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前田裕二氏が語る、自分の心が動くこと、人の心を動かすこと、そこに”夢中“の種がある(聞き手:漆紫穂子氏)【ライフイズテックJAM2024レポート】

ライフイズテックが2024年6月に開催した、次世代躍動社会づくりを目的とした教育カンファレンス「Life is Tech ! JAM 2024」。

今回は、「Life is Tech ! JAM 2024」から、SHOWROOM株式会社 代表取締役社長・前田裕二氏と品川女子学院 理事長 漆紫穂子氏に登壇いただいた「起業家・前田裕二大解剖ー新しい時代を拓く”夢中”のススメ」のセッションの模様をお届けします。


現代人は「自分が必要とされている!」という実感を求めている

 まずは簡単に前田さんのお仕事のことをご説明いただきたいと思います。

前田 YouTubeライブ配信のいわゆる投げ銭(ギフティング)のような、視聴者が配信者にダイレクトに課金をして、表現者やクリエイターの方を応援できる仕組みを運営しています。我々は10年前にこのギフティングモデルを最初に立ち上げました。長い間こういった仕組みは日本にはなく、当然法的な整備もされていなかったし、立ち上げにあたっては圧力もありました。いろいろなハードルを乗り越え、行政とも連携をとりながら、何とか仕組みを作ってきたと自負しております。

漆 クリエイターやアーティストの居場所を作るようなビジネスだと思って拝見しています。

前田 そうですね。現代では、「自分が誰かのために何かの役割を果たせている」「必要とされている」という充足感を得るために仕事をしている人がすごく多くなっていると思います。そういう人が「必要とされている」ことを強く感じてもらえる場を作るのが、僕らのコアバリューと考えています。それから、彼らを応援している人にも、「この人がもっと上にいくためには自分の応援が必要だ」と感じてほしいし、そういう仕組みを作ってきました。僕は「夢中」という言葉が好きです。人間は、自分の夢の中にいるときだけでなく、もう一つ、誰かの夢の中に入っているときも夢中になれるんですよ。
そうやって、「社会から必要とされる」ことを、人の心の中にしみこませていきたいと思っています。それが世界全体の幸福度とも関連していると思いますし、そんな手法で孤独を解決するサービスを作りたいです。

駅前で歌ってお金を稼いでいた子ども時代、通行人の心を動かす仕組みとは

漆 前田さんが、幼少期からどのようにして現在に至ったのか、お話しいただけますか。

前田 「なぜギフティングサービスを手掛けたのか」につながるのは、よくお話させて頂く事があるんですが、11歳ぐらいから駅前で歌ってお金を稼いでいた経験です。8歳の頃に両親が亡くなり、経済的に厳しかったので、お金を稼ぐ方法をいろいろと試していました。しかし、最終的に、1番上手くお金を得られる方法が弾き語りでした。

歌を歌い始めた当初は、うまく歌えばみんなが立ち止まってくれると思っていたのですが、誰も近付いてくれませんでした。やがて、「コミュニケーション範囲に引き入れることが重要」だと気付いたので、小学生なのに吉幾三を歌うなど、人が「なんで?」と思うようなことをして、話しかけてもらうようにしました。知らない歌をリクエストされたら、チャンスです。「じゃあ何日にまた聴きに来てください」と、相手の手帳にまで書くんです。そして1週間練習して、披露します。ほとんどの人はもう一度来てくれました。僕の歌がうまいかどうかは問題ではなく、「1週間練習してくれた」ということに価値が生まれ、お金を払ってもらえたんです。

漆 すごい。前田さんは、まず行動するし、システムを考える方ですよね。

前田 現実世界から何らか法則性を見出した上で、そこから独自のシステムに落とし込んでいく作業が好きです。科学的に考えるというか、物事を抽象化することがとにかく好きなんです。あの時やっていたことを15年後ぐらいにネットに置き換えて立ち上げたのが、SHOWROOMです

 幼少期から、「応援したい!」と人に思わせるようなコミュニケーションを身に付けていたことも、いまの仕事にも続いているんでしょうね。

前田 確かにそうですね。メタ視点というか、相手側から見たこちら側はどう見えるのかという想像力がないと、結果を出そうと思っても客観的な手がなかなか打てません。そこはとても大事にしています。

SHOWROOM株式会社 代表取締役社長・前田裕二氏

『メモの魔力』が伝えたいこと――周囲の事象を抽象化して行動に転用する

 『メモの魔力』に書かれている「メモしたことから、抽出して、仕事などに生かす」ということを、ぜひ皆さんにシェアしていただきたいのですが。

前田 一言で言うと、『メモの魔力』は頭の使い方の本です。現実のいろいろな事象を抽象化して、自分がやるべきことを見出し、そして行動する。そういうステップを踏むことについて書いています。ではどこから何を抽出して抽象化するのかというと、大きく分けて三つです。

一つは、自分の心に刺さったことを言葉に出してしまうことです。例えば映画を見終わったら、「おもしろかった」で終わらせず、何がどうおもしろくて自分の心が動いたかを抽出するのです。

二つ目は、世の中の心が動いていることです。流行っている曲がなぜ人の心を突き動かしているのかを突き詰めていくと、例えば、最近の曲はイントロがなくていきなりAメロから入る、ということに気付く人もいるでしょう。なぜイントロが要らないのかというと、「時間がないのでサクっと曲を消費したい」という言語化されていない隠れたユーザー心理がそこにあるのかもしれません。こうして自分が曲を作る時にもより短く早く美味しいところを聞かせる曲にしなきゃ、など、自身の行動にも具体的に転用していきます。

三つ目は、失敗している事例です。うまくいっていることからはやるべきことを決めますが、うまくいってないことからはなぜうまくいっていないかを抽出し、「やってはいけないこと」を決めるのです。自分のことでも他人のことでも、失敗から抽出することはすごく大事です。失敗は、うまくいく確率が上がるための、何かしら体系化されたルールが導き出せるチャンスなんです。

組織の中でも、ミスした人に「ミスしてくれてありがとう」と言っています。とはいえミスは貴重なリソースを消耗するので、なぜミスしたのか、次はどうすれば成功する確率が高くなるか、きちんと言語化させるところはかなり厳しく追及します。その精度が高まっていく過程が、まさに事業を成功させることの要諦ではないでしょうか。起業家は、「失敗が大好き」という特徴があります。失敗したときに「このヤロウ!なにくそ!」と奮起して、それをエネルギー源にもう一度頑張れる人が多いと思っています。

『メモの魔力』と歌人・俵万智の歌にみる「日常の抽象化」

前田 僕は歌人の俵万智さんが大好きです。これ、恐らく皆さんの前でお話しするのは初めてですね。「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」という歌がありまして、俵さんは後にSNS上で、「今は「いいね」の数を競うような風潮があるけれど、これはたった一つの「いいね」で幸せになれるという歌です」とおっしゃっています。たくさんの「いいね」を得ようとして、目の前の人から日常の中でもらった小さな「いいね」を忘れていることがあると思います。

「日常は油断ならない」という俵万智さんの言葉通り、僕らは日々ささいなことに実は心を動かされているのですが、人の心は「沈殿しやすい」性質があり、よくかき混ぜないと、上まで上がってきません。僕は、心の底に沈んでいるものを覗き込んだりかき回したり引き上げたりして、「何に心が動いたんだ?」と徹底分析するのが好きで、もはやそうした解釈作業が趣味です。でも、この”心の沈殿しやすさ”の性質を皆さんあまり理解していないと思うんです。「自分の心のことは自分で分かっている」とつい勘違いしてしまう。けれど、まずは心に向き合って、自分自身のことをもっとわかってほしい。自分がどんなことに感動するかを理解してほしいのです。

 生徒から「好きなことが見つからない」「人と比べて自分は優れていない」という悩みを結構聞きます。そういうときは、心が動くことや、逆に好きではないことを見つめていくのがすごく大事なのだと、お話を聞いていて思いました。自分の中に目が向かなくて悩む子が結構いますね。

前田 俵万智さんの歌の中で、「疑わずトラック駆けてくる一人 すでにテープのないゴールまで」という歌があります。運動会などの徒競走で、1位がゴールしてしまった後も、後続の子たちはテープのないゴールを目指して走るでしょう。周りと比べられる戦いに負けたとしても、自分の戦いには負けない。自分が走る決めたトラックは絶対に最後まで全力で走りきる。そうした自分と戦う気持ちの尊さを表現しているのかなと感じています。そういう感性で生きていきたいですし、「あなたはあなたの走りを全力ですればいい」と伝えていきたいとも思いました。俵さんによると、日常で心が動いたことから短歌が生まれることと、アボカドの種が出ることはよく似ているそうです。じっと睨めっこして待っていても中々出てこないけれど、一回肩の力を抜いて、気楽に生きていく中である日、何気ない日常の中から、言葉がポンと出てくるそうです。こうした心の動きから歌をつむぐ短歌の工程も、非常に抽象化力が鍛えられそうだなと思いました。

“夢中”とは、小さな「できる!」を重ねた先にあるもの

前田 皆さん、「夢中」とは”will”つまり「やりたい」事や意思から来る、と思っている方が多いです。しかし、僕は、”can”つまり「できる」という感覚がまず先に来るもの、と考えます。そして「できる」が積み重なっていって、いつかあるタイミングで、”will”に変わってくるのだと思います。だから、「夢中になれることがない」という悩みに対しては、「やりたい」を見つけるのではなく、ささいなことでも「私にできるかもしれない」ものを見つけてあげたいですね。では、どうやって子どもたちの「できる」感覚を見つけていけるでしょうか。僕はそこを科学的に考えていきたいですし、これはまさに漆さんの専門領域だと思うのですが。

漆 できないことができたらやる気が出ることはあるのですが、ただ、目標が大きすぎて行動する前にくじけてしまう生徒は多いですよ。だから、チャンクダウンといって、まずは目標を細かくして、小さなことで「できる体験」を積み重ねていくんです。

品川女子学院 理事長 漆紫穂子氏

前田 なるほど、高すぎて届かないところにはしごをかけてあげる感じですね。
最初にお話した「誰かに必要とされる場を作る」も、”can”と紐づいています。「私も人に必要とされるスキルが発揮できているのだ」という感覚を持ってほしいです。そこから、「もっと必要とされたい」、そして「自分を応援してくれる人たちのために、恩返ししたい」というwillが生まれてきます。僕らは、「たった1人が見てくれる、言葉をかけてくれる」という小さな“can”から始めて、それを”will”に変えていくことをやっていきたいと思っています。

AI時代、“心の動き”に気付けるかどうかがカギ

 最後に、AI時代に生きる人間には何が必要か、お聞かせください。

前田 予言しておきたいのが、AI時代は知能を使う仕事を殆どしなくて良くなる、ということです。すなわち、人間の労働は、知的労働から感情労働へ移行します。産業革命以前、人間は農業などの肉体労働を中心にしていましたが、工業化によって機械が労働してくれるようになり、時間的な余裕が生まれ、頭を使う仕事が発達しました。そしていま、AIが急速にこの知的労働を担うようになっています。この後に来るのが感情労働、人の心を動かす仕事だと思います。しばらくは人の心を動かせる人がより活躍するでしょう。しかし、これはすごくほっこりする結論に聞こえますが、人間がサボっていると、感情労働すらAIに奪われる可能性があると思います。でも、AIにできない、人間にしかできないダイナミックな感情労働はあると信じていきたい。
では、どういう人が人の心を大きく動かせるかというと、それは、逆説的に、「自分の心の動き」をきちんと観察している人、そしてその動きの理由を深く考察して言語化できる人だと思います。人の心を動かすなら、まず自分の心から。意外と、目の前にあるささいなことに幸せは眠っていますから、自分の心のひだの本数を増やして、心がすぐに動くようにしておいてほしいです。感動屋さんこそが人を感動させると思います。自分の心を沢山動かし、それをエネルギー源にして、今度は自分以外の誰かの心を動かす。AI時代において、自分を沢山感動させてあげることが一番大事なことだと思います。


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