見出し画像

中国のデジタル化の凄さとその社会的背景

テクノロジーによるイノベーションはアメリカシリコンバレーから始まるとの認識が普通だ。しかしそうとは言えなくなっている。なぜなら中国のデジタル化の勢いが凄まじいからだ。

私は日本の製造小売企業に属し、中国のほか台湾・香港・比国などにも進出していることもあり、現地社会を直に感じる機会に恵まれている。
中国のデジタル化の勢いは、日本メディアで報道しているものでは到底理解しえない想像の域を超えており、隣国で起きているこの変化に対して無頓着でいることは良くない。「日本はどうあるべきか」を真剣に考えねばならない。
しかし、こう言う話の展開だとすぐに「日本は遅れている」の悲観論か、表面的な現象だけ真似して、何ら問題解決しないというのが通例な気がするのでそういう議論だけは避けたいところだ。

阿里巴巴集団(アリババ)

言わずと知れた中国を代表する企業。
代表のジャック•マーは「ニューリテール戦略」を提唱し、オンラインとオフラインの融合を図った新しい小売の形に挑戦している。
私の理解では「リアル」ではなく「デジタル」を主に置くことが前提となっている戦略だ。

天猫(Tmall)/天猫国際/淘宝(taobao)などのECサイト・オンラインショップのプラットフォームを提供しており、特に天猫(Tmall)にいたっては、2018年の双11(11月11日のこと)の売上が、1日で3兆円を超えるという次元が違う展開を見せている。

オンラインサービスやパブリッククラウド(Aliyun/Alibaba Cloud)、リアル小売(例:盒馬鲜生(ファーマーションシェン))への進出で、全方位でプラットフォーマーになろうとしている。

騰訊(テンセント)

中国でユーザ数10億人という、これまた次元の違う展開を見せているWeixin/WeChatのチャットアプリを提供している企業。
このほか、オンライン決済(WeChat Pay)や、物流やリアル小売への進出で、
モバイルを中心としたプラットフォーマーになろうとしている。
アリババの天猫(Tmall)に次ぐ規模のJD.com(京東)の株主でもあり、最近は、パブリッククラウド(Tencent Cloud)においてもリージョン数を増やすなど、アリババとの戦いが激化している。

美団点評(メイトゥアン・ディエンピン)

美団点評というオンラインでのレビュー・口コミなど生活に根ざした情報を提供しているアプリの企業。リアル商業との橋渡し役のプラッフォーマーになろうとしており、最近はフードデリバリー分野における存在感が増している。


滴滴出行(ディディチューシン)

中国でタクシー配車サービスを展開している中国版Uberとも言うべき存在。
日本のメディアで、滴滴の一部の運転手による事件が大きく取り上げられた関係でイメージが良くないところがあるが、上海など沿岸地域での交通基盤としては絶大なものを持っている。


字节跳动(バイトダンス)

最近の中国ユニコーン候補筆頭企業と言える。抖音短視頻(Tik Tok)という15秒程度の短い動画を共有するアプリが、中国のみならず国外においても若者を中心に人気だ。日本の若者でもTik Tokを知らない者はいないのではないだろうか。


中国のデジタル化の要因は個人情報の取得のしやすさ

なぜこんなにも中国はデジタル化が進むのか?それはデジタル化で取得できる「データ環境」にあると思う。
例えば、ジャック•マーの提唱するニューリテール戦略を実現する為には、圧倒的なUXを提供することが重要で、それを実現するためには個人情報、その者の関連情報をどれだけ多く正確に取得できるかにかかっている。

その点において、中国の社会環境はプラスに働いている。そもそも中国の社会インフラが「個人信用」に基づく様々な社会サービスを提供する基盤になっており、中国国民が個人情報を提供するモチベーションが出来上がっていることが挙げられる。

日本や欧米と比較すると実利が有る限りにおいて個人情報に対してネガティブではないことと、法規制においても「とりあえずやってみてだめだったら改正」という軽量な(場合によっては強権な)進め方が国や企業としてのスタンスに見える。
しかし最近は、「中国サイバーセキュリティ法」の登場により個人情報の取り扱いについては流れが変わりつつあるため、注視は必要だ。

余談だが、中国のスタートアップや有力企業は、AIへの投資もとても活発だ。個人情報は教師データモデル型の機械学習としても有益なデータであり、特に顔画像から個人を特定し、何かしらのサービス・アクションに繋げるComputer Vision分野はその典型例だ。EUで始まったGDPR(一般データ保護規則)による制約の厳しさ考えると、中国はスタートアップにとって、データの宝庫と言える。

なぜ中国はQRコード決済が浸透するのか

屋台などの小さなお店ですらQRコードによる決済を導入しており、テクノロジーによる決済システムの浸透率が驚異的である。その理由は色々あるだろうが、類似サービスとの規格の競合が少ない(例えば、クレジットカード決済の浸透率は高くない)ということも挙げられるが根本的には、中国庶民の「中国貨幣の信用の低さ」にあると思う。

・中国歴史において、王朝は頻繁に変わった大陸国家
->貨幣も変わる
・(日本の貨幣と比較して)、中国貨幣は偽札の流通が多いといわれる
->貨幣に対する信用低下

つまり、中国国民が自国の貨幣をあまり信用していないことによるデジタル化の加速が挙げられる。また、販売業者にすれば、QRコード決済は購入者が持っているスマホを通じてQRコードを読み込んでもらうだけで済む訳で、初期投資は低いだろう。クレジットカード決済のように専用端末(CAT端末)や、CAFISのような複雑なバックボーンシステムを導入する必要がない。
そして一番大きな要因と思われるのは、中国政府が税制管理面から電子化による統制•監視が強化できることだ。

翻って日本は全く逆だ。 

・(一応)天照大神から数千年続く日本皇室が君臨する安定海洋国家。
・紙幣・硬貨の製造技術力が凄く、模倣は困難。

良質な貨幣国家を築いている日本は、現金は安定的な決済手段であり、電子決済においては、クレジットカードが主流である。
その為、それ以外の電子決済(例えばQRコード決済)に国全体が全面移行するモチベーションが発生しにくい。

こちらも余談だが、ふと思いあたるのが「イノベーションのジレンマ」。雑にいうと、現行技術より劣る新興技術が、気づいたら全てを掠め取っている現象と言う。
ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン•クリステンセン教授の書いた書籍だ。

テクノロジー分野の激しさはグローバル全体で起きており、「どんなことが起きているのか?」「盛者必衰」を理解する上で有益な思考フレームワークだ。

結局は人の、生きていく活力が推進力

中国民間企業は、分かりやすいくらいオンラインからオフラインへの進出の勢いがすごい。従来からある中国のパパママストアにおいても、こういった波に比較的乗っているようであるし、中国人は環境変化に対する柔軟性があるのだと思う。
しかしそこには「儲かるんだったら」というドライな思考が前提にある気がする。

ところで、アメリカシリコンバレーは今後どうなっていくのか?
そういえば、ちょうどいま、CES2019が開催されたがこちらも注目している。なんだかんだでアメリカ西海岸も好きだ。

Photo by Irina Iriser from Pexels

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?