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【往復書簡/6通目】冬の気配を感じながら、夏の名残を味わって

いがらしさんへ

札幌は、あっという間に秋になってしまったよ。外でも、家の中でも「あ、寒い」と思う瞬間がでてきて、まあ、ここだけの話、思わずストーブをつけてしまうことも増えてきています。ストーブが冬の象徴だとしたら、もう冬が始まりつつあるとも言えるかな。少し前に、アイヌの人たちが、1年を夏と冬のニ季と捉えていることを知って、最初は驚いたんだけど、実際の肌感覚に素直になれば、確かにそうだなと納得しつつあります。栃木はどんな感じかな?さすがにまだストーブは登場しないよね。

いただいたお手紙では「北海こがねのヴィシソワーズ」ごちそうさま。いくつか植えてみたジャガイモの品種のひとつが、高校時代にフランス料理店で食べて感動したヴィシソワーズにぴったりだと気づくなんて、ドラマチックだよね。料理をつくる時間は長くて数時間でも、野菜を植えて収穫するまでには数ヶ月。そして、かつて食べた料理を自分で再現するまでに何十年。いがらしさんらしい、泰然とした時間の流れ。そしてやっぱり、食卓には、いろんな時間が重なりあうものだな、と思ったよ。

こちらは、11月頭に関西へ引っ越すことが決まって、ここで暮らすのもあと1ヶ月くらいになりました。ちょうどその頃には、スーパーのご近所野菜の売り場からは、完全に緑色が消えて、茶色い世界に変わってしまうはずで、終わりゆく地場の野菜と去りゆく自分を重ね合わせて、よりセンチメンタルな気分になりそう(冗談です)。

少しずつ寂しくなっていく畑の姿を想像していたら、札幌から3時間くらい車で南下した、せたなという町にある農園のことを思い出してね。その名も「シゼントトモニイキルコト」というオーガニック農園なんだけど。以前、夏の盛りに訪ねたときに「ぜひ、一度秋の畑も見に来てください」と言われたけど、結局行けてなかったなあと。それで、今の畑の姿がわかるような詰め合わせを送ってくださいってお願いして、野菜を送ってもらったの。

入っていたのは、トマト、ナス、ズッキーニ、万願寺とうがらし、キュウリ。夏がまだ続いているみたいなメンバーだけど、今日の朝食に食べた、フライパンで焼いたズッキーニには、とろけるような身質の中に、種の存在を少ししっかり感じて、ああ、もう名残なんだなあ、と思ったよ。旬の盛りの野菜には、はちきれるようなパワーがあるけれど、走りには走りの、名残には名残の特徴があって、そこに食べる側の気持ちも重なって、それぞれの味わいになるんだなと思う。

今回、いがらしさんに食べてもらいたいなと思った一皿は、送ってもらったトマトと万願寺唐辛子をしっかり焼いてあえたもの。私の大好きな簡単料理で、夏の間に何度もつくるんだけど、やっぱり少し水分が抜けて、でも短い夏の間にためこんだ味が凝縮してくる、この時期につくるのが、最高なんだよね。

しかも、この「シゼントトモニイキルコト」の野菜は、すごくくっきりとした味がするから、なおさら。派手さはないんだけど、個性を感じるっていうか、芯のある味なのよ。笑 自家採種をくり返すことで土地にあった種にしていき、その種を本来の生態系のシステムを最大限生かしながら育てると、こんな野菜になるのかと、食べるたびに納得する。

そんなやりかたで農園を経営するのは、苦労も多いだろうと思うけど、関西に引っ越してもまた、そういう農園に出会えたらいいなと思っています。やっぱり、その土地で採れたものを食べるのが、一番美味しく感じると思うんだよね。

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「トマトと万願寺唐辛子のソテー」

それでは、どうぞ召し上がれ。

みやう

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