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【作品#15】『7月24日通り』

こんにちは、三太です。

最近、山田詠美さんの『私のことだま漂流記』を読みました。
この本は毎日新聞に連載された記事がもとになっていて、山田さんが自分の半生を振り返って書いた自伝小説となっています。
読みながら自分はつくづくこの自伝というものが好きだなと感じた今日この頃です。

では、今回は『7月24日通り』を読んでいきます。

初出年は2004年(12月)です。

新潮文庫の『7月24日通り』で読みました。

あらすじ

本田小百合という、ある地方都市に住む女性が語り手です。
小百合は自分が住むその都市を、ポルトガルのリスボンに見立てています。
タイトルである7月24日通りも、そのリスボンの通りの一つです。
呼び方が変わるだけで、気分も変わるというのは、小百合だけでなく、読者も感じられます。

小百合は自分に自信がなく、なかなか本気で人を愛することができません。
けれども、自分の周りにいる父や弟(耕治)、そして上司(安藤)は色々と問題を抱えつつも、愛する人がいます。
そんな小百合にも人を愛することができるチャンスが巡ってきます。
そこで、小百合はどういう決断をするのか、というところが読ませどころです。

文庫の裏表紙の紹介文も載せておきます。

地味で目立たぬOL本田小百合は、港が見える自分の町をリスボンに見立てるのがひそかな愉しみ。異国気分で「7月24日通り」をバス通勤し、退屈な毎日をやり過ごしている。そんな折聞いた同窓会の知らせ、高校時代一番人気だった聡史も東京から帰ってくるらしい。昔の片思いの相手に会いに、さしたる期待もなく出かけた小百合に聡史は・・・。もう一度恋する勇気がわく傑作恋愛長編。

出てくる映画(ページ数)

①『愛の嵐』(p.92)

「あの日、帰り遅かったけど、どこ行ってたの?」安藤に問われ、私は用意していた言葉を返した。「一緒に『愛の嵐』っていう古い映画を見て、ごはん食べて、そのまま帰るつもりだったんですけど、ちょっと甘いものが食べたくなって、遅くまでやってる喫茶店に入ったら、話が止まらなくなっちゃって」私の言葉を、安藤は端から信じていないようだった。ただ、黙って最後まで聞いてはくれた。

今回、作品内には出てこないのですが、瀧井朝世さんの解説で触れられている映画も取り上げたいと思います。

 ②『キューティ・ブロンド』
③『エリン・ブロコビッチ』
④『秋菊の物語』
⑤『てなもんや商社』(pp.213-214)

 こんな胸キュン物語を描いたのが、吉田修一氏だとは、驚く人も多いのでは。恋人に本気で豆を投げつけるイヤーな男(『熱帯魚』収録の「グリンピース」)を描くような作家である。だけど何度も取材してきた中で、その女性観に「ほお~」と思ったことがあったのは確か。例えば、リーズ・ウィザースプーン主演の『キューティ・ブロンド』の話をした時、彼は真っ先に脇役ポーレットを演じるジェニファー・クーリッジに言及して「僕、あの人好きなんです」と言った。主人公を助けるハデな美容師を演じるジェニファーは、コメディに多数出演している迫力ある顔つきのオバチャン。かなりいい味を出しているけれど、彼女に着目する男性って、なかなかいないんじゃないだろうか。先日、某雑誌の取材で女性読者にすすめる映画を挙げてもらった時は、テーマを「強い女は美しい」と設定、ジュリア・ロバーツ主演の『エリン・ブロコビッチ』、コン・リー主演の『秋菊の物語』、小林聡美主演の『てなもんや商社』といった、奮闘する女性を描いた作品を挙げていた。クールな眼差しのまま「”女の武器”を使う女の人って嫌いじゃないんです」とも発言していたな、たしか。

 吉田修一さんが見ていて、オススメしていた作品でもあるので、それをチェックしてみるのはありかなと思いました。
こちらの映画も見ていきます。

 あと、もう一つこれまでに紹介した映画との関わりを感じる描写があったので、それもここで取り上げておきます。

 「中学生のときでしたっけ?安藤さんが引っ越してきたの」と、私はハンドルを握る安藤の手を見つめながらそう訊いた。「そう。小学校の春休み、というか、中学校の春休み?あれってどっちなんだろな?」「中学校に上がる春休み。それでいいんじゃないですか」と私は笑った。「・・・とにかく、なんていうか、この街の印象って、ずっと雨なんだよな。雨が似合うっていうか、雨が降ってないと、この街じゃないっていうか」

『7月24日通り』(p.37)

 このずっと雨が降っている感じは、デヴィッド・フィンチャー監督の「セブン」に通じるなと思いました。
この映画もひたすら雨が降っていました。

感想

小百合がそういう選択をするのかという終わり方でした。
この終わり方については解説で瀧井朝世さんも触れておられました。
結果を求めるというよりも自分の気持ちにケリをつけたかったのかもしれません。

また、小百合は優しく、そして弱いと思いました。
先輩の話を聞き、一方で男の誘いにけっこう軽く乗ってしまいます。
けれども、そんな人間くさい小百合だからこそ、多くの読み手に響くものがあるのでしょう。

最後に、章立ての謎が解けたとき、作家は色んな技巧を使っているんだと感じました。

 その他の気づきとしてこんなものを取り上げたいと思います。

山本くんはしばらく、高校までやっていたというバスケットの話をしていたように思う。高校総体で三位だったとか、自分はバスケット選手にしては背が低すぎるとか・・・。

『7月24日通り』(p.72)

そうです、(誰に言っているんだろう)またバスケ部設定が出てきました。
この山本くんというのは小百合が短大時代に少し付き合った人で、小百合が初めて関係を持った相手でもあります。
吉田修一作品におけるバスケ部設定はもう一度見直す必要がありそうです。

 結果よりやりきる気持ち冬の橋

 次回からは映画紹介を行っていきます。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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