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マイケル・モーパーゴ 『モーツァルトはおことわり』

僕にとっての本書:
天才バイオリニストのパオロが、はじめて過去をかたる。なぜ彼はバイオリンを愛するのか、なぜモーツァルトを弾かないのか。少年時代、ヴェニスのアカデミア橋で聞いたバンジャマンの演奏。パジャマのまま、パオロは音楽に夢中になった。

原題は The Mozart Question  。出版は2006年。こちらの絵本は2010年発行。訳は さくまゆみこ さん。

マイケル・モーパーゴを読んだのは2作目でした。以前に読んだものと同様、こちらも「年長者と年少者の対話」が大きなテーマとなっている作品でした

ナチスのホロコーストをテーマとした作品。「サバイバー」と呼ばれる人々がいます。ナチスの殺戮から生き残った人々のことだと理解しています。

サバイバー、重いテーマであるし、本書のメインテーマでもあります。モーパーゴ氏も、なみなみならぬ思いでこの本を書いたことが「あとがき」から伝わります。作品は、歴史的知識にもとづいた、モーパーゴ氏の創作です。

すばらしい作品です。

モーパーゴは、年長者と年少者を描くのが、たいへんに上手です。以前も思ったことですが、おそらく作家の中には、「人が人に伝える物語」を大事にしたいという思いがあるのではないでしょうか。年長者との対話、僕の中で大事なテーマでありつづけているものです。

僕は、彼の作品には歴史を感じます。やっぱり、歴史は人がひとに語るものであってほしい。個人の時間感覚、物語感覚にねざしたものであってほしい。

サバイバーという重いテーマに向き合うモーパーゴには尊敬の念をいだく一方、誤解を恐れずにいうと、この本はサバイバーをテーマにしたものではない、ともいいたくなります。家族愛、芸術への愛、そういうものもテーマかもしれませんが、僕がもっとも感じたテーマは、「年長者と年少者の対話」でした。

なぜだろうか、いつも、このテーマに惹かれてしまうのです。それにしても、語りが上手な作家です。聞き惚れてしまいます。「深い謎をおいもとめていく子どものすがた」を描くのが巧みな作家です。

魅力的なモチーフが効果的に使用されます。気づいた限りでは、「川」と「橋」と「パジャマ」でしょうか。音楽と川は、いつの時代も素晴らしい組み合わせだと思います。ともに、「流れるもの」だからでしょうか。

もっとも印象的なセリフを抜粋してみたいと思います。
少年時代のパオロに、父が秘密を明かします。ホロコーストにまつわる悲しい話です。この話が、パオロ少年の音楽人生の転機となるのですが、父の言葉がとてもいいのです。パオロは、父に内緒でバイオリンのレッスンを受けていたことを話す。それにたいして父が語る。

この子どもと父親は、対等であることがわかります。

「母さんも私も、この話は口にするまいと思ってきた。まるで悪夢のような記憶だから、忘れたかったのだ。だけど、おまえは自分の秘密を話してくれた。どうやらこっちの秘密をあきらかにするときも、やってきたようだな。真実には真実を返さないとな」

p.44より

サバイバーをテーマにした作品はたくさんあります。文学にも、歴史研究にも。

僕はかつて、スポーツのコーチをしていたことがあります。バレーボールです。いまはしていませんが、このスポーツに魅了され、プレーヤーとして青春を過ごしたのち、コーチになりました。

バレーボールの世界には、名将がたくさんいます。でも、僕にとって名将といって最初に思い浮かぶひとは、この人です。アリ・セリンジャー。

彼もサバイバーでした。そして「サバイブ」した経験と、彼の人生は密接に結びついていたことを、こちらの本で知りました。

バレーボールコーチの時代、いろいろな本で勉強しました。
でも、何よりも学びになったのは、こちらの吉井妙子氏の本でした。
若かった頃、運動部の多いクラスで世界史を担当したときには、本書の力を大いにお借りしたこともなつかしいです。

僕がコーチになりたいと思っているのは、僕がかつてコーチだったことがあるから、かもしれない。本記事を書きながら、ふとそんなことも思いました。

いつか僕がコーチだったときのことついても書いてみたいと思います。

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