マガジンのカバー画像

こどものための本 感想

17
こどものために書かれた本を読んでいきます。
運営しているクリエイター

#児童文学

ローズマリー・サトクリフ 『夜明けの風』

僕にとってのストーリー:ひたむきさ。とにかくひたむきに生きる。世の中は変わる、盛者必衰。黒が白になるような大きな変化の中、他者のためにオウェインは生きる。自己犠牲。100%、何かの集団に所属することはできない。 『ともしびをかかげて』の続編。本当に素晴らしい。児童文学と呼ばれるサトクリフの本ですが、大人が読んでこそ感動するのではないかと思います。 主人公のオウェインは、ケルトの王の若き戦士。14のとき戦場ですべてを失った。それからは、運命に翻弄されながら、常に他者のために

ローズマリ・サトクリフ 『第九軍団のワシ』

僕にとっての本作: マーカスは大怪我を負う。父の消息。消えた「ワシ」。友との冒険。 才ある軍人だったマーカスは、戦いで負傷し、名誉除隊。みながその自己犠牲的精神をたたえたが、彼には生きがいが必要だった。 軍神となる夢をたたれたのち、彼の心に沈んでいたひとつの望みが、オルタナティブなものとして浮上する。夢を絶たれたからこそ、この望みにこだわる。それは父の「ワシ」の捜索。 心優しき叔父。そして闘技場で出会った奴隷のエスカ。エスカは、マーカスの友となり、ワシをさがす仲間に。他

ローズマリー・サトクリフ 『ケルトの白馬』

僕にとってのこの本: 族長の息子。運命、自己犠牲。ルブリンが描く白馬。 サトクリフの作品が本当にすばらしいなと、いつどの作品を読んでも心に響きます。とても歴史を感じます。 何冊か読んでみるとわかることがあるのですが、彼女の作品にはいつも、「運命」、「歴史」、「使命」、「挑戦」、「生きる」、そんなテーマが根底にあるような気がしています。 ときに「共存」や「共生」のような表現もあったりしますが、この描き方が誠実でよいのですね。他者と生きる様子が、べたべたしない。昨今のSDGs

ユヴァル・ノア・ハラリ Unstoppable Us

僕の要約: 人類には超能力がある。だから、見ず知らずの他人と協力することができる。 『人類の物語  ヒトはこうして地球の支配者になった 』 というタイトルで、翻訳出版されています。翻訳アプリを使いながら原著で読みました。 著者のハラリ氏は、ヘブライ大学の歴史学の教授。世界史に関する著作が多い人ですね。ベストセラーの『ホモデウス』や『サピエンス全史』で知られています。今回、ハラリ氏がこどものための本を書いた、ということで読んでみました。 印象的な部分、というか本書の最大の

ローズマリ・サトクリフ 『アーサー王と円卓の騎士(サトクリフ・オリジナル』

僕の読み方: アーサー王出生前から、円卓の騎士の集合、主要な冒険を描く。 円卓の騎士の個性、サトクリフの現代的感覚と時代考証のバランス。冴えた表現。お見事。 訳者あとがきによれば、チルドレンズブックオブザイヤーという賞を獲得したそうです。一流作家サトクリフによる、アーサー王伝説へのオマージュです。 アーサー王三部作は、1979~1981年の作品。日本には、訳者の山本史郎氏によって、2001年にはじめて出版され広く受け入れられました。 作者のサトクリフにとっては、アラウン

ローズマリ・サトクリフ 『ともしびをかかげて』(上下)

僕にとっての作品:運命は過酷。アクイラはローマの教養を身につけたブリテン島の若きケルト系軍団長。4世紀、衰退を迎えたローマ。サクソン人の侵入に対し、アクイラは任務であるローマの防衛よりも、本能で「故郷」を選ぶ。運命は過酷。教養と文化を離れ、本能と本能がぶつかりあう歴史の中へ。生き抜く。故郷と家族は、同義。 素晴らしい歴史小説でした。サトクリフ氏は児童文学作家として知られ、この本も中学生向けだそうです。しかし、そういったことはどうでもよいほど感動的。大人もこどもも読んで得られ

サン・テグジュペリ 『星の王子さま』

サン=テグジュペリ 『星の王子さま』 僕にとっての作品の要諦: たいせつなことは目には見えない。飛行士の「僕」と、小さな星からきた王子さまが、不時着をきっかけに出会う。王子さまがこれまで出会った人たちは、王子さまには不可解なものばかり。こども時代を忘れなかった大人である「僕」は、王子さまに共感。 作品は1943年にアメリカで初版。 すでに飛行士として、また『夜間飛行』などの代表作によって有名人になっていたサン=テグジュペリ(1900-1944)による、児童文学作品です。

リン・リード・バンクス 『リトルベアー 小さなインディアンの秘密』

僕にとっての作品の要点: 少年オムリは、不思議な戸棚と鍵を手に入れる。この中に入れたプラスチックの人形は、そのサイズ、彼らの時代設定のまま生命が吹き込まれる。こうして19世紀からやってきたインディアンの「リトルベアー」やカウボーイの「ブーン 」と、少年たちの生活が始まる。現代の日常生活は、この「秘密」を抱えた少年たちには究極にスリリングなものになる。 1980年の作品。原題は The Indian in the Cupboard。 作者のバンクスさんは、1929年、ロンドン

エンデ『ジム・ボタンの機関車大旅行』

僕にとっての作品の要点: ジム・ボタンとルーカスは大親友。出生に謎のあるジムと、腕利きの機関士ルーカスは、人口増を背景に故郷の島を出て冒険へ。相棒は機関車のエマ(女性)。そして皇女の誘拐に苦しむ皇帝に出会う。皇女リーシーを助けるべく、竜の待つクルシム国へ。大冒険の末、目的は達成されるが、ジムの出生の謎は明かされず、次回に続く。 幼く勇気があり、感性が豊かなジムと、科学的・論理的思考を持ち合わせた腕っぷしの強いルーカスのコンビが大冒険を繰り広げる。 1960年の作品。エンデ

ナイジェル・ウォーバートン『若い読者のための哲学史

私にとっての要点:1チャプターにつき、ひとりの哲学者を取り上げて、生い立ちや思想を取り上げる。著者の語りが軽妙。チャプターごとに、哲学者の達成点と、次なる課題が紹介される。次章では、別の哲学者がその課題に挑む。連続性(歴史)を意識して書かれている。 若い人のための、とか、こどものための、とか。そういう書籍もこのシリーズの対象にしたいと思います。 本書はYale University Pressから出ているLittle Historiesというシリーズのひとつらしい。 語

ケストナー 『飛ぶ教室』

児童文学を読み直して、時間や歴史をキーワードに考察してみたい。 シリーズにしていきたいと思います。 第一回は、ケストナーの「飛ぶ教室」にしました。エンデかケストナーかという、ドイツ児童文学の巨匠。 僕にとっての作品の要点: 題は、作中のこどもたちが作る演劇の題のこと。ギムナジウムのこどもたちの喜怒哀楽をめいっぱい描いた作品。魅力的な大人たちがそれを見守る。自身の体験を思い出しながら。 こどものころ読んだと思ったけど、どうも記憶に薄い。もしかしたら読んでいなかったのかも