管理職がキャリア理論を学ぶとマネジメントスキルが上がる
先日noteで『管理職にこそ活きるキャリコン資格』という投稿をしました。その中で管理職は実務経験者枠でキャリコン資格を取得しよう、という提案をした。その主張自体は変わらないのですが、資格取得まで、というのはいささか飛躍しすぎたか?と考え今回その間をつなぐ投稿をすることにしました。
キャリコン資格はお金と時間がかかる資格です。
キャリコン資格を得るためにはかなりのお金がかかります。独学をサポートする学科・実技フルサポートの講座で最安と自負する当社対策講座(法人申し込みのみ)でも下表の通り10万円を超える負担が発生します。
また、キャリコン資格は5年毎の更新が必要です。8,000円の更新手数料に加え概ね10万円を超える必須の更新講習を受講します。
このように考えるといくら色々な面で管理職にとって役に立つ資格である、と言ってもなかなか、さあ!取得するぞとはならないと思います。おそらく人材関係の仕事でないと会社負担をしてくれないので、基本自腹です。
管理職に役に立つキャリア理論
「傾聴」「受容」といったスキルについては『管理職にこそ活きるキャリコン資格』で詳しく書きましたので、ここでは管理職に役に立つキャリア理論に絞ってご説明したいと思います。
キャリア理論は元々学生の職業選択の悩みに対応するために生まれました。どのような職業についたら良いか?その答えを見出し、自分自身の適職を探そう、というものがキャリア理論の始まりです。これは、「特性因子論的アプローチ」「パーソナリティ・アプローチ」と呼ばれており、今でもハローワーク等で使われる「VPI職業興味検査」「一般職業適性検査」などの基本にあるものです。
先ほどからキャリア理論と簡単に取り上げていますが、実はキャリア理論には多くの理論があります。それらを全部覚え、キャリア理論の専門家になることが目的ではありませんので、ここでは私が管理職に知ってほしいと考えるキャリア理論を3つ取り上げ説明していきます。
トランジション(転機)の理論(ナンシー・シュロスバーグ)
キャリアアンカー(エドガー・シャイン)
プランド・ハップンスタンス(計画的偶発性理論 ジョン・クランボルツ)
トランジション(転機)の理論(ナンシー・シュロスバーグ)
シュロスバーグの転機の理論は転機を3つのタイプに分けています。
予測していた転機
予測していなかった転機
期待していたものが起こらなかった転機
それらの転機に対し個人は衝撃を受け悩みます。転機は「始まり」「最中」「終わり」の3ステップに層別され、今がどのステップにいるかを知ることが重要になります。
転機を乗り越えるための向きとして重要なのが4Sシステムと呼ばれるものです。
Situation(状況)
原因:このような状況になった原因
予期:予測可能だったか?予測不可能だったか?
期間:一時的ものか否か?
体験:過去に同様の転機を体験し、その時にどうだったか?
認知:状況は好機なのか、危機なのか?Self(自己)
仕事の重要性:いろいろな切り口で見て仕事はどの程度重要か?
バランス:仕事や家庭、趣味、地域などバランスをどう考えるか?
変化:変化へは立ち向かうのか、それとも受け入れるのか?
自信:自分に対する自信はあるか?
人生の意義:人生にどのような意義を持っているか。Support(周囲の援助)
人間関係:必要とする援助受ける人間関係があるか?
励まし:自分を期待し励ましてくれる人はいるか?
情報:転機を乗り切るのに役立つ情報を収集できるか?
キーパーソン:継続的な支援を得られる者はいるか?
援助:実質的な援助を望めるか。Strategies(戦略)
状況を変える:状況を変えるための行動を行っているか?
認知を変える:状況をプラス思考に変えようとしているか?
ストレス解消:リラクゼーションや運動などでストレス解消を図っているか。
では、この理論はどのように役立つでしょうか?私は部下が仕事が上手くいっていない時の相談の際に有用と考えています。ポイントはその悩みの原因になった事象を部下にとっての「転機」として認識してもらい、転機の種類及び4Sの確認を丁寧に話し合います。
そのことによって、部下の悩みは問題に対するポジティブな意識変わり、自分が必要なサポートは何か?そしてそれは誰からどのように得られるのか?ということを自分で見つけるようになります。これは大きな成長につながります。そして、業務上の内容であれば、当然一番の援助者は上司である管理職になります。
このような形で部下の成長と仕事の上での信頼関係を作ることができます。実際にはここまで単純なものではなく、試行錯誤をしながら行うことになります。非常に手間がかかり大変ですが、悩んでいる部下を叱責し、「こうしろ!」と指示をするような管理職とは全然違うことは理解頂けると思います。
キャリアアンカー(エドガー・シャイン)
キャリアアンカーのアンカーとは「錨」の意味であり、キャリアアンカーはその人のキャリアにおいて他に譲ることのできない価値観や欲求のことを指します。それは以下の犠牲にすることができない個人の要素の組合せとなります。
コンピタンス・・・できること(能力)
動機・・・やりたいこと(欲求)
価値観・・・やるべきこと
これらの要素の組合せは以下の8つのアンカーとして分類されています。
1.専門・職能別(TF)自分の技能・専門性を活用できること
2.全般管理(GM)組織の中で、責任のある役割を担うこと
3.自立・独立(AU)仕事を自分のやり方で仕切っていくこと
4.保障・安定(SE)雇用や経済が保障され安定していること
5.起業家的創造性(EC)クリエイティブに新しいこと(会社や事業)を生み出すこと
6.奉仕・社会貢献(SV)社会に貢献したり、奉仕したりすること、
7.純粋な挑戦(CH)解決困難な問題に挑むこと、
8.生活様式(LS)個人的な欲求と家族・仕事とのバランスを調整することとなります。
ここで重要なのはキャリアアンカーは働き始めてから10年ほどで形成されるということです。たとえば23歳で働き始めたとしたら33歳前後でキャリアアンカーが出来上がるということです。このことから、同じ部下の指導をする際に30代の中堅と20代の若手で同じではいけないということです。中堅の場合キャリアアンカーが出来上がっており、その価値観・欲求に縛られていますので、その前提をもって指導する必要があるということです。
例えば、20代では非常に活力あり仕事に熱心に取り組んでいた人が、30代半ばくらいになったら昔のような活発さが消え、どこか仕事に対して批判的な発言が多くなったというような事例が身近にないでしょうか?
この話は私は結構な数の方にしていますが、たいてい、同じじゃないが、似たような経験がある、という答えです。実は筆者自身も過去に全く同じ体験をしており、不思議だったのですが、キャリア理論の勉強の中でキャリアンカーの概念を知り、長年の疑問が晴れたという経験をしています。
管理職として部下の業務を任せる時にこのキャリアアンカーは重要です。非常に新規性の高い、かなりの努力が必要な仕事を「保障・安定」「生活様式」というようなキャリアアンカーを持っている部下に任せたらうまくいくでしょうか?おそらくなかなか先に進まないでしょう。
では、部下のキャリアアンカーをどのように知れば良いでしょうか?当たり前ですが、「キャリアアンカーを調べてこい」などというパワハラ指示はダメです。面談の時にキャリアアンカーについてどのようなものかを説明し、部下が興味を持ったら下記のような診断ツールで自分で調べることを薦めててみると良いでしょう。
なかなか仕事に馴染めず転職を繰り返すので、悩み相談に来訪した主婦にキャリアアンカーを調べてみたらどうかを提案し、自身でやってみたところ自分が向いていると思っていた仕事が自身のキャリアアンカーとミスマッチになっていることが分かった、というような事例がいくつもあります。その主婦の方は次の転職後は非常に仕事にフィットし忙しいけど幸せなキャリアを送っています。。
プランド・ハップンスタンス(計画的偶発性理論 ジョン・クランボルツ)
最後は私自身が学んで一番感動した『計画的偶発性理論』です。この理論は「キャリアというものは偶然の要素によって左右されるものが多く、偶然に対してポジティブなスタンスでいる方がキャリアアップにつながる」というものです。
これはポジティブに目的をもって動くことで自分にとって望ましい偶然に出会う確率が高くなる。という考えでもあり、悩んでネガティブになっている部下との面談で役に立ちます。
計画的偶発性理論は成功体験者へのヒアリングを中心とした調査の結果導かれた以下の3つの考え方に基づいています。
個人のキャリアの8割が、予想できない偶然の出来事によって左右されている。
偶然の出来事を本人が主体的に活用することで、キャリアアップにつながる。
ただ偶然が発生するのを待つのではなく、意図的に生み出せるよう積極的に行動することが大切である。
そして、その考え方を理解した上で以下の5つの行動指針を持って活動することを提案しています。
①好奇心
何事においても好奇心を持つようにする
②持続性
持続性を持って粘り強く物事に取り組むことが大切
③柔軟性
環境が変わる機会があれば柔軟に自分を変化させ、その環境に対応させていき、どのようなういった環境においても自分を見失わない。
④楽観性
世の中には自分の力の及ばない範囲で生じる問題も多くあるため、時には楽観性を持つことも重要。
⑤冒険心
未知の事柄にも積極的にチャレンジしていく冒険心もとても大切。
人は困難にぶつかったり、悩みを持つと思考・活動が止まってしまう場合があります。そのような中でポジティブにアクションを続けることが大切という考えがこの理論です。
管理職、上司の立場に立てば現在の部下の困難や悩みというのは大したことではなく、悩む必要がないものと感じることも多いと思います。そのような時に「そんなことは大したことではないから心配するな」ということは部下の成長に役立つでしょうか?
それよりは、「頑張っていれば必ず結果が出るから、できることを頑張ろう」と支えてあげる方が部下の奮起、頑張りにつなげることになり良いのではないかと考えています。
まとめ
本稿では管理職の方に役に立つキャリア理論として3つのキャリア理論を取り上げました。書き始めたところあまりにボリュームが多くなってしまったため、それぞれの理論も表面をなぞる程度になってしまいましたが、キャリア理論を学ぶメリットを少しでも理解いただれれば幸いです。
理論の使い方はここでは部下への指導という切り口で説明していますが、これら3つのキャリア理論は管理職である自分自身にも大いに役に立ちます。また、会社組織という切り口で見た時にも色々な気づきを与えてくれます。
これらについては稿を改めたいと思います。長文を読んでいただきありがとうございました。
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