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クリスマスが二度やってくる街

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コルカタの中心地パーク・ストリートで、イルミネーションが燦然と輝いている。いよいよクリスマスだ。もちろんコルカタには多くのクリスチャンが住んでおり、教会が数多く点在している。歴史的に貴重な教会も多く、18世紀に建設されたオールド・ミッション教会(Old Mission Church)、セント・ポールズ大聖堂(St. Paul’s Cathedral)、セント・ジョーンズ教会(St. John’s Church)は非常に有名である。特に、セント・ポールズ大聖堂はネオ・ゴシック建築で、白亜の姿が眩しい。観光客が必ず立ち寄る有名な観光スポットである。震災で倒壊した後に再建された塔は、高さ約60メートルもあり、圧倒的な存在感がある。

セント・ポールズ大聖堂(St. Paul’s Cathedral)©2012 Liem

一方、新古典主義建築のセント・ジョーンズ教会は、街中の喧騒にあるオアシスのような場所である。屋内の装飾は素朴で美しく、ステンドグラは息を呑むほどのまばゆい光を放っている。当時、建材に石が用いられることは珍しく、約350kmも離れたゴウル(Gaur)の遺跡から石材を調達し、フーグリー川を下って運ばれてきたといわれている。これらの教会はイングランド国教会の人々、アングリカン(Anglican)によって支えられたものである。12月24日のクリスマス・イヴの夜には多くのクリスチャンが訪れ、日付が変わるまでミサが開かれる。

セント・ジョーンズ教会(St. John’s Church)©2012 Liem
セント・ジョーンズ教会(St. John’s Church)内部©2012 Liem
セント・ジョーンズ教会(St. John’s Church)ステンドグラス©2012 Liem

しかし、翌月の1月になってもコルカタにはクリスマスがやってくる。

1月のクリスマスは1月6日。この日にクリスマスを祝うのは、コルカタに住んでいるアルメニア人だ。コルカタは、インドで最も多くのアルメニア人が住んでいる街である。その数、およそ200人。古くは紀元前4世紀のアレクサンダー大王のインド遠征時からアルメニア人とインドの繋がりはあったといわれているが、12世紀頃からアルメニア商人らがインドを訪れ、16-17世紀初頭には貿易や布教などを通して、多くのアルメニア人がインド各地に拠点を広げていった背景がある。今でもインドのあらゆる場所に彼らの教会や墓地を見つけることができる。コルカタに住むアルメニア人の中には、何世代もコルカタに住んでいるため祖国を訪れたことがなく、「インド人」としての意識のほうが強いと語る人もいる。彼らの宗派であるアルメニア正教会は、コルカタでもしっかり根付いている。コルカタ市内には3つのアルメニア教会が残っている。

トリニティ正教会 The Holy Trinity Armenian Church of Tangra (1867年設立)©2012 Liem

最も古いナザレス正教会(Armenian Holy Church of Nazareth)は、1707年の焼失後に再建された教会だが、前身の教会は1688年に建設されている。つまり、前述のアングリカンの教会よりも歴史は古いということだ。コルカタに住んでいるアルメニア人は、独自のユリウス暦(Julian Calendar)に従って、毎年1月6日に教会に集まってクリスマスを祝う。キャンドルに照らされたイコンの前で、宝冠と光沢のある白い祭服を纏った主教の言葉に耳を傾ける。12月のクリスマスのミサとは違った趣を感じることができる。

1年にクリスマスが二度やってくるコルカタ。西方教会と東方諸教会のクリスマスに出逢える貴重な街なのである。

パーク・ストリートの夜景©2012 Liem

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