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ティール組織は自由なだけの組織なのか?無秩序になるのか?書籍に何て書いてあるか調べてみました。


はじめに

最近、ティール組織にまつわる噂・誤解について和訳本を中心に検証する記事を書いています。

この記事もシリーズの一環として、今回は「ティール組織は自由なので無秩序になる、というのは本当か?」というテーマでお届けします。

これまた、和訳本に実際に書かれていることを参照し、答えに迫りたいと思います。

和訳本から自由と責任について書かれている箇所を抜き出してみた

自主経営というテーマについて書かれている箇所の中で自由、責任について書かれている箇所を抜き出してみました。

『信頼の対象が広がると、その見返りとして責任も広がっていく。他人を見習う習慣と、仲間からの圧力が階層制よりもうまくシステムを統制する。チームが目標を設定し、誇りを持ってそれを達成する。だれかがこのシステムを悪用して自分の分担をしっかりと果たそうとしなかったり、サボったりすると、チームの仲間達がすぐに「そういうことはやめてほしい」という気持ちを伝える』

p135~136

『組織が暗黙の恐れに立脚しているのではなく、信頼と責任を育てる構造と慣行の上に成り立っていると、驚くほど素晴らしい、予想もしないことが起こり始める』

p138

『自由と責任はコインの裏表であり、片方だけを(少なくとも長くは)持ち続けることはできない』

p191

『進化型組織では、人々は役割を負い、責任範囲も明確だ。しかし縄張りはない』

p202

『自分が気づいた問題については、それが自分の役割以外のことであっても何かをする責任を負う、という点を重視している。モーニングスターはこれを「全責任(トータル・レスポンシビリティ)」と呼んでいる』

(p202)

『「この問題についてはだれかが何かをしてくれるはずだ」と言ってそのままにしておくことは、進化型組織では受け入れられない。あなたが何かの問題や機会を見かけたら、それについて何かをする義務を負う。そして多くの場合、その「何か」とは、も問題に関連する役割を担っている同僚の所に行き、それについて話すことなのだ』

p202

『一人一人が、組織のために完全に責任を持つ。対処すべき問題を感じたときには、行動する義務を負う。問題意識を自分の役割の範囲にとどめることは認められない』

p386

『フィードバックや、敬意を持った指摘を通じて、だれもが安心してお互いに説明責任を問うことができなければならない』

p386

『自主経営は楽なシステムではない。だれもが自分の行動とほかの社員との関係の維持に責任を負うし、不愉快なニュースやトレードオフが発生した場合の困難な選択から逃げるわけにはいかない。自分を守ってくれる上司も、責任を転嫁する相手もいないからだ。自主経営の自由に伴う責任を背負いきれない人は、従来型の階層的組織へ去ることを選ぶことが多い』

p448

抜き出した箇所を見てみると自由について語られる際には、それ単体ではなく責任とセットで語られているように思えます。

一方で、タイトルにもあるように責任が伴わない自由が広がると企業は一体どうなるのでしょうか。

実際にプロセスの中で自由だけに焦点を当てて組織づくりを進めていった結果どうなったか、という日本企業の事例がありますので紹介していきます。

「自由」に焦点を当てた組織づくりを試し、状況が悪化した日本企業の事例

「ティール組織」が出版される前から革新的な経営を実践されていた先駆者がその軌跡及び貴重な教訓を残してくれていますので数社紹介します。

ダイヤモンドメディア(現UPDATA)

(現在は社名が変わり、経営スタイルも変わっています。)
2010年頃に、社員に好きな働き方をすればいいと言って収拾がつかなくなった時期があったそうです。当時の代表だった武井浩三さんの発言を引用します。

「5、6年前くらいに、社内のみんなに好きな働き方をすればいいじゃんと言って、やりすぎて本当に収拾がつかなくなった時期があったんです。その頃は、物事すべての中心に「自由」を据えてやっていたんですけど、結局はそれが一人歩きしてしまって。
 
そこで、外部のパートナーだったら「採算合わないから契約を切る」という選択もできますが、雇用関係があって社内で一緒に仕事していたり、雇用関係がなくても内部の人として仕事していると、一方的に切ることってできないじゃないですか。組織として一体化しているわけなので。
 
でも、一体化しているはずなのに好き勝手に働くっていうのは、本当は一体化していない証拠ですよね。この帳尻をどう合わせるのかというのを考え抜いた結果、そこからは合理的な経営システムを導入していくことにしたんです。」

こちらの記事より引用
※武井さんの実践知は進化しており、上記に書かれているのはあくまで2016年当時のものだということをご了承ください。

その結果、管理会計を徹底的に整備したり、アメーバ経営を取り入れたりしたそうです。

リレーションズ

2016年から自律分散型の組織への変革をスタートされました。

取り組み(一部)
・会社分割
・役員会廃止
・前払い賞与

発信していたメッセージ(一部)
・フラットな組織
・ルールが少ない
・自律分散
・聖域なく何でも変えられる
・情報オープン(2017以前から評価や給与などの一部の人事情報以外はオープンだったとのこと)

こちらの記事から引用

この変革及びメッセージの結果どうなったのか?

結論から言えば「フラットでルールが少ない」というのは、(ティール型など)自律分散型の組織に対するよくある誤解でした。そして、誤解にもとづいたメッセージを放ったことで、「秩序」が弱まり、組織風土がかなり悪化しました。

こちらの記事から引用

他にも、

・方向性の合わないあるメンバーが内々で1つの事業部を別会社化するように何人かに働きかける
・飲み会での陰口や不満が増える
・経費ルールの逸脱

こちらの記事から引用

といった出来事も起こっていた模様です。この悪化の要因分析の結果、以下のコメントも残されています。

『自律分散型の組織は「組織内の1人ひとりが全体を俯瞰する能力を持たないにも関わらず、自律的に判断し動き、結果として秩序を持つ組織」です。役職等で「秩序」を図るヒエラルキー型の組織とは違う方法で「秩序」を保たなければなりません。つまり、自律分散型の組織に適したガバナンスの構築が非常に重要なのですが、当時はその視点が弱いまま物事を進めてしまいました。』

こちらの記事から引用

さいごに

ここで再び、テーマに戻ってきたいと思います。

問い「ティール組織は自由なだけの組織なのか?無秩序になるのか?」



答え「自由なだけの組織ではない。自由には責任が伴う。自由だけに焦点を当てて進めていくと無秩序になる」

ということですね。言い換えれば、事例で紹介した方々が言われているように何らかのルール・システムが必要ということであり、こちらについては書籍の中でも書かれています。

『自主経営でも、従来のピラミッド型組織とまさに同じように、一連の組織構造、意思決定プロセス、組織慣行が連動しており、チームがどのようにつくられ、意思決定がどのようになされ、どのような役割が定義されて、社員間に広がり、報酬がどのように定められ、人々がどのように雇用、あるいは解雇されるか、といったことが決まっているのだ。

(p226)

また、同じく書籍の中では『自主経営の成功は、専門家の言うの「心理的オーナーシップ」を従業員が持てるかどうかにかかっている』(p449)とも書かれています。

こちらは言い換えれば、従業員が心理的オーナーシップを持てる・育まれるシステムを築くことの重要性について語っているといえます。書籍の中でもp449から合計4ページに渡って書かれていますので持っている人はぜひ読んでみてくださいね。

また、このあたりに関連して、原著の出版年から4年後の2018年に公開された動画シリーズの中で、「自己修正システム」という表現として洗練された内容を学ぶことができますので、気になる方は日本語訳がついていますのでぜひ動画も観てみてください。

今回は以上となります。

追伸その1

「ティール組織」の日本での第一人者といえる嘉村賢州さんより直接概要について学ぶことができるセミナーです。不定期開催なのですが、ちょうど今のタイミングは募集しているそうなので、気になった方はぜひこちらのサイトをご覧ください。

追伸その2

今回の記事に関連したオススメ記事を紹介します。

事例で紹介したリレーションズの軌跡について書いた記事。


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