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鈴木凹インタビュー コンセプト・批評・サンプリング――横断的スタイルは「音楽に詳しくなりたい」思いから

このインタビュー記事は、音楽制作プラットフォーム・Soundmainのブログで連載されていた『オルタナティブ・ボカロサウンド探訪』を、当該サイトのサービス終了に伴いインタビュアー本人が転載したものです。
初出:2022/09/2


2007年の初音ミク発売以来、広がり続けているボカロカルチャー。大ヒット曲や国民的アーティストの輩出などによりますます一般化する中、本連載ではそうした観点からはしばしば抜け落ちてしまうオルタナティブな表現を追求するボカロPにインタビュー。各々が持つバックボーンや具体的な制作方法を通して、ボカロカルチャーの音楽シーンとしての一側面を紐解いていく。

第5回に登場するのは鈴木凹。ボカロ曲をサンプリングしてボカロ曲を制作する独自の活動を展開した後、パブリックドメインのクラシックをサンプリングした耽美的な楽曲を次々と発表。2018年からは自身で打ち込みや演奏を手がけている。名義を横断しながら展開されるコンセプチュアルな活動は、ボカロシーンで他に類を見ないものだ。また自身のブログ(note)では、ボカロ曲を含むオルタナティブな音楽についての読み応えある文章を執筆。豊富な知識と一貫した視点を持った音楽リスナーでもある。今回はその独自の姿勢を生み出したルーツや考えについて話を伺った。


マニアックなリスナーから「作る側」へ

音楽遍歴と特に好きな音楽について教えてください。

中学生の頃に父親が持っていたCDに興味を持ち、聴くようになりました。60年代のクラシックなロックがほとんどで、代表的なものだとビートルズやエリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックスなどがありましたね。他にはエレクトリック・ブルースのB.B.キング、プログレのイエスやピンク・フロイド、キング・クリムゾンなども聴いていました。

それらの音楽にはすんなり馴染めましたか?

最初に聴いたビートルズはすぐに馴染めて、特に複雑性が増していった後期のスタイルが好きでした。それもあって次はプログレを聴くようになり、イエスやEL&P(エマーソン・レイク&パーマー)が好きでよく聴いていました。あとは、フォーカスというオランダ出身のプログレバンドも結構好きでしたね。その後、高校生の頃から60年代のロックをよく聴くようになって、ジミ・ヘンドリックスやニール・ヤングなどもなんとなく分かるようになりました。大学生になってからはニューウェイブやポストパンクにもすごくハマっていましたね。その頃から、自宅にあったCDを聴くだけじゃなく自分から音楽を探すようになって、ボカロ曲にも出会いました。

ボカロに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

高校生の頃にカラオケで友達がボカロ曲を歌っているのを聴いていたので知ってはいたんですけど、その頃は自分から聴こうという気はあまりなかったんです。それからいろいろな音楽を聴いていくにつれてボカロ曲も改めて聴いてみようかなと思って、そのときはちょうどポストパンクにハマっていたからボカロ曲にもないのかなと調べてみたら、「ボカロガレージ」というタグを見つけたんです。そのタグで一番再生数が多かったのがキャプミラPの「ハローノストラ」という曲で、聴いてみたらわかりやすくポストパンクで面白かった。これまで聴いてきた音楽と地続きで聴けたので、それから他のボカロ曲も聴くようになりましたね。

ポストパンクが鈴木凹さんにとってボカロの入口になったんですね。ちなみに、どのようなところがお好きなのでしょうか?

最初にハマったのがディス・ヒートの「Health and Efficiency」という曲で。ビートが強烈で速いし、ドラムもすごくうまい。そこにプロデューサーのデヴィッド・カニンガムが作ったすごい音響が一体となっている。

その後にデヴィッド・カニンガム自身のバンドであるフライング・リザーズの曲も聴いたんですけど、最初はちょっとわからなくて、でも聴いているうちになぜか好きになってしまったんです。そこで共通点を考えてみたら、デヴィッド・カニンガムがいるので音響がすごいのはもちろん、アバンギャルドというか、音楽として不真面目な感じがあるように思えて。普通の楽器らしい音とは違った音が聞こえてくるんです。プリペアドピアノ、鍋やおたまのパーカッション、ベースの弦をドラムスティックで叩いてバスドラムの代用をしたりしてるので。ボーカルのスタイルも素っ頓狂な甲高い声で叫んだり、ぼそぼそとしゃべるようだったり、なじみのあるロックのボーカルからはかけ離れています。その後もいろいろと聴いていきましたが、今ではポストパンクというジャンル全体に関しても同様の印象を持っていますね。

ありがとうございます。では、そこからどのような経緯でボカロを使った音楽制作を始めるに至ったのでしょうか?

数ヶ月ほどボカロ曲を聴いているうちに、コバチカさんというリスナーの方がボカロ曲を紹介しているブログを見つけて、過去のアーカイブを漁るように読んでいたんです。そうするうちに、自分で作った曲がこのブログに載ったら良いなと思うようになって、試しに作ってみた感じですね。

コバチカさんのブログのどのあたりからそう思うようになったのでしょうか?

当時のコバチカさんのブログでは、曲紹介の他にボカロの歴史を個人的にまとめたすごい文量の記事があって、それがすごく面白かったんですよね。それにTwitterでもピックアップしたボカロ曲のレビューを投稿していたし、そこで引き合いに出されているアーティストも僕の知らないバンドがたくさん挙げられていたので、すごく音楽に造詣が深い方なんだなと。そう思ううちに自分もブログに掲載してほしいなと思うようになりましたね。

2015年頃にJakeという名義でボカロ曲をサンプリングするスタイルで活動を始めていらっしゃいますが、どのような考えや影響があってこのようなスタイルを選んだのでしょうか?

先ほど言ったようなきっかけがあって、最初の2曲ほどはGarageBandで打ち込んで作ったんですが、割とすぐに「このまま続けてもあまり面白くないから、違うアプローチをしよう」と思うようになって。サンプリングする方向に行ったのは、やっぱりDJシャドウの存在が念頭にありましたね。アルバム『Endtroducing…..』はロックの名盤を扱っているようなサイトでも取り上げられていて、ヒップホップは全然聴かないけどDJシャドウという存在は知っていました。それに、ボカロ曲をサンプリングしてボカロ曲を作っている人があまりいないので、じゃあやってみようかなと思ったのもきっかけのひとつですね。

オケだけではなくて、ボーカルもサンプリングして作っていましたよね。

単純に当時初音ミクを持っていなかったということもありますし、最初に作った2曲では初心者ということもあってメロディーや歌の打ち込みが全然うまくいかなかったので、サンプリングしたほうが効率的だなと思ってこのスタイルを選んだという感じです。

ご自身のnoteではテープ編集で作られたアバンギャルド・ロックもルーツとおっしゃっていました。

それももちろんあって、実際にどのような音にしようとなったときに参考にしたのはそっちですね。DJシャドウはビートも音響も良いけど当時はその良さが深く理解できていなかったし、自分にはできないなと思ったので、そっちのアプローチには行きませんでした。

その後の2017年からは鈴木O名義でパブリックドメインのクラシックをサンプリングした曲を発表していきますが、これはどのような意図や経緯があってボカロ曲からクラシックへ移行したのでしょうか?

ずっと同じことをやっていてもしょうがないから移ったというのはひとつありますね。なぜクラシックなのかというと、その当時は曲にドラムやベースをあまり入れたくなかったんです。クラシックだけをサンプリングしていれば、自分で入れない限りはドラムやベースが入ることはまずないので、クラシックを選択しました。あと、アーサー・ラッセルの『World Of Echo』が好きで、これはチェロとボーカルだけで作られているアルバムなんですよね。そういうチェロのような弦の音を使いたいなと思ったのも理由のひとつとしてあります。

それらの曲で使われているUTAUのORIGAMI-Iは利用規約で著作権が放棄されているライブラリですが、パブリックドメインという部分が共通しているので関係があるのかなと思っていましたがどうでしょう?

ds_8さんの曲がすごい好きで、ORIGAMI-Iをよく使っていたので真似してみました。どれに実際に使ってみたらよく音が馴染んだということも大きいですね。

当時はサンプリングのどのような点に魅力を感じていましたか?

さっきも言いましたが、やっぱり楽だというところですね。いきなり打ち込みで曲を作ろうとしても全然うまくいかないけど、サンプリングという方法を取ることで曲っぽいものが容易に作れるのが良いところだなと思います。あとは、自分の能力を超えたものができるような気がするんですよね。実際にできているのかどうかはわからないけど、当時はそう考えていましたね。

サンプリングとコンセプト重視の姿勢

様々な楽曲をサンプリングしながらも、強い記名性を持った独自のサウンドへと違和感なく消化・昇華されています。サンプリングソースはどのように選び、組み立てていましたか?

単純に好きな曲を選ぶというのがひとつあります。いろんな曲を聴いて回って耳に付いた曲があったら、その作者の曲を全部チェックして後でサンプリングしようとストックしておく感じですね。他には、カラオケやアカペラのデータを公開している曲はすごくサンプリングしやすいので、使ってみようかなと思いますね。

最初から作りたいイメージが決まっていて、それを目標にサンプリング素材を選んでいくという感じでしょうか?

そうではないですね。とりあえず素材を集められるだけ集めて、その中から何かできるだろうと期待する感じでした。

素材の切り取り方や加工についてはどうでしょう?

例えば4小節や2小節とか、最初にある程度使いやすい形に加工しておいてから、それを並べていくような作り方ですね。後々の使いやすさを考えて、楽器同士の音の重なりの少ないところをサンプリングしておくというのがよくあるパターンです。イントロやブレイクは音の重なりが少ないことが多いので、ドラムとかピアノだけが聞こえる部分を切り出して使っていました。他には曲の中で一瞬で通り過ぎてしまうけど印象的な箇所というのがあって、その部分をループさせてみるということもあります。ピッチもほとんどいじっていないですし、そんなに大きな加工はしていないです。素材の重ね方については、あまりコードなどに頓着せずになんとなく良いなと思ったものを重ねているので、割と濁っているようなところもあると思います。それも味かなと割り切って作っていましたね。

鈴木凹名義になってからはご自身で打ち込みや演奏をされていますが、この経緯について教えてください。

これに関しても、やっぱりずっと同じことをやっていてもしょうがないし、またちょっとスタイルを変えてみようと思ったのがきっかけですね。あとは鈴木O名義でそれまでに作ったクラシックをサンプリングした曲をまとめた『素描』というアルバムを作って、それが個人的に満足するものになったので、次はサンプリングせずに一から自分で作ってみようかなと思いました。

サンプリングという手法を用いていた頃と比べて変わった点、変わらない点はありますか?

変わった点で言えば、歌詞やメロディーを自分で考えなきゃいけないのが一番の違いですよね。サンプリングする以前から歌詞は書いていましたが、より時間がかかるようになりました。変わらない点としては、ループ主体で作っていくFL Studioを使っているということもあって、サンプリングしなくても自然とループから曲を考えているところですね。

アルバムごとに手法や音像が変わっている印象です。

そうですね。同じことをやっていても飽きちゃうし散漫になっちゃうので、ある程度の区切りを付けるという意味でもアルバムごとにぼんやりとコンセプトを見い出して作ろうとは思っていますね。

コンセプトを重視する姿勢はどのようなところから影響を受けているのでしょうか?

やっぱりポストパンクからですね。そういう意味でもフライング・リザーズはすごいと思っていて。最初に聴いたときはなんで「かっこいいロック」とか「踊れるファンク」みたいなのから全力で遠ざかっていくような試みをやっているのか全然わからなかったけど、何度も聴いているうちにポップミュージックを通じてポップミュージックを批評しているのかなと思えてきて。そういう批評性みたいなものはポストパンクからの影響が大きいですね。

あとはギャング・オブ・フォーですね。ファンクに影響を受けているバンドなんですけど、逆さにしたファンクというか、ひねくれたファンクみたいなものをやっているんです。ちなみに音響という意味では1stの『Entertainment!』がすごく攻めていて、その影響も大きいですね。

そういった影響を受けたアーティストとは別に、シンパシーを感じるアーティストやボカロPはいますか?

シンパシーを感じるのはPuhyunecoさんですね。サンプリングっぽいことをやっているなとは思っていたんですけど、Soundmainさんに掲載されていたインタビューを読んで完全にサンプリングでやっていると知って思わず握手したくなりましたね。

「音楽を聴きたい気分じゃないときでも聴ける」音楽を

先程FL Studioを使っているというお話もありましたが、制作環境について具体的に教えてください。

最初の頃はノートパソコンとFL Studioとヘッドフォンだけだったんですけど、今はROLANDのオーディオインターフェイス、ヘッドフォンはSONYのMDR-7506、モニタースピーカーはPreSonusを使っていますね。あと最近はエレキギターも使い始めています。

プラグインに関してはどうでしょう?

プラグインはほとんどFL Studioに付属しているものを使っていますね。最近はIK Multimediaのプラグインを買ったので使っていますけど、そんなにこだわりはないというか、軽くて使いやすいものを使っています。

曲によって違うと思いますが、音楽制作する際の手順をお聞きしたいです。

打ち込みで作る場合は、適当にループを作ってそこから膨らませていくような感じですね。ループはピアノやパット系の音から作ることが多いと思います。サンプリングして作るときもまずはループから作るんですが、数種類のサンプルを重ねていい感じになったら膨らませていくというやり方が多かったと思います。

具体的にループはどのように膨らませていくんでしょうか?

良いループは何度繰り返しても良いので、できるだけ引き伸ばそうという意識があります。とにかくひとつの曲の中で飽きるまで同じことをやって、飽きたら止め時だなと。面倒くさがりなので、あまり複雑なことはしていないですね。

他の人はこんな作業や機材の使い方はしないだろう、というような工程はありますか?

サンプリングで作っていた頃は、ステレオでサンプリングして、ディストーションをかけてからもう一度リバーブをかけるようなやり方を結構していましたね。既存の曲をサンプリングする場合、古い録音でなければ素材はステレオ音源です。わざわざモノラルにする一手間がめんどくさかったので、そのまま加工していました。

シンセポップやポストロックやアンビエントなど色々なジャンルを制作されていますが、熱量の控えめな音やビートの希薄さなど、前名義含め、共通する美学があるように思います。制作する際に特に意識していることはありますか?

言い方が難しいんですが、多分、僕は音楽がすごく好きというわけじゃないのかなという気がしているんですよね。全然音楽を聴きたくないときも普通にありますし、ビートの強い音楽は今でもそんなに得意ではないんです。なので、逆説的なんですけど、「音楽を聴きたい気分じゃないときでも聴けるような音楽」ができたらいいなということはよく考えたりしますね。

実験的なコンセプトや音像に反してメロディーはポップで、近作は特に歌ものとしての側面が前面に出ている印象です。制作する際はどのようなバランスを目指していますか?

自分の曲はそんなにポップだとは思っていないので、そう仰っていただくと意外な感じがします。実験的ということに関しては、全体として繰り返しが少ない構造というか、歌詞についても1番があって2番があるような形式的な繰り返しが少ないし、構造がわかりにくいように作っているのがおそらくそう感じられる理由なのかなと。曲の長さも割と自由に作っていますしね。それと比較すると相対的にメロディーは分かりやすくしようと心がけているので、そのバランスを取った結果が、仰っていただいたような印象につながるのかなと思いました。

最近はボーカルにSynthesizer Vを用いていますが、歌に対する意識の変化などはありましたか?

特にないと思います。Synthesizer Vを導入したのも、ボーカルを作るのが楽だからなんですよね。AIが自動で調整してくれるので特にいじるパタメーターもあまりないですし、音を作り込むという方向性とはちょっと違うのかなと思って導入しました。実際にそのように運用していますし、操作性も良いので重宝していますね。

「どくんどくん」という曲ではORIGAMI-Iと小春六花の使い分けが曲の展開にすごく合っているなと感じました。

小春六花は器用にいろんな曲を歌ってくれるんですが、逆に何を歌わせてもさらっとしちゃうんですよね。一方でORIGAMI-Iの声はすごく存在感がある。だったらメインのボーカルはORIGAMI-Iにして、コーラスを小春六花にするとうまくいくと思ったので、使い分けた形です。

ボーカロイドやその他の合成音声はどのような存在として認識していますか?

道具というか、ブラグインのひとつとして便利なものだなと思っていますね。マイクを立てなくてもいいですし、ピッチもリズムも正確でいつでも同じように歌ってくれるので。

音楽的なメリットについてはどうでしょう?

やっぱり自分で歌うより歌は上手いですよね。それに自分は男性なので、女性の声が使えるというのは音楽的なメリットだなと思います。あとは、自分で歌うにはちょっと恥ずかしいような歌詞でも、ボーカロイドだったら歌わせられるということもあるかもしれないですね。

制作と批評について

特に好きなボカロPや、最近注目しているボカロPはいますか?

好きな人はたくさんいるんですが、特に好きなのはフェザーミームさんです。アコギとリズムボックスが基本の形式だと思うんですけど、かなりエクスペリメンタルなフォークという感じがしますね。あと歌詞が良いなって毎回思っています。既存のバンドでいうとザ・ブックスやアニマル・コレクティヴあたりに近いのかなと。

あとは最近すごいと思ったのは負二価-さんですね。今年投稿された「小陽春」もすごくよかったですけど、一番好きなのは「縄に噛まれた」です。

音楽に関する特定の要素や感覚を「イノセンス」や「ゴミ」といった言葉でネーミング/カテゴライズされていました。このネーミングに関する姿勢や、それぞれの言葉の大意を伺いたいです。

「イノセンス」の方は、ASA-CHANG&巡礼の「花」という曲があって、当時アニメ『惡の華』のエンディングにも使われていたので多くの人が聴いていたと思うんですけど、その感想のなかに「怖い」とか「狂ってる」みたいな感想が割と見受けられたんですよね。僕としては「花」はとても綺麗な曲だと思っていたので、「怖い」や「狂ってる」という表現はしっくりこなかったんです。自分なりに納得のできるカテゴライズというか、「花」のような美しい曲を表現する言葉として「イノセンス」を使っています。ボカロPだとPuhyunecoさんや包み紙さんは「イノセンス」だなと思っていますね。

「ゴミ」はその名の通りなんですけど、例えばスカムミュージックのシャッグスだったり、ニューヨーク・ジャンクのソニック・ユースだったり、めちゃくちゃノイズがひどくて過酷な感じの音楽をやってる人たちを結びつけて総合的に扱えるような言葉があると便利だなと思ったんですね。例えば、スロッビング・グリッスルというインダストリアルのバンドはポスト・サイケデリック・トラッシュという言葉を掲げて自分たちの音楽を表現しようとしていましたし、スウェル・マップスというパンクのバンドは1srアルバムでゴミという意味の「trash」を逆さの綴りにした「H.S. Art」という曲を収録していたし、キャバレー・ヴォルテールは初期のバンド名がミュージカル・ボミットで「音楽のゲロ」みたいな感じの意味なんですね。自分たちでも名乗っているんだし、じゃあ全部「ゴミ」でいいかなと。

自分でジャンルを作る、という考えはどこから来ているんですか?

うーん、パンクなのかな。でも好き勝手に音楽を聴いていいという姿勢はサンプリングから来ているような気がしますね。サンプリングはよくリスペクトと言われますけど、リスペクトだけでは不十分だと思っていて。例えば小説などを読んでいて、この文章は気に入らないなと思ったときにその上から塗り潰して書き直していいぐらいの気持ちがあった方が、うまくいくんじゃないかなと思う部分がありますね。すでにあるものに対してある程度自分勝手に扱う、ある種の傲慢さというか、そんな姿勢なのかなと思います。

先ほど名前が挙がった包み紙さんとは『No Vocaloid』というアルバムでご一緒されていますが、そのアルバムは鈴木凹さんが主宰だったのでしょうか?

主宰ということでいいと思います。はじめに雲さんとニニヒさんの3人で何かしようと話し合っているときに、4人によるコンピレーション・アルバムを作ろうということになり、残り1人に誰を呼ぶかとなったときに包み紙さんの名前が挙がったんです。

これは『No New York』(1978年にアンティルス・レコードからリリースされたコンピレーションアルバム。プロデューサーはブライアン・イーノ)のオマージュでしょうか?

そんな感じですね。『No New York』は当時のニューヨークのニュー・ウェーブ・シーンから4つのバンドを集めて、そのシーンの一部を切り取ってみたようなコンセプトなんです。この4つのバンドは割と恣意的な選択だったという話もありますけど。それを参考にして、当時のボカロシーンで、恣意的にピックアップした4人で当時のボカロシーンの一部を切り取って保存しておこうみたいな意図はありましたね。

フェザーミームさんの曲の批評文を書いていたりと、批評性を強く意識されている印象です。具体的にどのような分野や手法の批評に関心がありますか?

音楽に関する文章は昔から読んでいた気がしますね。最初にビートルズを聞いていたと話しましたけど、家に『ビートルズ全曲解説』(ティム・ライリー著、岡山徹訳。現在は絶版)という本があったので、それを読みながらビートルズを聴いていました。音楽に関する文章を読むのが好きだったので、書くことも始めたという感じです。でもどんな批評でも好きというわけではなくて、音楽を聴くにあたって役に立つものを好んで読んでいますね。

フェザーミームさんの記事では『うたのしくみ』(細馬宏通著)を参考にされていますよね。

そうですね。『うたのしくみ』は今年読んだのですが、面白かったので真似してみようかなと思って書きました。押韻に関するところが特に面白かったですね。

「音楽に詳しくなりたい」

ボカロシーンやカルチャーのどのような部分に面白みを感じていますか?

「ちゃんとしていない」曲もたくさんあるというのはひとつの魅力ですよね。ミュージシャンとしてのブランドの確立や長期的なキャリアの形成にあまり頓着していないように見えるような。「ちゃんとした」曲が聴きたいならプロの曲を聴けばいいんですけど、僕があえてボカロ曲を聴くのは「ちゃんとしていない」曲を聴きたいんだと思います。

プロとして活動するとなると、趣味全開の曲やしょうもないものを作ると怒られたりすることもあると思うので、そういうものでも発表できて、目に留めてもらえる可能性があるのが良さのひとつだと思います。あとは色んな人がたくさんいるので、その中から普通は出てこないような面白いものが見つかるかもしれないという希望を持って聴いていますね。

今後どのような作品を作りたい、また活動を通してどのようになっていきたいといった目標はありますか?

今後は自分で歌った歌を曲に入れていきたいなと思っています。あとはギターに限らず、他の楽器の演奏も入れてみたいですね。あとは今後の展望というか、ずっと続けていくことだと思うんですけど、音楽を作ることを通して音楽に詳しくなりたいなと思っています。

「音楽に詳しくなる」ということは、ご自身にとってどのようなことを意味するんでしょうか?

良い音楽とあまり良くない音楽の境目に接近して、詳細に見ていくみたいなことが音楽について知るということかなと思っています。

あるジャンルにおいてはその文脈上意味をなしているものが他のジャンルだと全然意味をなさない、といったことはもちろんあると思うんです。それを踏まえた上で、すべてのジャンルに適用できる「良い音楽」の共通点みたいなものは漠然とあるんじゃないかなと考えていて、それをできるだけ詳しく見たいなと思っていますね。

取材・文:Flat
編集協力:しま


鈴木凹 プロフィール

https://twitter.com/_suzuki_o

https://jake7.bandcamp.com/

https://note.com/suzuki0

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