見出し画像

朝に纏わるエピソード

モーニングターーーーーーーーイム

私と坂

私は今までとても朝に弱い人間だった。学校の日にはいつもギリギリに起き、漫画やアニメの世界のようにパンをくわえながら登校した。小学校まで登校に1時間。大人になった今でも、7時03分のバスで通っていたことを覚えている。私の家は坂の上にあり、坂の上からは、海が見えるほどの高台だった。バス停は坂の下にあって、家からバス停までの距離は徒歩5分。なのに毎日7時に家を出て、走って坂を下って、7時03分のバスに乗るが、たまに乗れない。乗れない時こそ坂が憎かった。本当に嫌いになった。今思うと、完全な八つ当たりである。坂の上からは、富士山が見えたが、静岡生まれの私にとって富士山は貴重ではなかった。ただ、大嫌いな坂の上から見える海が好きだった。


湯沸かし孝行

お湯を沸かす。ただそれだけのことだが、喜んでくれる人がいる。私はアジア系カナダ人の夫の家族と同居している。メンバーは私を含め6人。彼の両親、妹、そしてお婆ちゃんがいる。そして正直にいうとなかなか厄介な家族である。義母と義祖母はヒステリック&女王様気質で、機嫌が悪いと怒鳴り始め、なかなか家族に対する愚痴が止まらない。他の家族もヒステリックが始まると手がつけれれないため、みんな部屋にこもってしまう。こちらからすると、いい迷惑である。私も理不尽な理由で怒鳴られ、何度も心が折れたが、2年経った今、私は義母からも義祖母からも信頼されるポジションを獲得した。私の挑戦は、小さな愛情表現から始まった。義祖母は朝起きると必ずコーヒーを淹れる。その習慣に気づき、タイミングが合う日は義祖母が起きる直前にお湯を沸かして、コーヒー用のお湯を用意しておく。笑顔でおはようと言い、あなたのために沸かしておきました、と伝える。始めは、無視され、ありがとうも言われなかったが、何度も続けていくうちに、喜んでくれるようになった。私が義祖母をもてなしたい気持ちが、義祖母に伝わった。そして私も喜んでくれるのが嬉しくて、幸せな気分でお湯を沸かすのである。


たかが湯されど湯

それからと言うもの、私の愛情表現は伝染した。誰かの手料理が美味しく感じるように、誰かが自分のために沸かした湯もまた美味しいのである。今までツンデレだった義祖母が、私が何か手伝うたびにありがとう、と言ってくれるようになった。最初は挨拶も無視されていたのに、今では笑顔でおはようと言ってくれる。お湯を沸かす行為が家族に平和をもたらした。

ティファール、ありがとう。



この記事を少しでも面白い、もっと読んでみたい!と思ったら

スキ!とフォローしてね!

コメントも受け付けています。