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ティール組織やフラットな組織の弊害は?という質問をもらいました。

「ティール組織やフラットな組織の弊害は?」最近、そういう質問をいただいたので考えてみました。

弊害とはーー害になること。他に悪い影響を与える物事。

はじめに「前提を整理してみた」

まず思ったのは、「誰にとって?」という対象者によって何を害と感じるのかが変わるということでした。会社組織でいえば、株主、経営者、管理職、社員などの立場がありますが、同じ出来事であっても捉え方は変わるでしょう。厳密にいえば、立場というよりもその人の持つ価値観によって何を害と感じるかは変わりますね。

また、質問ではティール組織とフラットな組織が並列に置かれていることにも「ん?」と思ったので、ティール組織はフラットな組織なのか?というテーマで別記事を書くことにしました。(結論はフラットな"だけ"の組織ではないということなのですが)

弊害についてどう書かれているか書籍を調べてみた

まず「ティール組織」の本でどう書かれているか紹介します。

ちなみに、大事な情報として、この書籍は日本では2018年に出版されましたが、原著は2014年に出版されたものであり、その時点までの調査・考察を踏まえた内容が反映されたものであるということです。その後、2018年にはフレデリック・ラルー氏本人が公開した動画シリーズ(※)があり、そこではさらにアップデートが進んだ内容について書籍と相互補完にされる形で語られています。今回は、書籍からのみの抜粋となりますが、適切に理解していくためには動画シリーズも欠かせないことを伝えておきたいと思います。

※動画シリーズのURLやどういうものかについて書いた記事のURLは文末に載せておきますのでよければご覧ください。

経営者にとって

経営者にとっての弊害について書かれていると思った箇所を抜粋します。

『ミドル・マネジメントの権限を現場に委譲した後は、スタッフ機能(※)が現場をコントロールできるという幻想を捨てなければならない』
※人事、戦略策定、法務、財務、社内の意思疎通、リスク管理、内部監査、IR、研修、広報、環境管理、エンジニアリング・サービス、品質管理、知識管理など。

p121

チームリーダーはほかの人々に行動を強制できないし、一方的にだれかを解雇する権限も持っていない。彼らが権力者としてふるまい始めると、仲間たちが去っていくのである。

p153

自分の判断をほかのメンバーに押しつけることはできず、人々を雇ったり解雇したりする特権もない。

p155

リーダーは、グループの集団的な感覚が、自分一人の感覚よりも優れた回答を導き出せると信じなければならない。

p346

CEOは階層的なトップダウンをあきらめてしまっている。もはや意思決定の権限は自分のものではない。どのような意思決定をすることも、それを覆すこともできない。

p399

進化型組織のリーダーは、自分たちの権限が、助言プロセスを通じてかなり厳しく制限されることを承知しなければならない。自分の考え方がいくら正しいと考えていようと関係ない。その問題に関わるステークホルダーか、それに関する専門知識を持っている人と相談せずに意思決定はできないのだ。

p405

自分が口出ししたいという内からの欲求と戦うことが、おそらくセルフマネジメント組織のリーダーにとって最も厳しい課題だろう。

p408

進化型組織のリーダーになると直面する最も微妙で、おそらく最も難しい変化は、「社員は自分に行動を起こしてほしいと考えているはずだ」という、ともすれば陥りがちな感覚を捨てるということだ。

p409

ホラクラシーのブライアン・ロバートソンは、セルフマネジメント組織の中では、CEOだけでなくだれもがヒーローになれるという事実を受け入れることが、創業以来ずっと自分にとっての課題だったことを認める。

p409

自分のエゴは満たすけれども心には響かないような、また、会社の利益にはなるが存在目的には寄与しないような競争心へと戻らないよう注意しなければならないのだ。

p412

ミドル・マネジメント以上のマネジャーにとって

書かれている通りですが、マネジャーにとっての弊害について書かれている箇所を抜粋します。

大半のミドルシニアのマネジャーとスタッフ部門は(最初のうちは)セルフマネジメントの移行を脅威とみるだろう。少なくとも諸手をあげて歓迎することはないだろう。なにしろ、最低でも自分の階層的組織的な権限を失うはずだからだ。しかも、それまで担っていた役割がすべてなくなるので、組織改編後は、社内か社外で新しい仕事を探さなければなくなる可能性の方が高い。

p453

ある意味で当然だが、自分の権限と仕事が強く揺るがされる(したがって新しい仕組みは自分たちにはまったく理解できない)人々は、組織変革に強く反対する傾向がある。

p453

組織の下位にいる人々にとって

経営者、管理職以外の人にとっての弊害について書かれていると思った箇所を抜粋しています。

組織の下位にいる人々ほどセルフマネジメントにすぐになじみ、積極的に受け入れる。それまでは意思決定をする権限も余地も少なかった人々の多くが、自分たちに合う方法で仕事のやり方を決められるという自由を満喫できるからだ。

p447

指揮と統制におびえる生活をあまりに長く送ったため、上司がいないと生活をうまく調整できない人々がいる。セルフマネジメントは楽なシステムではない。だれもが自分の行動とほかの社員との関係の維持に責任を負うし、不愉快なニュースやトレードオフが発生した場合の困難な選択から逃げるわけにはいかない。自分を守ってくれる上司も、責任を転嫁する相手もいないからだ。セルフマネジメントの自由に伴う責任を背負いきれない人は、従来型の階層的組織へ去ることを選ぶことが多い。

弊害にまつわる私見

いかがだったでしょうか。この抜粋から私が感じたのは、ティール組織であることで「行使できなくなること」に対してもともと価値を感じている方にとっては弊害ですが、もともとそれらのことに価値を感じない方にとっては弊害ではないということです。

ここからは、私が実践者の方々に直接触れる中で感じた対象別の弊害や、本来生まれなくていい弊害が生まれる背景についての考察について書いていきます。

経営者にとって

弊害を感じる主体を経営者に焦点を絞ったとします。まず浮かんだのは、具体的な内容ではなく、弊害を感じる背景・要因についてでした。

もし経営者が感じる弊害があるとしたら、その要因はティール組織そのものへの誤解・理解の浅さから生じる、誤ったプロセスの進め方によって、短期的には顕在意識的にはひどい目にあったと感じるような出来事が起こるというケースを指しているように思えます。

この「誤解・理解の浅さ」とは、ティール組織化を促進していくということは自分自身も変わる必要がある「あり方に影響がある取り組み」として捉え方ではなく、制度や研修を「一方的・道具的に導入すれば変わる取り組み」という捉え方に留まってしまうことを指します。

「一方的・道具的に導入すれば変わる取り組み」として進めていくことで本来感じなくてもいい痛みが生まれるリスクがあるからこそ、「ティール組織」著者のフレデリック・ラルー氏は、いきなり会社への取り組みを始めるのではなく、まずはCEOが1年ほど個人的な内面探究の旅路に出ることを推奨しているのです。

※ティール組織原著者が旅路について語っている動画(日本語訳あります)

また、誤解したまま進んでいった場合であっても、本当に変わりたいと感じている・そのタイミングで変容することになっていたように思える、経営者の方であれば、痛い目だと感じる出来事があってもやり続け、結果としてその人自身のあり方が変わっていくことがあるようです。(私が直接接点のある方の中で3人います)

しかし、割合としては後者の「自身の捉え方を変えることがないまま、うまく機能しなかった」と判断し、別の「やり方」を探しにいくケースの方が多いのように思います。

その場合に経営者が感じる弊害は「効果がなかった」「やめなくていい社員がやめてしまった」「社員に不満が溜まってしまった」「こんなつもりじゃなかった」かもしれません。(最もそれらの弊害自体に気づかない、言い換えれば現場からのフィードバックに意識が向かない方も一定数いるように思います。だからこそ社員の人たちは苦しいのですが・・・)

また、違った観点でいうと取り組んでいる経営者の方々に直接聴いて感じたのは、ティール組織にすることの弊害ではなく、従来型の経営を続けていくことによる弊害(言い換えると個人的な痛み)が大きくなり、限界を超えていたからこそティール組織などのコンセプトに強く惹かれ、取り組み始めたということでした。

こちらについて補足をすると、私がこの4年間で直接見知った範囲・経験の中ではフレデリック・ラルー氏がいうように個人的な内面探究が必要な方もいれば、もともと従来型の経営・マネジメントスタイルが合わなかったが、他の選択肢を知らないから何とかやってきていた中で、やっと自身の感性・価値観に合うスタイルを見つけることができたといって、移行を進められた経営者の方もいました。そのパターンの方は数は少ないですが2022年時点で30代の方だったので、少しは世代と価値観という影響はあるのかも!?と思っています。(いずれにせよ母数が少ないので仮説といえるレベルにもなってないですが)

経営者以外の立場の方々が感じる弊害とは?

経営者の方が「あり方も含んで」「やり方だけとして」いずれのケースでプロセスを進めていったにしても、その中で変化はあるわけです。そこでストレスが増えた人もいますし、今までの不満が噴出し、我慢の限界になったり・いい機会だと思ってやめる人もいますし、適切にティール的な進化が進んでいったことで自分には合わないとなり、やめる人もいます。

しかし、ストレス・不満が増えるということについては内容がティール組織かどうかに関わらず、以前からその会社において自然と生まれてしまっていた歪みと言えるかもしれません。そう思うと、この現象に関してのみでいえばティール組織化を進めることは弊害の主要因ではないように思えます。社員の側からすると経営者のコミュニケーションが弊害となっているように思えます。(実際、シフトを伴走した、とある組織では現場の方が「どういう風になっていくのか分からないけどこれまでも代表のいったことで悪くなったことがないから」と言われていました。この発言は、信頼関係がある証拠だなと感じます)

ティール的組織ならではでいうと、管理職の人にとっては、決裁権・人事権が自分たちだけのものではなくなることがあります。こちらについても人によっては「楽になった」と思えるでしょうし、「自分の拠り所がなくなる」「やりがいがなくなる」と感じる人もいるのではないでしょうか。

このように考えてみると、弊害というよりも合う合わないという領域の話に思えますし、これらはティール組織だからとか関係のない話に思えますね。

さいごに

今回はテーマが弊害なだけに「〜できなくなる」といった表現が多く、重たい印象を持たれてしまったかもしれません。

ですが、大切なことは、正しい方法があるということではなく、ましてやティール組織が正しい唯一の方法ということでもなく、ご自身が感じている痛みは何か?その痛みを生み出している真因は何か?それはどのようにすれば解消していくことができるのか?といった問いを重ねていくことではないでしょうか。

そして、そのヒントがティール組織にありそうだと感じた場合にどのようなものかを知ろうとしていくこと。

これがティール組織との健全な付き合い始め方だと私は思っています。

気になるなぁという方はぜひ和訳本に挑戦してみてくださいね。

オススメ

ティール組織について深めたい方へのオススメを紹介します。

まず1つ目はティール組織の解説者であり、「ティール組織」の日本での第一人者といえる嘉村賢州さんより直接概要について学ぶことができるセミナーです。不定期開催なのですが、ちょうど今のタイミングは募集しているそうなので、気になった方はぜひこちらのサイトをご覧ください。

もう1つのオススメは、文中でも触れたフレデリック・ラルー氏が2018年に公開したビデオシリーズについて書いた記事です。


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