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T2D3成長を牽引する”バリュープロポジション”の作り方【シリーズA 17億円調達】

■はじめに ~LoglassのBizdevチームの発信を始めます~

はじめまして、ログラスBizdevチームの”中の人”です。
今回が初のnote投稿となりますが、これを機に、ログラスBizdevの取り組みを定期的に発信していきたいと思っています。

ログラスBizdevチームでは、自分たちの責務を「ログラスの短・中期の経営の担い手として、自社ミッション及びT2D3達成に向けた事業・組織戦略を立案し、その実現を主導する」ことと定義しています。

私個人も「経営陣である布川・坂本には、10年スパンの長期ビジョンを考え、社内外に語り続けることに集中してほしい」という考えのもと、「彼らに成り代わって株式会社ログラスを経営をするのだ」という気概で業務にあたっています。ゆえに、これまでも経営レベルのイシューを中心に、事業/組織を非連続に伸ばしていくための様々なアクションの検討・実行を、各部署の仲間と連携して推進してきており、その結果として、Loglassは今日に至るまで、力強く非連続な成長を続けてくることができました。

そのような経緯もあり、直近では、他社の皆さんと業務に関する情報交換をさせていただく機会も増えてきましたが、ありがたいことに「ログラスさんの取り組みは参考になる」と言っていただけることも多くなってきました。

もちろん、私もまだまだ勉強中の身であり、Loglass自体も駆け出しスタートアップなので、決して偉そうなことを言える立場ではありませんが、このような言葉を頂く中で、「私たちの取り組みは、特にBtoB SaaSの経営者・事業責任者・Bizdevの方々を中心に、何かしら参考にしていただける部分もあるのではないか」と感じ、定期的にnoteで発信していこうと思うに至りました。
何より私自身も、ネット上で他社の皆さんが惜しみなく公開されている知見に非常に多くを学ばせていただいたので、その恩返しの気持ちも込めていければと思っています。 



■練り上げられたVPは、それ自体が経営上のコアコンピタンスになる

前置きが長くなりました。一本目となる今回は、「Loglass流バリュープロポジション(以下VP)の作り方」について書きたいと思います。
ーーー

PMF前後の事業に対するVPの重要性やそのアウトプットイメージ(≒What)についてはよく語られているものの、具体的な作り方(≒How)について言及されているものが少ないように思います。

ログラスでは、21年冬(執筆時点の約1年前)、PMFの達成前後にVPの作成を行なっています。
当時のLoglassは、既に一定のお客様がついていたものの、「(まずは売上を立てるべく)購買意向のあるお客様に売っていく」方針で業界/規模/ユースケースとも様々だったため、「なぜそのお客様に価値を感じていただけているのか?」「今後どのような方針で開発/マーケ/営業を進めるべきか?」が定まっていない状況でした。

VPの作り方のベストプラクティスが見えない中での作成だったため、作業設計からかなり大変でしたが、当時作成したVPは、今日に至るまでの1年強の間で「シリーズA 17億円の資金調達の実現」や「T2D3ペースでの事業・組織の非連続成長を牽引」するコア・コンピタンスとなっており、全社にとってかなり意義深い取り組みだったと感じています。

当時を振り返ったときに「練り上げられたVPを作ることそのものが、経営上の大きな強みになる。VPはPMF前後の全サービスが作るべきでは?」と感じたので、今回筆を執ることにしました。

なお、当時のログラスでのVP作成にあたっては、DCMベンチャーズ原さん(以下DCM原さん)の下記記事を大変参考にさせていただきました。
この記事でも各所で引用させていただいておりますが、この場を借りて深く感謝申し上げます。
※なお、本記事では原さんnoteでは言及がない内容を中心に記載していきます

では、本編に入っていきます。


■改めて、バリュープロポジションとは何か?

こちらは、DCM原さんが噛み砕いた説明をしてくださっています。

バリュープロポジションとは、
「誰が顧客」であり、
その顧客の「ペインポイントは何で」
その顧客に対して「どのような価値を提供する」「何で(製品カテゴリー)」
それは「どのような機能」によって成立しているか
それは「競合製品や既存のソリューションと比べて」どう違うのか、
をシンプルに明らかにするもの

PMFへの第一歩: バリュープロポジション (フォーカスと再現性)|原健一郎 | Kenichiro Hara

私なりに言い換えるなら、「バリュープロポジション」=”企業が顧客に提供する価値をシンプルに表したものであり、事業戦略・組織戦略・開発すべき機能/サービス/商品を決める指針となるもの”だと考えています。

■PMF前後の事業でバリュープロポジションを作ることの意義

こちらもまずはDCM原さんが語るVPの重要性について引用させてください。

僕が個人的にプロダクトローンチ前の企業に投資するときに最も気にするのがこの「バリュープロポジション」です。なぜならばそれがPMF(product market fit)に行けるかどうかの精度の高い予測となり、CADDiやAtama Plusなど"強い"バリュープロポジションがある会社は、ローンチ後も順調に伸び続けるからです。

言わば、「うちの会社は何をやっていて、競合や代替手段と比べて、どうすごいのか」を具体的に書き下した会社のプロフィールのようなものです。そして後述しますが、「バリュープロポジション」はその後の会社の組織形態や開発ロードマップを決める、重要な地図になってきます。

PMFへの第一歩: バリュープロポジション (フォーカスと再現性)|原健一郎 | Kenichiro Hara

これを読むと「本当にそうだよなぁ…」と頷くことしかできません。
私自身も、冒頭の通り「PMF前後の事業こそVPを作るべき!」と考えており、ことPMF達成前後のBtoB SaaSにとってのVPは「T2D3達成に向けた、事業/プロダクト開発の最上位の戦略指針となるもの」ではないかと思っています。

ログラスのこの1年を振り返っても、VPの設定は、経営観点から全方位で大きなインパクトをもたらしたと感じています。
具体的に言うと、「VPを言語化し、それを全社員に共有する」ことによって

社内的には、

  1. マーケ/営業において、ターゲット顧客や訴求価値(≒各種スクリプト)がよりクリアになる

  2. 開発において、提供価値から逆算して、優先的に開発すべき(ないし、劣後とすべき)機能がよりクリアになる

  3. 採用において、社員それぞれが、自社の事業内容やその魅力について、クリアに語れるようになる

社外的には

  1. お客様から、ポジティブな言葉を頂戴する機会が増える(※ニーズに対して、よりシャープに応えられるようになるため)

  2. 投資家から、「高い事業解像度を持っている」、「PMFしており、今後の高成長も見込まれる」と評価してもらえる

  3. 採用候補者から、ドメイン知識がなくても、より短時間で、取り組んでいる課題/事業内容/将来性を理解してもらえるようになる

等の効果がありました。あくまでN=1の経験ではありますが、少なくとも私自身はVPが設定がもたらすインパクトに確信を持てています。

さて、またしても前置きが長くなりましたが、本題であるVPの作り方について書いていきます。


■Loglass流 バリュープロポジションの作り方

前提

VPの基本的な概念/考え方については、前述のDCM原さんnoteを是非ご覧ください。このnoteでは、原さんnoteをご一読いただいている前提で、より具体的な作り方について、ログラスでの事例を交えつつ、説明していきます。


ステップ① 受注/失注分析を通じた顧客情報の”徹底的”インプット

原さんnoteにあるCADDiさんのような、本質をついたハイクオリティなVPを見てしまうと、同じクオリティを目指そうとするあまり、ついついキレイに整理することが目的化し、自分たちの都合/願望が起点となったVPを作りがちです。
大原則として、VPは常にお客様起点であるべきであり、ゆえに、思考の素材もお客様と向き合って得られる一次情報の中から抽出することにこだわるべきと考えています。
よって、ログラスでも、まずは”徹底的に”お客様と向き合うべく、当時の全顧客(数十社)+ 商談フェーズが一定以上進んでから失注した全顧客候補に対して、独自のフレームワークで情報の整理/考察することから着手しました。

顧客情報を整理したフレームワーク ※項目詳細は後述

このプロセスを通じて、「再現性を持って獲得し得る顧客」+「潜在顧客」双方の視点を加味して、VPに組み込まれうる要素を網羅的に俯瞰できるようになったと感じます。

参考:収集項目とその意図

  • 企業プロファイル

    • 名前、業種、設立年、時価総額、売上高、営業利益、営業利益率、従業員数 等

  • 契約情報

    • 契約年月、ARR、契約アカウント数

  • VP考察情報

    • 契約者のペルソナ

    • 抱えていた/いるペインポイント

    • (失注企業のみ)失注理由

    • ログラスの提供価値

    • 提供価値をもたらしている機能

    • ログラス導入後も抱えているペインポイント

【各項目の意図】

①…全顧客のプロファイルを横並びで比較していくと、思わぬ共通項が発見できるケースは多く、ターゲットの絞り込みに重宝します

②…どんな顧客がより多くの対価を支払ってくださるのか/多くのアカウントを使ってくださるのかを考察するのに使います

③…顧客単位でVPを考察して②以降の検討素材にします

個人的には”失注理由””導入後も抱えているペインポイント”まで考察することが重要だと思っています。これらは「そのペインを解消するためにカバーしなければいけない機能/サービスが分かる」というのはもちろんありますが、裏を返すと「そのペインを解消しなくても(その機能/サービスがなくても)売れている」ことの証左になるとも言えます。
言わずもがな、PMF前後の事業では「リソースを集中し、強みを尖らせていくこと」が何より重要なので、この考察を通じて、逆説的に「自分たちがフォーカスすべき強み(≒VP)」に対しての気づきが得やすくなります


ステップ② 顧客のペインの洗い出しと優先順位付け

インプット情報を元に、顧客が感じているペインポイントを洗い出し、グルーピングを行います。
Loglassの場合は、プロダクトの性質上、①利用主体(経営陣、経営企画、事業部)②対象となる業務プロセスの2観点からグルーピングしました。
なお、最初からうまく整理するのが難しい場合は、付箋に書き出すのがおすすめです。(ログラスでは通常業務でも利用しているmiroを使いました)

マスクしていますが、黄緑の付箋でペインポイントを洗い出した後、
赤や黒の付箋でグルーピングをしています


グルーピングが終わったら、各ペインポイントの”深さ”を評価し、優先順位付けを行っていきます。

ペインポイントの深さを考察する重要性については、DCM原さんも言及されています。

ペインポイントの深さによって、そのプロダクトがNice to have (まああったらうれしいかな程度)なプロダクトであるか、Must have (ないと本当に困る!)なプロダクト かが決まり、すなわち、売りやすさ、マネタイズのしやすさが変わってきます。

PMFへの第一歩: バリュープロポジション (フォーカスと再現性)|原健一郎 | Kenichiro Hara

ログラスでは、原さんのものを土台としつつ、より具体的な基準を設定して、ペインポイントのスコアリングを実施しました。

  • ①必要性

    • ◎…法制度または社会通念上、取り組む必要がある

    • ◯…組織/事業特性上、取り組む必要がある

    • ✕…取り組む必要性はほとんどない

  • ②ペイン解決時の定量的インパクト

    • ◎…年間1,000万円以上の売上増/コスト削減につながる

    • ◯…一定の売上増/コスト削減に繋がる

    • ✕…定量的インパクトはほとんどない

  • ③発生頻度

    • ◎…毎日~毎週

    • ◯…毎月

    • ✕…毎年

ーーー

個人的には、全体を通して、このプロセスが特に重要だと考えています。
というのも、これを経ることで
「お客様からも頻度高く言及され、重要なペインだと思っていたものが、実はさほど深くはない」
逆に「一部のお客様しか言及していなかったが、実はものすごく深い」など、
ペインの本質に迫る気づきが得られるからです。

そもそも、PMF前後のフェーズでは、顧客の絶対数が足りないケースがほとんどであり、「多くのお客様が言っているから優先度が高い / 一部のお客様しか言っていないから優先度が低い」と安易に断じてしまうのは危険なので、このプロセスはかなり丁寧に向き合うべきだと思います。

なお、ログラスの場合は、洗い出し時点で100弱あったペインが、優先順位付けを行った結果、重点ペインとして7つまで絞られました(とはいえ、この時点でもまだ絞り込みが足りない状態)


ステップ③ ペイン別のVPの具体化と評価

ある程度ペインポイントが絞られたら、ペインポイント毎に、具体的なターゲット像(≒どんなペルソナがそのペインを感じているのか?)を定義し、それを起点にバリュープロポジションとしての具体化を進めます。この時点では、唯一解である必要はなく、原さんも仰るように「正しそうで十分に狭いセグメント」を複数決めてよいと思います。

VPの具体化が進んだら、改めてVP全体を眺めたときの優先度評価を実施し、絞り込みを行います。

各VPの評価シート

ちなみに、このプロセスでは「どれもよさそうに見えてうまく絞り込めないな…」という状態に陥りがちですが、その際は「そのVPは、お客様に10xの価値を届けるものか?」という視点で見直すのがおすすめです。
ここまで丁寧に議論を積み上げている場合、良くも悪くも個別具体の情報が見えすぎてノイズとなってしまうので、ぜひ一歩引いて「これって、本当に非連続な価値を生み出せてる?」と問うてみてください。


ステップ④ VPとしてのクリスタライズとアウトプット

絞り込みが済んだら、総仕上げとしてVPの磨き込みを行い、アウトプットします。
VPの価値を最大化するためには、「Biz/Product/Corp問わず、誰もが同じレベルで理解/説明でき、全社が同じ方向を向くことができるもの」である必要があり、そのために「とにかくシンプルなワンフレーズになるまで磨き込むこと」にこだわってください。

なお、この磨き込みにあたっては、原さんが掲げている7つの評価視点(ユーザー、決裁者、投資家、作り手/問題解決、競合、戦略、文章)も大変参考になります。

詳細はお見せできませんが、Loglassでも最終的に下記のようなシンプルなフレーズと図に落とし込めました。
この資料は、シリーズAの資金調達における投資家向けピッチ資料としても活用しましたが、「(経営管理という)一見複雑なドメインにおいて、ここまでシンプルかつ分かりやすくまとめられているのは素晴らしい」という評価を頂戴することが出来ました。

経営管理クラウド「Loglass」のバリュープロポジション


合宿形式で一気に作り切るのがおすすめ

さて、ここまで読んでいただいた皆さんの多くが、恐らく「これ、丁寧にやったら結構大変じゃないの…?」と思っているのではないでしょうか?



はい、結構大変です(笑) 
ログラスの場合も、最初の情報整理からアウトプットの完成まで、恐らく20時間強はかかったと思います。

個人的には、関係者を集めた上で(多くても4,5人程度が望ましい)、合宿形式で一気に詰めていくことをおすすめします。
というのも、この取組は「全体を通じて思考の体力/集中力が一定求められる」ことに加え、「発散と収束を地続きで繰り返すことで考察が深まりやすい」ので、なるべく他の邪魔が入らない状況で、かつ、各ステップの間を変にあけずに進める形式が適しているからです。
まあ、難しいことは抜きにしても、こういうテーマは合宿形式でみんなでワイワイ議論したほうが楽しめます。

ちなみに、少しでも効率的に検討を進める意味では、
複数人で進めるべきこと/一人で進めるべきことは分けたほうがよいです。

私の場合は、
→「ステップ①の受失注分析は、事前に情報収集/整理まで終えておく」
→「全体での合宿では、整理した受失注分析の結果の共有と考察から開始すし、ステップ③まで一気に終わらせる」
→「合宿での議論内容を持ち帰って、④のアウトプットのたたき台を一人でまとめる」
→「フォローセッションとして、後日1,2時間程度、関係者内で再議論し、アウトプットを完成させる」
という流れで行いました。


■終わりに

最後までお読みいただきありがとうございました!

ここまで、私が考える”VPの作り方”をつらつらと書いてきましたが、
何か高度なことや真新しいことは全くしておらず、結局は「ひたすらにお客様に向き合い、順を追って地道に思考を積上げていく」ことが、強いVP作りのポイントなのだと思っています(もちろん、それが難しいのですが…)

読んでくださった方の中で、自分の事業におけるVPの作成/磨き込みにお困りの経営者、事業責任者、Bizdev、…の方がいれば、Twitterなどでお気軽にご連絡ください!ラフな壁打ちでももちろん歓迎です。
このnoteでは公開していない内容も含めて、何かしらお力になれるかと思います(そしてぜひ私からもLoglassの今後について色々と相談させてほしいです!)

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