ある朝の5時40分。
親戚のおじさんから、電話が鳴った。
おばあちゃんの容態が急変して、すぐに病院に駆け付けてほしいと。

そして先日おばあちゃんも天国に旅立った。


今になって少し後悔が。もっとおばあちゃんのところに行って、
ごはんを作ってもらったらよかったなー。
昔はおいしいたまご焼きを作ってくれた。
炊き立ての白ごはんと、すこし半熟のたまご焼き。

白ごはんには、決まっていつも、ちりめんじゃこ。

野球が好きだったので、野球の話もたくさんしてあげた方がよかったなー。

あの時にカフェで出会ったお婆さんは、もしかしたら、これを僕に伝えたかったのかもしれない。

もっと、おばあちゃんのことを大切にしてあげてね。先はもう、長くないからね。

今になって、ジーンと込み上げてくる。

この内容のエッセイを書こうか、どうしようかずっと悩んでた……。

人は2度死ぬと言われており、1度目は肉体的な死。2度目は人の記憶から消えてしまう死があるらしい。

1度目の死は防ぐことができなくても、2度目の死を防ぐことができるのならば、


僕は、勇気を振り絞って、ここに残そうと思う。

おばあちゃん、ありがとう。
また、一緒にコーヒー飲もうね。

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