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高知県本山町に移住した川端聖佳さんのLOCAL MATCH STORY 〜自給自足のような暮らしをしたいと願っていた、理想の暮らしが手に入りました〜

移住を経験し、地域で活躍されている人を紹介する「LOCAL MATCH STORY」。
今回は、高知県の本山町に移住された地域おこし協力隊OGの川端聖佳さんをご紹介します。
そして、この記事は川端さんご本人に執筆いただきました。

自己紹介

今回は高知県の本山町の移住した川端 聖佳が、移住までの経緯から、移住後の暮らしや仕事について「リアル」を語っていきたいと思います。

滋賀県栗東市出身。大学生の頃に同じ県内の高島市へ姉と移住しました。大学卒業後に、移住当初からアルバイトをしていた農園レストランで半年間そのまま勤務し、その後はカナダへ渡航。
長年の夢であったオーロラのツアー催行会社でカメラマンとして勤務していました。
昼夜逆転の暮らしで、太陽を欲した私は、農業に就業することを志し、2015年に高知県本山町へ移住。地域おこし協力隊の農業振興活動員として着任しました。
現在は高知県で知り合い、結婚した夫と一緒に林業をする一方で、育児や田舎暮らしについての情報発信をブログやYouTubeなどを通して行いながら、耕作放棄された茶の木や、林業現場で伐り捨てる黒文字を加工してお茶にしたり、住んでいる集落の共同運営の宿でアルバイトをするなど、多岐にわたって活動をしています。

移住した地域はこんなところ

私の暮らす高知県の本山町は、人口約3,500人ほどの小さな町です。四国山脈の中央に位置しており、吉野川を中心に南北に長い町で、北部は林業がさかんです。一方の南部は農業地で、「日本で最も美しい村」連合にも加盟している絶景の棚田が広がっています。ここで作られるお米は、食味コンクールでも日本一をとったブランド米「天空の郷」として全国的に知られています。
そのほか、全国的にみても希少で幻の和牛とも呼ばれる「土佐あかうし」の産地でもあります。

本山町

写真:本山町南部に広がる、大石地区の棚田です。この景色の一部になりたいと思い移住し、現在はこの地域で私たちも自分たちが食べる分だけのお米を栽培しています。

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移住したきっかけ

私がそんな本山町へ移住したきっかけは、移住前に高知県の安田町で開かれたDIYのスキルを学ぶワークショップに参加し、現在の夫と出逢ったことでした。
当時、農業をしたいとぼんやり考えていた私は、自分が理想とする農家さんを探していました。そんなときに現在の夫から、本山町はうつくしい棚田の風景もあり、農家さんも多くいるので、一度遊びにきたらどうかと誘いを受けて訪れてみたところ、町の風景や、そのときに出逢った人々の生き様に強く惹かれました。
そんなタイミングで、ちょうど本山町役場が地域おこし協力隊の農業振興活動員という枠で募集していることを知り、すぐに応募。無事に採用されたので、移住をしました。

地域おこし協力隊としての活動

地域おこし協力隊として活動していた期間は約1年半ほどでしたが、かなり濃密な時間を過ごすことができました。活動内容としては、農業振興活動員という役割だったこともあり、農に関することを行なっていました。本山町には農地を管理したり、野菜苗の栽培から販売、耕作放棄された田畑を引き受けて委託管理などをしている農業公社という施設があり、金銭的な管理は役場が行うものの、基本的に活動の拠点はその農業公社を中心に行なっていました。具体的な活動内容としては、試験的に栽培できる農場をお借りし、事業として成り立つ野菜をみつけるために、さまざまな品目の野菜を栽培し、販売を行っていました。栽培した野菜は、地元の直販所や給食センターなどに卸していました。そのほか、農業の6次産業化をすることによって、自分が栽培した野菜のブランディング化を目指し、共同加工施設でカレーペーストや燻製にしたり、いろいろな実験を行い、やりたいと思うことはとことん挑戦させてもらいました。そのほか、農地を管理するために必要になるであろう、ショベルカーやチェーンソーなどの講習会を受講するなど、田舎暮らしで役立つスキルアップも行いました。

チェーンソー講習

写真:チェーンソーの講習会を受けたときの写真。地元の森林組合の方に教わりながら、実際に木を伐り倒しました。

そもそも本山町が農業振興活動員を募集する背景には、広大でうつくしい棚田を守りたいという想いがあったからでした。高齢化が進み、やむを得ず耕作放棄されていく田畑が急激に増えてきた現状を受け、本山町農業公社は本山町で栽培するお米に付加価値をつけ、ブランディング化を進めてきました。それが「土佐天空の郷」というお米です。
はっきりと言われてはいませんが、年々管理委託を受ける農地も広がってきたことを受け、コメ農家の担い手育成を目的にした募集だったと感じていました。
ですが、私の代で第4期の地域おこし協力隊だったこともあり、町の担当者も「任務はこれだ」と押し付けるような方法ではなく、自分が退任後も定住できるような方法を模索することを推奨してくれていました。
現在、自分たちの食べる分だけのお米の栽培は行なっていますが、農家としてお米をつくることは仕事にすることが、やりたいことではないと気づくことができました。町役場が求めていた形ではなかったかもしれませんが、それでも定住に向けてさまざまなアドバイスをくださった役場には本当に感謝しています。

地域おこし協力隊時代に培った経験で、今に活きていることは他にもたくさんあります。町内の茶畑を調査し、耕作放棄された茶畑の持ち主さんに活用する許可を得たあと、草刈りなどの管理業務も行ったことで、現在のお茶の生産販売につながっています。スキルアップのために取得した資格は、今の仕事である林業にも繋がっています。

移住するまでこんなことがありました

移住するまでに悩んだことは、実家がある滋賀県から少し距離があったことです。移住者の親が高齢化で介護のために地元に戻っていくというパターンはよくあることで、いまだ私の親も働き盛りですが、そのことが気がかりでした。
そんなときに移住促進をしているNPO団体の方とお話をしたところ、「まだ親も若いし、結婚もしていないということだから、自分のことだけを考えてもいい年頃。あなたは好きに、自由にやりたいことをやってもいい。」という言葉を受けてハッとしました。
移住というと一大決心をして、ずっとそこに住まなくてはいけないという考えがありましたが、とりあえず住んでみるということでもいいんだと思いました。

移住から5年。今のライフスタイル

移住してから5年。当初の暮らしと比べると、子どもが生まれ、時間が限られる中で、どうしても諦めないといけないこともあり、生活リズムもガラリと変化しました。

【現在の平日の1日のタイムスケジュール】
6:30 起床
7:00 朝食
7:40 保育園への送迎
8:30 林業の現場 または バイト先の宿泊施設へ
12:00 昼食
13:00 仕事再開
15:40 仕事終了
16:00 保育園お迎え
18:00 夕食
19:00 風呂
20:30 就寝

休日は子どもが家にいるので、基本的に仕事はせず、お茶の梱包や情報発信のための作業など、隙間時間にできることを行なっています。
移住して妊娠するまでの数年間は、畑で野菜やハーブなどをつくっており、夕方にその作業時間を取っていましたが、2人の子どもが生まれ、まだ幼いので、あまり作業時間を取ることができず、一時的に畑はお休みをしています。また我が家では、お米の自給をしていますが、田んぼの作業は子どもたちが保育園に行っている平日に行っています。
お米の自給をはじめたのも、本山町への移住がきっかけで、自分で食べる食材は自分で栽培してみたいという私の強い願望でした。

本山町汗見川

写真:私たちの暮らす本山町の北部に流れる汗見川という川です。移住してから5年、私たちはこの川沿いの集落に住んでいます。

移住してわかった本山町の魅力

移住してわかった本山町の魅力は、いくつかありますが、全国的にも地域おこし協力隊の導入を先駆けて行うなど、移住者を受け入れることに対してポジティブに捉えている地元の方が多いという印象です。移住者がそこに定住しているということは、移住がしやすいということでもあるため、移住地を決める指針のひとつとして私は見ていました。
農業、林業、サービス業などいろんな業種において、人手不足のこの地域では、移住者である私が「狩猟やりたい」「農業やりたい」などと言っても、誰も反対をする人がおらず、むしろ「この土地があるよ」「狩猟やるならこの人と繋がるとおもしろいよ」と地元の方がそれを実現できるように背中を教えてくれるような場面がいくつかありました。
自分がやりたいことを実現できる土地というのは、全国すべてが当てはまるわけではないので、これはこの地域の魅力だと感じています。

移住先での住まいについて

今現在は、本山町の役場が管理している空き家バンクというサイトに登録してあった古民家をお借りして住んでいます。地域おこし協力隊時代は、町役場が管理している、別の物件に住んでいましたが、結婚を機に今の家へ引越しました。
昔ながらの瓦屋根の平屋の30畳あるかないか程度の小さな家で、トイレは汲み取り式。築年数はおそらく60年以上。土間にはかまどがあり、風呂は薪風呂。転入時には、町の負担で、ガスで沸かせるお風呂も併設してもらいました。

今の家に住むことになった決め手は3つあります。それは土地の広さ、家賃、大家さんの人柄です。
畑や狩猟をやりたいと思っていた当時、畑や山がついた家がいいなと考えていたところ、今の家をみつけました。また夫婦そろってDIYが好きなので、古民家に住みながらセルフリノベーションができる家がいいなと思っていたところ、「自由にしていいよ」と大家さんが快く言ってくださったので、それも決め手となりました。そのほか、家賃が1万円という破格でお借りすることもでき、少々交通の便は不自由しますが、それ以外は自分たちの思い描く暮らしができて、大変満足しています。

麦栽培

写真:お借りしていた畑で、試験的に麦の栽培を行っていました。この麦は、地元の味噌作りに活用しました。

移住後のお金の話

そして気になる移住後のお金のこと。
高知県は全国的に見ても、最低賃金が低いため、アルバイトでは時給800円前後のところが多いです。実際、家賃や駐車場代などの固定費は都市部に比べるとガクンと下がることが多いですが、その代わり、必ず増えると言っても過言ではないのは、車両費です。私の住む地域では町内でもバスの本数も少なく、車での移動が中心となります。そうなると車の維持費や保険代など、今までは不要だったお金がかかってきます。ネット環境は意外と田舎だからといって劣るかというとそうでもありません。本山町全域、光回線が引かれているので、それを繋げば十分な通信速度がありますが、我が家は固定費を抑えるために、持ち運びが可能なWi-Fiルーターを契約して使用しています。
さらに、こういった田舎では、野菜を栽培されている方が多く、直販所がその地域にあれば、都市部では考えられないほど安い値段で野菜を購入することができます。そういったところでも、支出が抑えることができ、さらには生産者の顔がみえ、なにより鮮度も非常にいいという点も、お金では買えない田舎の魅力です。

我が家は現在4人家族で、平均して支出は1ヶ月あたり18万円ほどかかっています。自営業のため、自分たちの働きによって収入が変動するので、支出をなるべく下回らないように勤務日数を調整しながら働いています。

本山町で暮らし始めて困ったこと

ここまでは移住するまでの経緯や移住してから比較的楽しいことについてご紹介してきましたが、実際に本山町に暮らし始めて困ったことがいくつかあったので、そちらもご紹介していきます。私たち家族は自分たちで施業した山から木を伐り、それを製材し、その材を使ってセルフビルドで家を建てるという目標があり、今はそのための土地を探している段階で、まさに土地探しにおいて、猛烈に苦労しているところです。土地や家を借りる分には特に問題なく話が進むことが多いですが、いざそれらを買うという話になると、一筋縄ではいきません。やはりどこかでよそ者だから…という認識が働いているのか、相続の問題以外にも、先祖代々から引き継いできた土地をよそ者に渡してしまうのかと思われるなど、周りからの目線を気にされる方が多く、売買成立の直前でご破算ということが何度もありました。
これは土地や家の売買問題に限らず、他にも感じる機会がありましたが、双方それぞれに想いがあることで、すれ違いが生じてしまうことは仕方がないことで、本山町の方々が先祖代々、引き継いでこられた自然環境があるからこそ、今楽しく暮らせているのだと感謝しています。

おいしいお茶を広めるという活動

現在は、夫がもともと自営業で林業を営んでいたので、私も一緒にはじめることとなりましたが、お茶の製造販売に関していえば、これにはきっかけがありました。奈良県でお茶の自然栽培に取り組む健一自然農園さんの三年番茶というお茶に出会い、大学卒業後に、茶園にお邪魔し、農業ボランティアとして数週間お手伝いもしました。代表の伊川健一さんから「耕作放棄された茶畑にこそチャンスがある」というお話を聞きました。それを聞いた私は、新天地でもそういった茶畑があれば、ぜひチャレンジして里山の景観再生に取り組みながら、おいしいお茶を広めたいと感じていました。それが数年後、このように実際に私たちが製造販売に取り組む、土佐薪火三年番茶という商品化に至った経緯です。我が家ではもう1種類、それが黒文字茶というお茶をつくっています。黒文字は和菓子を食べるときの爪楊枝として、日本では馴染みのある植物です。こちらは、夫が林業現場で施業をするときに、伐り捨てる黒文字をどうにか活用できないかと考えた末に生まれた商品です。

今後はこれらのお茶以外にも、自分たちが伐った木を使った木工製品を商品化したり、黒文字同様に伐り捨てるものを使って、活用方法を見出していくつもりです。林業を営む夫婦が、山にある素材を使って商品を生み出し、それを手に取ってくださった方が日本の山に想いを馳せてもらえるような商品化を進めていけたらいいなと考えています。夫のライフワークとして、地域内で林業従事者を増やすというプランもあるので、そちらにもつながるような取り組みをしていきたいと思います。

このように商品開発をしてみると、地元の方からもアイデアに驚かれたり、県外へ行く時のお土産にお茶を買っているなどの声をいただけることも増えてきました。もちろん販路開拓や営業など、子どもがいながらで大変なことはたくさんありますが、自分の商品を持つということがこんなにも楽しいことなんだというのは、本山町に住むまでは知り得なかったことでした。田舎は素材がたくさんあるので、そういった生産的な暮らしをしやすい環境にあり、それを活かすも殺すも、そこに住む人々の知恵だと感じています。

移住検討している方へメッセージ

さいごに。移住を検討されている方に伝えたいこととして、時に移住は人生をかけて一大決心で行うことのように言われる方がいらっしゃいますが、必ずしもその必要はないと感じます。
もちろん、骨を埋める覚悟でずっと住んでくれる方には手厚くしてくださる地元の方もいらっしゃいますが、もっとフットワーク軽く、とりあえず住んでみるくらいの感じでもいいのではないかと思います。地元の方々も長く住んでくれたらいいなと思っている方が多数ではあると思いますが、正直なところ、実際に住んでみないとわからないことだらけです。私も移住して5年経ちますが、移住前はそれこそ、とりあえず住んでみようと思って飛び込んできた土地でした。今後、自分自身もどうなるかはわかりませんが、案外それくらい軽い気持ちで住んでみるとうまくいったりするものです。もちろん移住前に住みたいと思う土地の下調べや、人との繋がりを作ることは大切なので、現地へ足を運んでみることは必要です。
私自身は移住によって、緑に囲まれた環境でヤギやニワトリを飼いながら、田畑で作物をつくる自給自足のような暮らしをしたいと願っていた、理想の暮らしが手に入りました。移住前に何を求めて移住をしたいのか、どんな暮らしがしたいのかがぼんやりでもわかっていると、よりワクワク、楽しく暮らせるのではないかと思います。
移住検討されている方が素敵な土地に巡り合えますように。そして、私の経験談が移住検討されている方のなにか参考になれば嬉しいです。

(終わり) 執筆時期:2020年9月

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