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【映画#91】「非情城市」『路』より

こんにちは、三太です。

かなり朝晩が涼しくなってきました。
そろそろ学校は衣替えの時期です。
コロナがあったり、校則改革があったりして制服についての考え方は多様化してきたように思います。
しっかり着させたい人もいれば、そんなにこだわらなくてもいいのではと思う人もいるというようなことです。
じわじわと学校の制度は変わっていくものなのかもしれません。

では、今日は『路』に出てきた映画、「非情城市」を見ていきます。
『路』に出てくる2作の映画のうちの1作目です。


基本情報

監督:侯孝賢(ホウ・シャオシエン)
出演者:阿祿(リー・ティエンルー)
    文雄(チェン・ソンヨン)
    文良(カオ・ジエ)
    文清〈トニー・レオン)
    寛美(シン・シューフェン)
上映時間:2時間39分
公開:1989年

あらすじ

玉音放送が流れる中、ある女性がちょうど出産を迎えているシーンから物語は始まります。
第二次世界大戦終結直後の台湾
それまで51年続いた日本の統治が終わり、祖国復帰の喜びもつかの間、次は大陸から〈外省人〉が来てその横暴に苦しめられます。
そんな戦後の混乱期を基隆で酒屋を営む林一家を通して描きます。
林一家には父親のもと四人の男兄弟がいました。
長男・文雄は父の跡を継いで酒屋をしていますが、父と同じく親分肌で裏社会にも通じています。
冒頭の出産は文雄の妾が子どもを産もうとしているシーンでした。
次男は戦争で南洋に行き、未だ帰ってきていません。
三男・文良は上海との通訳をしていたのですが、裏社会の抗争に巻き込まれ、精神がおかしくなってしまいます。
四男・文清は兄弟の中では少し雰囲気が違い、知識人っぽい感じがします。
ただ、耳が聞こえないというハンディキャップを持っていました。
友達の妹である寛美と淡い恋愛関係にありました。

文雄と文良によって主に裏社会が、文清によって恋愛が描かれます。
ただ、もちろんそこには時代の波が押し寄せ、その波は彼らの日常を奪い去っていこうとするのです。
台湾の戦後が人間たちの日々の営みを通して、つぶさにわかる素晴らしい映画です。

設定

・台湾の戦後の混乱期
・二・二八事件
・任侠の世界

感想

台湾の作品では、かなり「食」がキーになるなと思いました。
この映画でもそう思えるシーンがありますし、これまで見た映画「恋人たちの食卓」や先日読んだ『魯肉飯のさえずり』もまさにタイトルが食です。
それだけ豊かな食文化が育まれてきたということなのでしょう。
台湾に行ってみたくなります。

この映画を通して、今まで知らなかった二・二八事件のことや日本人なのにちゃんと調べようともしなかった「日本が台湾を51年も統治していた」という事実を知りました。
台湾人と外省人の対立については映画「牯嶺街少年殺人事件」でも描かれていたので(これも台湾の映画だった!)知っているつもりでした。
しかし、私の中ではなぜ「知識人たち(共産党員や社会主義者たち)」が弾圧されていったのかがまだよく分かっていません。
日本でも同じような事件はあったと思いますが・・・。
統治する側として、反乱あるいは革命を起こされると厄介だからということでしょうか。

この映画はあまり細かく説明もないまま時間が行ったり来たりするので、展開を追おうとすると混乱します。
また登場人物もたくさん出てきて関係を把握するのも一筋縄ではいきません。
DVDに特典として付いている人物関係図を見て、初めてわかったところもあります。
しかし、このような見るものを混乱させる作りになっていることについて、評論家・川本三郎氏が述べた次の言葉がけっこう腑に落ちました。

古い体制が崩壊したが、まだ新しい秩序が確立されていない。その混乱期の様子が次々に描かれてゆく。正直のところ見ていて、人間関係がどうなっているのか最初のうちはわかりにくい。
監督の侯孝賢は説明的な作り方をしていない。混乱をそのままとらえようとしている。食事の場面がある。ケンカの場面がある。時に、カメラは人間たちからふっと離れ、俯瞰で海と山に囲まれた町をとらえる。あえて視点を混乱させているように見える。あの時代、状勢をはっきりととらえることが出来た人間など一人もいなかったのだから。」

(川本三郎・DVDの付録のリーフレットより)

確かに現実というのはそのような混乱を伴うものであったのかもしれないと思いました。

あぶれ蚊や食卓囲む大家族

その他

・どうでもいいことですが、文雄はミルクボーイの内海さんにしか見えない。

・みんなよくたばこをすう。

・ウィキペディアより
→舞台となった九份(ジューフェン)は、この作品の成功によって台湾でも屈指の観光名所となった。

→侯孝賢は「恋恋風塵」の監督でもある。家長役の李天祿は「恋恋風塵」にも出演していた。

→梁朝偉(トニー・レオン)は「恋する惑星」にも出演していた

『路』内の「非情城市」登場シーン

この夜、勝一郎は衛星放送チャンネルで『非情城市』という台湾映画を見た。日本占領下の台湾、一九四五年の昭和天皇による玉音放送が流れ、壊れかけたラジオを叩く男、蒸し暑い熱帯夜、薄暗い部屋、男の額から汗が垂れ、奥の部屋では今まさに男の妾が出産しようとしている場面から始まる。物語は日本の敗戦により光復を遂げた台湾に蒋介石率いる国民党が中華民国を成立させるまでの四年間を、ある一家の変遷を辿る形で進む。この映画が公開された一九八九年は、人類歴史上もっとも長く続いた台湾の戒厳令が解除されてわずか二年目であり、それまで決して公に語られることのなかった二・二八事件を正面から描いている。
勝一郎はこの『非情城市』という映画をなんとなく知っていた。公開当時に見聞きしたのか、それ以後に何かの雑誌で読んだのかは定かでないが、どのような内容なのかも理解していた。自分たちが去ったあとに起こった台湾の悲劇。もちろん勝一郎もそれを知りたいと思った。しかし結局これまで見ようとしなかった。

『路』(pp.193-194)

このシーンは葉山勝一郎という戦前に台湾に住んでいた老人の語りの一部で出てきます。
勝一郎は戦前に台湾で、ある仲の良い友達がいました。
けれども、その友達に決して言ってはいけないことを言ってしまいます。
その後悔の念が戦後60年を過ぎても残っていました。
その友達に台湾で会えるかもしれないという状況になり「非情城市」を見ます。
映画で描かれる時代が勝一郎の重要な過去とつながる部分が多く、とても映画が効果的に使われています。
この映画を見たから勝一郎という人物が生まれたのか、勝一郎がいたからこの映画が使われたのか、あるいはそんなことは全く関係ないのかは分かりませんが、少なくとも登場人物と映画のつながりの深さはあると言えるのではないでしょうか。 

吉田修一作品とのつながり

・任侠の世界は吉田修一作品にもよく出てきます。(『長崎乱楽坂』『国宝』など)

以上で、「非情城市」については終わります。
台湾の歴史的な面についてさらに詳しくなれたような気がします。

それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

画像の出典:映画ドットコム「非情城市」

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