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【作品#38】『最後に手にしたいもの』

こんにちは、三太です。
 
先週、研究授業を行いました。
ある物語を用いて、その題名を当てるというのが目標の授業でした。
もちろん当たれば当たるで良いのですが、それ以上にその題名を推論する過程で読み深めることが一番のねらいです。
「人物」「時」「場所」「キーワード」に注目し、その推移を追う。
それをシンキングツールで行いました。
自分のチャレンジに生徒も応えてくれたように思います。
 
では、今回は『最後に手にしたいもの』を読んでいきます。

初出年は2017年(10月)です。

集英社文庫の『最後に手にしたいもの』で読みました。


あらすじ

本書はANA機内誌『翼の王国』での連載を25篇まとめたエッセイ集で、『泣きたくなるような青空』の姉妹編です。
二つの作品はエッセイが書かれた時期が重なります。
こちらも旅に関するエッセイがメインで、埼玉、韓国、小倉、竹富島などでの出来事が描かれます。
また『怒り』が映画化されたときの舞台裏の話なども収録されています。
旅をメインとしつつ、吉田修一さんのこともさらに知ることができる、楽しいエッセイ集です。

公式HPの紹介文も載せておきます。

日々を懸命に生きている大人たちに贈る、どこまでも前向きで心に沁みるエッセイ集です。
ーー巨万の富や名誉を手に入れたあと、次に人が欲しくなるのは、この夕焼け空なのかもしれない。
(本文より)
自分自身がいかに唯一無二でユニークなのかをあらためて自覚できる25篇です。
旅好きの大人たちはもちろんのこと、飼い猫の金ちゃん、銀ちゃんにまつわる可笑しくて愛情あふれるエピソードは、猫好きの大人たちにも必読の書です。

出てくる映画(ページ数)

①「ラストエンペラー」(pp.11-12) 

そこでせっかく天津へ来たのだから、ラストエンペラーこと愛新覚羅溥儀が紫禁城を出たあとに暮らした別邸「静園」を見学に行った。映画『ラストエンペラー』は一九八七年にベルナルド・ベルトルッチ監督によって撮られた名作で、初めて見た時の衝撃は未だに忘れられない。当時は十代で、まだ時間というものをうまく捉えることができていなかったのだと思うのだが、清王朝の天子が歴史のうねりの中で一人の人間となり、かつて自分が座っていた紫禁城の玉座を見に、チケットを買って入場するラストシーンでは、それまでに感じたこともない無常を味わった。

②「横道世之介」(p.29) 

昨年(二〇一二年)の四月のことになるが、ある新刊が出たばかりで、この時もまた、よくツイッターを覗いていた。
そんな四月のある日、拙著『横道世之介』が映画化されることになり、その撮影現場を見学に行くことになった。撮影場所はさいたま市の埼玉大学キャンパスで、なんでもサンバサークルに入った主人公が学園祭で踊るシーンを撮るという。 

③「南極料理人」(p.32) 

と書くと、どうも小難しい作品のようだが、監督はあの『南極料理人』を手がけた沖田修一さんなので、もちろん声を上げて笑える映画になっている。 

④「さよなら渓谷」(p.41) 

少し前のことになるが、今年二〇一三年の夏はとても良いニュースで幕をあけた。
大森立嗣監督が真木よう子さんと大西信満さんを迎えてメガホンを取った拙著『さよなら渓谷』が、まだ涼しかった六月の終わりに全国公開されたのだが、その一週間後の徐々に夏らしい天気になってきた頃、モスクワから素晴らしいニュースが届いたのだ。
映画『さよなら渓谷』は、この年のモスクワ国際映画祭コンペティション部門に唯一の日本映画として出品されており、なんとそこで、グランプリ作品に次ぐ「審査員特別賞」という栄えある賞を勝ち取った。 

⑤「007 スカイフォール」(p.53) 

マカオには行ってみたいが、ギャンブルが苦手。という悩みをここ数年抱えていた。
もちろん悩みというのは大袈裟なのだが、それでもマカオからギャンブルを取ったら何が残るのかという不安はあった。
そうこうしているうちに、『007 スカイフォール』が公開され、劇中にマカオと香港を足して二で割ったような魅惑的な街が登場し、ますます行きたくなっていた。 

⑥「フィフス・エレメント」(pp.79-80) 

『世界都市とは、主に経済的、政治的、文化的な中枢機能が集積しており、グローバルな観点による重要性や影響力の高い都市のことである』
とあり、言葉の由来として、『文豪ゲーテが一七八七年に、ローマの歴史的な文化的な卓越性をもった都市としての性質を表現するためにつくった、「Weltstadt」(ドイツ語での世界都市)という言葉にその源を発する』とある。
なるほど、どうやら『鉄腕アトム』や『フィフス・エレメント』の世界ではないらしいことは分かってきたが、まだその姿は見えてこない。 

⑦「残菊物語」(p.118) 

この日、夜の部を観たのだが、まずは『妹背山婦女庭訓』の「三笠山御殿」で、嫉妬に狂うお三輪を演じた中村七之助がなんと生々しかったことか。長年の映画好きとしては、このまま中村七之助が踊り続けていると、そのうち溝口健二の名作『残菊物語』で花柳章太郎が演じた「積恋雪関扉」の遊女墨染の姿に変身していくのではないかと、つい身を乗り出してしまったし、次の演目『高坏』では、中村勘九郎の下駄タップが絶妙で、実はこの日、あまり体調がよくなかったのだが、気がつけばその演技のあまりの楽しさに体調もすっかり良くなってしまった。

⑧「悪人」(p.156) 

もう六年も前になるが、拙著『悪人』が映画化される際、李相日監督と一緒に脚本を書いた。
長崎、佐賀、福岡と、九州北部を舞台にした逃亡劇であり、恋愛劇でもあった。 

今回は8作ありました。
「ラストエンペラー」「横道世之介」「さよなら渓谷」「悪人」は既出なので、その他の4作を見ていこうと思います。

感想

やっぱり吉田修一さんのエッセイは良いですね。
何が良いかと問われると、それはそれで難しいのですが、自然体というか、こちらもリラックスして読めるといった感じでしょうか。
また、毎回思うのですが、吉田さんのエッセイにはよく友人の話題が出てきて、その友人との関係性がとても良いんです。
例えば、今回は「八幡製鉄所の美しさ」というエッセイで、友人の三回忌で帰省したときの話がされるのですが、ふいに訪れた小倉で、三人で飲むシーンは何とも言えず胸に迫ります。(p.89)
このエッセイも良かったですし、他にも「好きだ!」の猫についてひたすら語るというものや「四〇〇万人分の笑顔」のこんぴらさんへの参詣話など読み応えあるエッセイ揃いです。
今回これまでのエッセイ集と違うなと感じたのは、ネガティブな話があったことです。
吉田さんは基本的にエッセイでネガティブな話はされませんが、「旅先でまずやること」の中には、カンボジアで出会った不謹慎な観光客の話が出てきます。
でも、おそらくそういう出会いも含めて旅と言えるのかなとも思いました。
最後に、面白かったのが吉田さんはツイッター(今ではXですが)でエゴサーチをしておられるというのがわかったこと。(p.28)
2013年ごろの話なので、今でもその習慣をお持ちなのかはわからないですが、もしかして自分の投稿も読んでおられるかも・・・と思うと、少し緊張感が増してきました。

電車待つ観光客の自然体

その他

・香港を舞台にした短篇小説を書くために、香港の若いカップルに取材をしている(p.92)
→高層マンションでのカップルの話は読んだようにも思うのですが、何の作品だったでしょうか。

・川端康成の、能面について書かれている小説(p.161)
→『山の音』か。

以上で、『最後に手にしたいもの』の紹介は終わります。
自然体で書かれた、リラックスできるエッセイ集でした。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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