プレゼンテーション1

ポジショントークと闘え日本人|カルロス・ゴーンが幕開け、2020年代は自己主張の時代

カルロス・ゴーンの脱走劇とレバノンでの会見、複雑な思いが入り混じる。海外のメディア間でも賛否両論あるようだが、海外の友人に聞くところではカルロス・ゴーンへの共感の声が高い。

一方で日本、かの日産はだんまり、法相の会見も迫力に欠く。改めて海外のエグゼクティブのプレゼン能力の高さ、いや、その根底にある「オレ一番」の自負心と自信は良くも悪くもスゲェなと思う。

今、日本企業と外資の混血のような会社にいて感じる。多くの海外の企業は、優秀なコントロールセンタ(心臓部)と部品で構成されたロボット。一方の日本企業はまさに人間。それぞれの機能が有機的に関連し合って動いているイメージ。

海外の企業の場合は、ロボなのでコントロールセンタが「明日からこのロボはレギュラーガソリンではなくハイオクで稼働します。ハイオクに対応できない部品は交代します」というのが日常。つまりレギュラーガソリン対応の部品(人または組織)は即日クビにされる。

日本の企業は、ガソリンではなく血液で動いている。A型、B型、O型、AB型と会社によって血液型がある。その血を無理に入れ替えようとすると会社が壊れる。人間の身体のように、各機能が複雑に相互依存の状態のため、一部の機能だけの交換が難しい。

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海外だと、日本のいわゆる経営企画部のような幹部の代弁者であり調整役の機能が存在しない場合もある。幹部やリーダーが、自らの言葉と行動で事業を推進している。それは当然ながら良い面も悪い面も両面存在する。上述の例のような明日からいきなりハイオクと言った大胆な改革が推進しやすい反面、一部の人間にパワーが集中するため、日産のカルロス・ゴーンのような状況が発生しやすいように思う。

実感するのは、海外のリーダー層の、そのパワーへの固執は我々が想像する以上に凄まじい。幹部会議もパワーを誇示するための意見のぶつかり合いで、物凄いエネルギーが消費されている。大事な論点は「客は誰」であり「その客を最高に満足させる」ことだが、実際内部では客は二の次で、レギュラーガソリン派とハイオク派で「オレオレ」ポジショントークで終始していることが間々ある。

ただ、きちんと白か黒かはっきり決めるし、決めた後の推進力も強い。日本のように身体に異物を取り込もうとしたときに、他の身体の機能との調整や異物を取り込んだらどうなるかのシミュレーションに終始してなかなか決まらない状況とは異なる。しかしそれもデメリットばかりではない。日本人は会社のアイデンティティと自分自身を重ね合わせる傾向にあるので慎重であるのは仕方がないし、こうした長いシミュレーション・プロセスを通じて身体の各機能が「俺って誰」(アイデンティティ)を再認識・再定義し共通認識を持ち、その結果身体がより引き締まる。

2020年代は、帝国のような企業と戦うために、M&Aや企業アライアンスも活況になるはずだ。M&Aやアライアンスを組む過程でカルロス・ゴーンのような人間と相対し「オレ一番」問題に直面する企業、というかその渦中に取り込まれて頭を悩ませるビジネスマンが急増すると思う。「オレ一番」の海外リーダーには、「私たちの戦う相手は帝国のような大企業であり、そういう会社よりもお客さんを満足させることだよね。共闘しよう」という建前は通用しない。早速マウンティングの世界であり、相手はコントロールセンタの主導権を握ろうとしてくる。「オレはレギュラーガソリンだ。お前は何だ」とまず問われる。

大事なのはそこでレギュラーだのハイオクだのと答えないことだ。相手のポジショントークのペースに乗ってはいけない。「俺はA型の人間だ」と主張しないと、マジで死ぬ。「俺は人間だ。お前とは違う。俺たちの客を満足させるために、お前も人間になるか、一緒に人型ロボットを目指すか」と議論の主導権を握らないといけない。それは恰もポジショントークのぶつかり合いのようであるが、そうではない。主張をするときに、ちゃんと論点を設定しAかBか問い、次のアクションに繋げようとすることが重要だ。

仮にロボの世界観に合わせるのだとしたら、コントロールセンタの中枢を死ぬ気で目指し「俺は軽油だ」と主張し続けないと、無駄死にする。レギュラーガソリンのロボの部品になったらゲームオーバー。もう二度とコントロールセンタにたどり着けない。

ロボはマジで強い。ゲームのルールを定め、燃料の種類を先に決めるためにメディアを使ったり、オピニオンリーダーを押さえたり、何でもしてくる。今回のカルロス・ゴーンの動きもまさにそうではないだろうか。特異な例ではなく、グローバル・ビジネスの現場ではガチで日常風景。

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「オレ一番」に負けないように備えないといけない。いや、本当は海外の経営者は「オレ一番」ではなく、真の人格者ばかりだと思うが、実現場ではどうも人格者ばかりではなく、B級も紛れ込んでいるため、こういう輩に食い物にされないように、だんまり決め込んでただヘラヘラするのではなく、幹部会議で罵倒し合うような環境でも生きていけるように、自分の意見を磨き、人を見極める力を養わないといけない。

人間のままいるか、ロボのコントロールセンタを目指すか、この二択になるが、いずれを選択するにしても絶対に譲ってはいけない。実例としては、権限と責任、ここをきちんと押さえることだと思う。日本はいつもここが曖昧な気がするのだが、オセロの四隅を取るようなもの。そして人事権。トップだけはなく、ちゃんと身体の隅々まで主要な機能(ポスト)を押さえられるように徹底する必要がある。仮にロボ型なのだとしたら、コントロールセンタの操縦席。大した議論も経ず簡単に人事を譲っちゃったりすることがあるのだが、本来は椅子と床にボルト打ち込んで真に会社を任せられる人物が現れるまで席を守り続けないといけない。

かく言う自分も悔しい思いをたくさんしたことがあり、この辺は経験とセンスがないと対応が難しいのも事実。素晴らしい日本企業が食い物にされて欲しくない。2020年代は私たちがビジネスのルールを決められる時代にしないといけない。それそれは私たち一人ひとりの信念と粘り強さにかかっている。

<参考①>
ポジショントークの回避と突破法
<参考②>
切り口は違うが、本質に迫り文化的差異をよく理解できる良記事


いつも読んでいただいて大変ありがとうございます。