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【ショートストーリー2】特別な人間になれると思っていた

※この投稿は、キャリアに悩む主人公を描いたショートストーリーです。


日課は、月額を払って入会しているオンラインサロンの記事を読むこと。

Newsアプリも有料会員だし、自分を高めるための投資は社会人になった頃から続けている。

親には自慢できるくらいの企業には勤めていて、給料も悪くない。


ただ、、気づいたら来年30歳。

本当は、もっと特別な人間になれると思っていた。


たとえば、自分が読んでいるオンラインサロンを主催する側のような。

そこまではいかなくても、業界ではちょっと名が知れてるとか、SNSのフォロワーがちょっとすごい人数になってたりとか。

少なくとも、こんなに憂鬱な気分で朝会社に向かっているような人間ではなかった。


そんなことを考えながら歩いていたら、人にぶつかりそうになった。

スマホを見ながら歩いていたのは向こうなのに、すれ違いざまに「チッ」と舌打ちされる。朝からモヤモヤさせられる。


いつか特別な人間になれると思って、20代はガムシャラに頑張った。

手を抜いてきたとは思わない。

だけど、今の僕は何の変哲もないサラリーマン。

みんなと同じことを、みんなと同じようにやっている、歯車のひとり。

自分の人生、どこに向かっていくんだろうか…。



挑戦と挫折


もちろん、ただ指をくわえてその場に居続けたわけじゃない。

「これからの働き方」というようなタイトルのセミナーには、有料のも含めていくつも参加した。刺激的な人にも沢山出逢えた。


独立している知り合いに話を聴いて回る、というチャレンジも3年くらい前にやった。

50人に聴く!と意気込んでいたけど、8人目が終わったところで挫折した。

途中でなんのためにやっているのか分からなくなったから。


このままじゃダメだと思って、実際に転職エージェントに相談したこともある。なるべく愚痴にならないように、転職したい理由は気を付けながら伝えた。

紹介された求人票は30枚くらいあったけど、正直どれもピンとこなかった。

自分の経験を活かせる場所といっても、結局どの会社に行けば今のこのモヤモヤから抜け出せるのかが分からなかった。


そんなことをしている間に、僕は30歳になろうとしている。

誰が言ったか、「30歳の壁」というものがあるらしい。

30歳過ぎたら新しい場所にはチャレンジできないのか?

そんなこと、誰が決めたのか。


だけど、僕は今その「壁」に焦っている。

どうすれば、この可能性を感じられないルートから降りられるのだろう。

「自分は、理想の未来に向かって進んでいる」

この実感が欲しいだけなんだよ。



上司


会社に着いたら、上司の上田さんから昨日の仕事のことでぐちぐちと不満を言われた。

たしかに自分の不注意だったけど、あなたの管理責任は?

そんな邪心が湧いたけど、黙って聞いた。


ついでに、「ご指摘ありがとうございます。こんなこと言ってくれるのは、上田さんだけです」と一言、付け加えておいた。

今朝読んだオンラインサロン「上司の使い方」に書いてあったことだ。

上司は持ち上げておけ、と。


こんな自分が時々嫌になる。

うまくいきそうなやり方を見つけては、それを使って卒なくこなす。

沢山学んだかいもあって仕事はそこそこできるようにはなったけど、なんのためにこの仕事をしているのかは、もう忘れてしまった。


上田さんは「まず課長を目指せ」というけど、なりたくない。

この会社のなかに、僕が目指したいと思える場所は見つかってない。

なんだか、自分は何者なのか、それすら分からなくなってきた。



一番の理解者


会社からの帰り道、すっかり暗くなったいつもの道を歩く。

今日は結局、一日中モヤモヤしていた。

「自分は何者なのか?」

そのことばかりが気になっていたから。


嫌いじゃない会社で、辛すぎない仕事をして、悪くない給料を貰う。

そこそこ楽しい土日を経て、またそこそこの平日に戻っていく。


このサイクルをまわしている自分。

人はこんな自分を観て、どう思うんだろうか。


ブツブツ言いながら少し前に目をやると、誰かが落としたのだろうか、有名チェーン店の包み紙からはみ出したハンバーガーが落ちていた。

立ち止まってぼーっと眺めていると、少し太ったネコが茂みから出てきて、おもむろにそのハンバーガーを食べだした。


いつもこの通りにいる、ずうずうしい三毛猫だ。

他のネコは見かけないから、この辺はこいつの縄張りなのかもしれない。

人にも慣れているし、いつも誰かに触ってもらっている。


当然僕が近づいても、逃げない。

僕は近くにしゃがみ込み、その猫を撫でる。


「お前はいいよなぁ、、好き勝手に生きてて」


そうつぶやいた瞬間、しかし同時に心のなかで呟く。

「別に俺も、本当は好き勝手に生きたらいいんだよな。」


すると何かのスイッチが入ったかのように、

僕の頭のなかは一気に整理され始めた。


本当は分かっている。

自分が特別な人間になれていないのは、会社のせいでも上司のせいでもない。

ましてや、自分の能力がないからという理由でもない。


ただ、大事に持っているものが間違っているだけなのだ。


頑張って入った会社。

努力して積み上げてきた経験、スキル。

入社した時よりもだいぶと増えた給料。

今周囲にいる人たちからの信頼。


自分が積み上げてきたものが、自分の挑戦を阻む足かせになっている。

いや、正確に言えば、僕自分がそれを「守りたい」という選択をしているだけなのだ。


たしかにお世話になっているし、恩返しも仕切れたとは思えない。

今いる人たちと離れることになったら、それはそれで寂しい。


だけど、人は全部のモノを一度に持つことはできない。

何かを空けないと、何かは入ってこないのだ。


少なくとも、自分の気持ちが入っていない今の状態ならば、その場で気の入っていない仕事をしている方が、上司や仲間、お客様に対して不義理かもしれない。

そろそろ、勇気を出さないといけないように思えた。


「俺も、いつまでも逃げてちゃダメだよな、自分の本心から」

ネコは「知らん」と言いたげにハンバーガーに夢中になっている。


「いつまでも外から与えられる正解に頼ってちゃだめだ。自分で考えて、自分で決めないと。」

そう思った僕は、オンラインサロンを開くと「今までありがとう」と心のなかで呟きながら、すぐに『解約』のボタンを押した。


正解を外に求め続ける生き方に、本当の満足はない。

自分が一番、自分の理解者になってやらないとダメだ。

これからは自分の声を、たくさん聴いてやろう。


「ありがとな!」

なんだかワクワクしてくる気持ちを押さえられずに、そう伝えた。

ハンバーガーを食べ終わったネコは、また「知らん」と言いたげに茂みの中へ戻っていく。

その茂みのなかに、間もなく開花を迎えそうな桜の木が1本、誇らしそうに立っていた。






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