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住民と保護者、保育者が一体となって行う、子どもたちが育ちゆく環境づくり|たんぽぽ幼児教室

今回お邪魔したのは、西東京市のひばりが丘団地内にあるたんぽぽ幼児教室。園庭で虫取りや泥遊びをしたり、園内外で平均台や遊具で身体を目一杯動かしたり、都内では日常的に体験するのが難しいのびのびとした活動を楽しんでいた。そして園内には保育者のほか、数人の保護者が集まってさまざまな話し合いや支援をしている姿が見られた。そんなたんぽぽ幼児教室の成り立ちや想いについて、同園を運営するひばりが丘団地自治会の幼児教室部部長の平賀千秋さんにお話を聞いてきた。

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父母による子どもたちの健やかな成長への願いから始まった、保護者、保育者、自治会の三位一体となった園運営

子どもたちののびのびとした姿とあわせて、たくさんの大人が出入りしている様子が印象的な同園は、幼稚園教育を行うことを目的に認定されている幼稚園類似施設。幼稚園との大きな違いは幼稚園には経営者がいるのに対して、保育者と保護者、そしてひばりヶ丘団地自治会幼児教室部が協力し合い自主運営しているという点だ。
「そもそもの始まりは昭和30年代後半。当団地に暮らす父母が集まり、集会所等で子どもの集いをしていたことに遡ります。園児が増える中で、保育や幼児教育の専門性を持った保育者や園舎の必要性が出てくる中で、園舎建設の費用をバザーや廃品回収などによって工面しました」。
現在世界的にも有名なレッジョ・エミリアの幼児教育のはじまりのエピソードと重なるとこを感じた。レッジョ・エミリアでは第二次大戦後、子どもたちの未来のために街に残った戦車などで資金調達をし、父母たちが園舎を建設したという。

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同園は現在も行政による財政的な支援を得ず、保育者と保護者、自治会が協力し、方針を決めていくことのできる自主運営という形をとってる。こうした運営体制の中で平賀さんをはじめ、三者は何を大切に運営しているのだろうか。
「私がこの園に関わるようになったのも、実は園児の保護者という立場が最初でした。多くの大人が協力し合いつくっている環境の中で、子どもたちの個性やのびのびとした育ちを見守るあり方に共感し、自治会幼児教育部の代表者として脈々と受け継がれてきた大切なものを守っていきたいと思っています」。
半世紀以上、自主運営という形での歴史を持つ同園。そこで時代が変わっても変わらずに大切にされていることを通じて、子どもたちはどのようなことを学んでいるのだろうか。

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大切にしているのは「過程の大切さ」「身体の健全な発達」「遊びや生活の中で育まれる人との関わり方」

同園は3~5歳の縦割り編成の幼児クラスと、2歳クラスに分けられる。ここで過ごす時間の中でまず子どもたちに感じてほしいのは『過程の大切さ』だという。
「何かができることや結果ではなく、その過程の大切さを子どもたちにはしっかりと感じてもらいたいです。そのためには子どもたちの表現を認め、受け止めるという保育者のスタンスが大切です。これは当園でずっと大切にしてきていることのひとつです」。
結果だけではなく、どのように取り組んだか、そのときにどのような気持ちだったのか、といったプロセスを重視することは昨今の乳幼児教育でも重要視されていることのひとつだ。ついできたことや結果に目を向けてしまいがちになるが、ここでの保育者と子どもの関係の中では、上手にできたことや結果を褒めるよりも先に取り組んでいた時の姿勢や子どもの頭や心の中にある物語に寄り添い、目を向ける言葉が多く聞こえてきた。

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さらに同園では外遊びやお散歩の時間も多く、遠足では小学生が登るような山への登山遠足も行われている。また、園舎内の蛇口はひねるタイプだったり、多くの園では泡が出るポンプ式のハンドソープを目にするのに対して、昔ながらの石鹸が使われている。
「幼児期において、危機意識を認識することも大切です。大きなけがにつながらない配慮をしたうえで、園内外で目一杯身体を動かすことで、転んだり、ぶつかったりしたら痛いことを知り、そうならないための方法を学びます。また、身体の発達は脳や内臓の発達にもつながっているため、歩くことや蛇口をひねる動作なども、発達の観点から大切にしています」。
自動水栓やハンドソープは便利かつ衛生面のメリットがあることを理解したうえで、園での生活で経験してほしいこと、育みたいことの精査の結果がこうした環境づくりに反映されていた。また、園内には押しボタン式の電話機なども遊び道具として置かれていた。これまでのいくつかの取材の中でも多く聞かれたのが操作性や道具性が子どもたちの認知づくりにつながり、創造性の育みを促すということ。そうした子どもたちの遊びや生活の中での学びが豊かになる環境であると感じた。

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こうした遊びや生活の中で育まれるのは人との関わり方も同様だ。異年齢での遊びの中で助けたり助けられたり、教わったり教えたりする中でやさしさや思いやりが育まれていく。また同園にはさまざまな障がいを抱える子どもも通っている。子ども同士の関りだけでなく、大人の振る舞いからも子どもたちは多くを学んでいるようだ。
「ある年、ハンディキャップを持った園児Aちゃんがいました。言動などから様子の違いを感じた別の園児Bちゃんは、はじめ『嫌だ』と避けていて、その姿を見たBちゃんの保護者はショックを受けていました。ですが保育者が日々の保育の中で体を支えたり、支援をしたりしている様子を見て、Bちゃんは自然と体を支えてあげるなどの支援をしていました。Bちゃんが多様な人との関わり方を学んだことはもちろんですが、そうした姿を見たBちゃんの保護者も、その成長をとても喜んでいました」。
大人から『やさしくするんだよ』などと言われルールや義務感として行動するのではなく、大人の振る舞いから『そうするのが素敵』『心地よい』と学び、自分の振る舞いが作られていくことは貴重な原体験になるだろう。LiCではこうした光景を「大人の背中」と呼び、楽しい大人を社会に増やしたいという願いにも深くつながっている。同園でそんな大人の背中の実態が見られたことがうれしい発見だった。

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大人が協力し合い、子どもたちを育むことで、コミュニティも同時に育んでいる

子どもたちの個性を尊重しながら、自ら成長、学ぶことを大切にしている同園。こうした成長や学びを保証するためには、『共感してくれる大人の存在が欠かせない』という。
「子どもたちは得意なこと、苦手なこと、好きなこと、嫌いなこと、一人ひとりそれぞれに違っています。その凸凹とした個性に合わせ、共感しながら、良い意味でそれぞれにあった異なる声かけや支援をしています。それは保育者だけでなく、保護者も同じくともに成長を見守り喜んでくれる、そんな大人として園に関わってもらっています」。

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保護者も同じ価値観を共有していくために、どのような工夫をしているのだろうか。
「コミュニケーションを大切にしています。具体的には毎日『5分ミーティング』というものを実施しています。当園は全員決まった時間にお迎えに来ていただく一斉降園なのですが、保護者にはお迎え時間の5分前に来ていただき、その日の活動などを保育者から伝えています。また、保護者には全員『係』をお願いしていて、日頃から様々な保護者が話し合いや作業のために園内を出入りして子どもたちと関わったり、保育者と話したりしています。その中で保護者も自分のお子さん以外の子どもたちのことを知り、一緒に成長を見守ってくれる存在になっています。ほかにも毎月父母会や懇談会を実施していて、とにかく保護者との接点は多いです」。

自分の子どもだけではなく、ほかの子どもたちの成長を見守ることは、子どもを共に育てるコミュニティ、地域を育んでいることだと感じた。園の周りには多くの卒園生や卒園生の保護者が暮らし、また、卒園生が自分の子どもを同園に通わせているケースも多いようだ。こうして同園に関わった人たちが直接的な関りがなくなったあとも、見守り続けている。さらにはこうした環境が、自分の育った地域への愛着を育んでいる。家庭や保育施設、どちらか一方に子どもの成長を委ね、寄りかかるのではなく、共に協力し合い、子どもたちをコミュニティーとして育んでいく懐かしくも思える子育てのあり方に、これからの教育コミュニティの可能性を感じた。

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<Visited DATA>
訪問先:たんぽぽ幼児教室
所在地:東京都西東京市ひばりが丘3-1-5
Webサイト:https://sites.google.com/site/hibaritanpopo/

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