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【湯玉】ちょっと語るよ

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門


〔両親について、少し話そう。あくまで作り話。描写はないから小説ではない。〕


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美しいルックスと子宝に恵まれた女の自殺。その最終的な引き金が幼子の転落事故での自責だとしても、根っこにあるものは育児ノイローゼの類いなんかじゃなく、夫の稼ぎの実態が被害者ありきの犯罪だと二人目を産んだ後で知り、そうして悩み抜いた末の決断。妻を亡くした男はさすがに省みてか単純に捜査機関への撹乱のためか“表”の専業となったと、相当後に第三者から俺は聞いた。にもかかわらず、裏っ側で強い結び付きのあった逆うことのできない人物からの要望に応える形で、思春期以前でまだ“そういう行為”をよく分かっていない息子に、社会に潜む忌々しい欲望の持ち主たちを満足させる「仕事」を強制。ほとんどは男だった。男同士の行為ならそれはスキンシップであって何も疚しいことはないと、そう父に言い聞かされたものだ。スーツ特有の匂いや男物の香水の匂いが嫌いになったのは、いつだったろうか。眠ることで忘れるまではいかずとも記憶を薄める機能が強化されたのがこの頃だったとは憶えてる。


自分のせいだとばかり思ってた母の死にもうひとつの要因があると知ったのは、不登校児になった俺が父に男娼の真似事をひたすら続けさせられ、声変わりを節目に相手の顔ぶれも差し替わったことで。行為中と前後、肥え太ったまるで少年漫画のキャラクターのような年増女は教えてくれた、俺の父がこれまでどんな「仕事」をしてきたかを詳らかに。今思えば、悪趣味な狙いがその女にはあったんだろうなと。それかもしくは、過度の可哀相にやたら興奮するような変態だったか。


そっから先の転換点は、過去の父の被害者がどうやってか偽装を貫き父の所在を特定し、息子の俺を取引のために拉致した事件。あの日、俺は拷問のそれを身をもって知った。何か情報を吐かせるという目的ある拷問とは違えど、体験した身になってみれば同じだよ、限界まで苦痛を被らせる拷問のそれと。これまでの変態との淫らな戯れは、似たようなものでも慣れてたから。「なんで俺がこんな目に」と血を流しながら憤ったあの日が、少年男娼の仕事のため一人称を「僕」に父から強制されていた俺が大きく変化した日。そしてその日は、母を絶望まで追い詰めた父への復讐を誓った日でもあった。


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話を聞くだけでは現実味のなかった父の所業の数々が、その被害者である男の激情を暴力として受けることで嫌でも思い知ることになった、確かな現実の出来事なのだと。幼い自分がしでかした虚ろな母の気を引くための危険なパフォーマンスの結果、母親失格の烙印を母自身に捺させ、首を吊らせた。すべて俺が悪い、そう思い込んでいたが、その日ようやく想像が及ぶ。きっと母は、たくさんの人を苦しめて生まれた罪深いお金でこれまでの幸せが成り立っていた真実に耐えきれず、心とやらが壊れ果ててたんだ。


拉致から始まった事件は、なんらかの交渉が父と男の間で進んだ先のおそらくは多額の身代金的なあれで完結した。顛末も糞もない。やりとりの詳細も男のその後も、まるっきり分からずじまい。俺自身、あえて知ろうとしなかったのもある。幼い頃に喘息であれこれ儘ならなくても兄弟喧嘩の延長で殺されかかっても、「死にはしない」の態度で済ませていた父。実際に告げられたのも憶えてる。だがさすがに拷問じみた暴行を経た直後の息子の姿を前にしては、例のごとく血相を変え声も上擦ってたよ。


六つ上の兄は当時、高校に進学せず父の仕事を手伝い始めてから何年も経過していた。その時点で察してた、あぁ父はまだ“裏”とも緊密なんだなと。だから俺は本心を隠した状態で、肉体からして“できあがっていた”兄に半ば師事し、いくつかの約束を条件付けられるのを対価に徹底的に叩き込んでもらった。護身術それ以上を実行しえる『クラヴマガ』を習得するのは、それよりだいぶ後。父の悪事に加担し父を破滅させる材料集めに勤しむようになるまでに、悪事がらみの諸々の知識も最低限必要であり、もし中学高校と大勢と同じように通っていた場合の勉学と並ぶ程度の費やしぶりだった。中学も不登校児やって、父に無理くり入れられた私立の高校もすぐに退学した俺には、友達一人すら作る環境はなかった。他人にてんで関心ないのだから、当然と言えば当然。だからこそかな。母の母だった人、祖母の存在は誰よりも大きかった。


冗長か……結末だけ述べてしまおう。俺は、父を罠に嵌めて破滅させ、自らの手ではなく第三者の手で。裏切り者として見せしめ的な処刑か、はたまた“裏”のネットワークに害となっての口封じか。その辺は適当に想像で補ってくれ。


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〔オフィーリアの話をしようか。想い人に傷つけられ溺れ死んだ、可哀相な女の話を。〕


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他者から蹂躙される気分を散々味わわされてきた俺が“力”なるものに憧れ、それを短絡的に暴力と履き違えてしまうのは、とても自然なことだった。はなから惨めな男のなけなしのプライドを屈辱感で染め上げることで何が起きるかなんて、周りを見ようとしなかった当時の俺に予想できたはずがない。あんなことになるなんて、分からなかったんだ。大切な誰かをまた自分のせいで死なせることになるなんて……


俺が生まれるより以前から父が何をしていたかはここでは述べれない。語る上での要項のみ挙げるなら、息子の未成熟な体をも利用して自身の立場を強くしていったのと、感謝してか少年と呼べない年齢になった俺に快く別の役割を与えてくれたって流れか。物理的な強さに中二病だか高ニ病だかよろしく固執してた息子の望むとおり、最も合理化された格闘術『クラヴマガ』の達人を俺の師匠にと雇ったのも父。それの体系化された基礎が護身術なんで、とばっちりで息子が巻き込まれた事件のことを後ろめたく感じていたんだろう。


警察を父はやたら忌避し、おかげで暴力を試す機会を奪われていた。そんな俺に組織は、まさにお誂え向きの仕事を与えた。美人局役の彼氏役。概ね想像つくだろ。想像どおりの役回りさ、腐れ外道の。問題はその美人局役にあった。彼女はアイドル級の愛らしい顔をしていて声までアニメ声。ただし神の配剤ってやつか脳にほんの軽度の障害持ちの言わば「おバカ」で、ついでにメンヘラ。組織に加入した経緯も、彼氏が記念と称して撮影した複数の動画で金儲け利用されたあげくその彼氏に脅迫されてAV女優になり貢いで、最後は情報を得た組織の者が善意介入して彼氏を懲らしめて、ってな感じだ。東京では、よくある話。あそこは欲深い連中が集まりやすいんだ、仕方ない。美人局役であり同時にそれは恋人役でもあった彼女は、自分の年齢が数個上だったのもあり俺のことを「珠貴ちゃん」と呼び、過去のことも未来のことも進んで俺へ話して聞かせた。弱い頭でも頑張って勉強し、夢を叶えるために大学へ通いたい。お金は学費だけじゃなく片親の母に一杯恩返しするためにも、そしていつか整形して過去と「ばいばい」するためにも必要なのだと。風鈴のような声で、そう。


十八の夏、美人局役の女は相棒の俺をも騙して仮想の国へ連れ出した。今の標的がディズニー好きらしく、話を合わせるのに一回も行ったことがないのは不都合だからと嘘をつき。オフィーリアにちなんで『水乃』とでも仮称。水乃はどうやら、とことん真っ暗な性格をした俺を少しでも明るくしたかったのかもしれない。その時点で俺に対して恋愛感情があったのかは、今となっては分からない。異性とのデートらしいちゃんとしたデートは後にも先にもその日が唯一。泊まりとかはせず。そもそも水乃とはそういったあれじゃない。少年期に恥ずべき穢れを全身隈なく浴びていたというコンプレックスは、多少なりとも近い過去持ちの彼女相手でも“無し”にはできなかった。


以後も俺たちは組織の構成員でいるために悪を為す必要性を強いられ、美人局の詐欺と強請を続けた。情報で売られうる立場にいさせて裏切りを防止する首輪をかけておくみたいなもんだ、そのやり方は。握る弱みの鮮度を常に保っておく上手いやり方。水乃は出会い系で男を釣る。そいつは初めの印象では、女好きのいわゆるヤリモクいうよりむしろ異性と縁がなく悶々とした欲望を抱えた奥手な非モテ。聞かされたのは、そいつがまだ童貞らしく会ったら意外と母性くすぐる独特のキュートさがあるってこと。実際に標的たる男とどこまでしたかを水乃が俺に話すことは、いつからか一切なくなっていた。段取りどおり動き、いざ鴨を搦め捕ろうとした際、向こうは抵抗してきた。それも明確な格闘技で。面食らったよ、鍛えてるなんて水乃から聞かされてないばかりかその容姿とのギャップが笑えるほどで。だから、すでに暴力の振るい方に慣れていたというのに加減を忘れてそれこそ命懸けをしてしまった。そいつにとって、何がなんでも死守したい最後の砦だったんだと思う。初めての「カノジョ」水乃も、自身のプライドと同義な“強さ”も。それを壊滅させたのは俺で、それこそ命懸けで意趣返しされるなら当然それは俺であるべきだったのに。水乃が「ママ」にだけは知られたくなかったであろう、素人としていくつものAV出演を余儀なくされた事実と共犯者であるこの俺と美人局を繰り返してきた事実。そいつは財力で興信所(探偵)を使い、それらの事実を容赦なく水乃の母親へ突き付けやがった。


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状況を知ったのは、組織の者が用心棒じみた仕事の依頼を寄こしてきたことに疑問を投げ、それへの返答としてだった。美人局役は今、使い物にならない、と。水乃からの連絡が途絶えて以後およそ蚊帳の外で、格ゲーとRTA(早解き)のガチ勢やりつつ筋トレ等の鍛錬しかすることのない引きこもりに。生粋の友達ってわけじゃあるまいし、密にやりとりなんかするはずもなく。どうせまた病み期に入ってるだけだろう、すぐに復活する。そう思ってた。組織の者は説明を続けた、鴨が梟になった、と。フクロウ、猛禽類、凶暴。連想を活かした暗喩だ。それは過去の標的が策動していることを意味していた。直近であれば水乃に欺かれたあの男。その気になれば暴力を行使できるあの男。水乃の身を案じてというより、あいつが被った心身のダメージに比例して本能的に“報復”の恐怖を俺は感じてて、すぐにでも状況を把握したかった。水乃の住所も部屋番号も知っていた俺は、連絡つかないならじかに確かめるしかないと、費用を惜しまずタクシーを街で拾い直行。水乃は俺が来たと分かったらメッセージで「待ってて」と告げ、数分後に部屋から現れた見覚えのある男(組織がらみ)が黙って立ち去り、あぁ“やってた”んだなと疑うまでもない状態の水乃が姿を見せた。薬への嫌悪感もさることながら、あったよ、これまで直視しようとしなかった彼女の性にまつわる過去と現在への嫌悪感。


水乃から話を聞いた。俺が全力で負かした被害者、あくまで水乃を俺みたいな男から救い出そうと探偵を雇いあれこれ調査させ、そうして知り得た事実を水乃の母親に何もかもを教えたらしい。きっとあいつは、水乃が母親の言うことなら従うと期待したんだろう、悪い連中と縁を切る期待。正直、話の内容はどうでもよかった。水乃の過去をほとんど初めから知ってはいても、彼女と関わり合いどこかで理解を拒否していた自分をそのときに見つけてしまったから。俺は、弱ってる彼女に追い討ちをかけるような言葉を吐いた。傷つける言葉の数々を。「この際、本音をすべて言わせろ」といったポーズで。


翌日、水乃は神奈川のとある場所で溺水による遺体となって見つかった。俺への想いは、遺言もどきで知った。


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あいつにも仮称を付けようか、惚れた女の前でお漏らしと命乞いをさせられた彼にも。姓で鴨志田が似合うな。鴨志田は、障害持ちの水乃が俺たち悪党に騙されていただけだと最期まで信じていた。そう、最期……今際の際まで戯れ言を言ってたよ。


水乃の自殺があり、初めて警察官って人種と話した。取り調べ。どういう間柄だったのかは適当にごまかした。恋人未満の友達、と。組織あるいは父が裏でどう動いたかは知らない。動いてなかったのかもしれない。いずれにしても、あのときの狂い始めてた俺から厄介事が遠ざけられたのは、ありがたい。食い扶持どうこうじゃなく、単純に何かをしていたかった俺は、組織から仕事をもらい冷えて凍結したような精神状態でそれをこなしていった。俺が当時に何をしていたかをさらっと書くなら、クラッカー予備軍のハッキングの“テク”を有する連中を組織がすでに囲ったハッカーが特定し、対象を無害化するべく非物理的に抑える。要は脅し。相手に分からせる、と書くべきか。上手く、逃げれていたと思う、水乃を死なせた罪から。ただ、元が不登校児で引きこもりの性分まんまだったのもあり、自罰の念も相まって異性たる女とで少しでも良い思いをすることは一切なくなった。恋愛どころか異性との交わりを禁じたわけだ、つまり。そんなつもりはなかったが、自然といつの間にかそうなっていた。今になって分かる。俺がある意味で正常に狂っていったのは、そのせいだと。「カノジョ」とやらを得て、そのカノジョに慰めや癒やしさらには安らぎをもたらされていたら、ここまでの何もかもすべてがまるっきり変わっていたかもしれない。


仕事にはまた相棒が用意された。兄が捕まえたらしいハッカー族。言ってしまえば、お古。情緒的に冷めていたもののなんだかんだ荒れぎみだった俺は兄と絡むことはまずなく、その分そいつに兄を感じていた。兄由来の縁だからか兄の年齢に近いことで補完しようって心理が働いたかは謎であれ。けどな……オタクだかヲタクだかの属性持ちの相棒の素っ裸は兄とは真逆の“表”で、俺の与り知らぬところで水乃の仇討ちに動く鴨志田と通じ、勧善懲悪を目論んだ。俺を嵌めたんさ、あいつら、結託して。


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確保されたハッカーたちは、人格込みでの利用価値を基準に仕分けがごとく捌かれ、その大半は企業の手に渡る。相棒が語るには、自分は「面接」に落ちたのではなく逆に厳選をクリアした合格者なのだと。興味がなかった、他人には。それでも相棒とは仲良しこよしになっておくべきだったんだろう、今なら分かる。下手糞だったんだ、俺は、人間関係ってやつが。短いながら一緒に「仕事」をした期間、何も通じ合えなかったことで互いに伏せていた本当の事情と胸裏を知ることなく、永遠に袂を分かつ結果となった。


その日が訪れたのは、冬。クリスマスを嫌ってたせいで、俺はいつになく荒れてた。流されてすっかり悪党風情になった自身に苛立っていたのもある。助っ人の立脚点で関与してた芸能人がらみの案件が長引き、気に入らない男たちと行動を共にしてたせいもある。とにかく俺は、矛先なく怒りを迸らせていた。折しも、相棒に個人的に依頼していた調査に著しい進展が。小児性愛者を客にした犯行グループ。組織の威を借りつつ、さも大義名分でそいつらをぶっ潰せる願ってもない好機。俺は舞い上がってた、それが罠とは露知らず。省略する。相棒は調査などまともにしちゃいなかった。亡き水乃とで美人局の被害者としたあの鴨志田となんらかの接点でつながり、ひいては自分の家族に危害をもたらす俺の兄へ対する反撃のための筋書きを書いていた。相棒の家族を崩壊させうる何かを兄貴が握ってるなんて、結局はいつも周りが見えてない俺にゃ知るよしもないだろ。


そこには鴨志田がひとりで居た。クラヴマガは、不意討ちか投擲で相手を怯ませてから絞め技に移行するのが基本。複数人を相手にする場合は、眼球や身体各部急所、他は足先を壊して弱体化させて対処する。投擲は、空気抵抗に負けない物ならなんだっていい、硬さが不充分でも。しかしその空間には何も、本当に何ひとつ“無かった”んだ。不気味なほど。それだけじゃない。有刺鉄線じみた小さな棘があちこち装飾された妙ちくりんな恰好をし、絞め技への対策まで鴨志田はしていた。なんとしても原始的な暴力で俺に勝ちたいんだと、言外にそれは伝わってきた。初めは、お遊びに思えた。水乃を不幸にして死なせた元凶と漫画みたく決闘したがってると。それがあんなことになるなんて……


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因縁あっての殴り合いは、別段、ドラマティックなものにはならなった。というかほとんど憶えてない。アドレナリンのせいか、すでに狂い始めていたのか、さあどうだかな。無意識に鴨志田になら殺されてもいい、いいや殺されるベきだと。そんなふうに心ってやつがとっとこ先走ってたのは感じてた。そこは憶えてる。言い訳がましく聞こえるが、だから俺の勢いは最初だけで、そのうちにわかに劣勢に追いやられていた。リアルな喧嘩ってのは、体力と気力の奪い合いで勝敗が決まるものなんだ。有刺鉄線もどきで絞め技が封じられるまでもなく、俺は拳と蹴りのみで格闘していたかもな、あれだったら。ぶっちゃけ、楽しかった。


ほとんど勝敗が決して間もなく、互いに聴き取りにくい声での対話が始まった。俺か鴨志田、どちらが始めたのかは不確か。憶えてるのは、奴にとって異性たる女とはどんな価値があるのかと、初めて妄想どおりの体験の相手……つまり初体験の相手だった水乃への想い。自殺した彼女のことをまるで何から何まで知ったような口振りに、俺はキレた。ああそうだよ、水乃を殺したのは俺だ。でもだからっておまえはなんだ?あいつの人生のすべてを知らずに、それも単なる「カモ」だったくせに、御大層に復讐果たすダークヒーロー気取ってんじゃねぇよ!我に返った時には、奴は息絶えていた。持病の喘息。発作。体力の低下。心不全。犯行現場にはDNAの痕跡だらけで、おまけに水乃を接点にした情況まで完備。逃げ場はない。それらがある以上、てっきり俺は塀の中に行くことになるとばかり思っていた。だというのに、組織の俺への手厚いサポートかはたまた組織にどっぷりな父や兄の懇願か、裁判すら挟まずに自由の身となった。そしてそのアクションを“撮った”のが誰かは、すぐに分かった。向こうから積極的に絡んできたからだ。恩を施してやったのだから、これからは自分に尽くせと言わんばかりに。警察どころか検察とも結び付くらしいその人物と顔を合わせた瞬間、掛け値なしで叫びそうになったのは今でも忘れない。少年だった当時の俺を犯していた顔と匂いがそこに在った。


最悪なことに、人生崩壊の危機から助けてくれた恩人は、小児性愛をこじらせた鬼畜なホモ野郎だった。


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〔父を間接的に殺すまでも、話そう。どうだ、よくできた《作り話》だろ?〕


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あれから、人を殺してしまったという実感はあまり湧かなかった。薄情というより、なんだろな、人殺しって存在たちの仲間に自分もなれた感慨がプラスに作用してたって感じだ。そう言うと語弊があるが、何か俺自身が特別な存在になれた。そんな意識が自尊心を支えた。社会の境界線を跨ぎながらも裁かれなかった特別な強く気高い存在。妄想に逃げるほかなかったのかもしれない。そうしないと、これまで飼い慣らした気でいた“闇”としか呼べない何か七面倒臭いものに、改めてごりごりと磨り潰される予感があって。人から磨り潰してもらった罪は、俺の奥で汚濁となって穢れの認識を歪めませた。だから、「カノジョ」とやらの代わりにはなりえない男との肉体関係を受け入れた。トラウマとかいうふざけたボスキャラと廊下一本で直結してやがる、その野郎との恥でしかない穢れたまぐわいを。罰には、ちょうどよかったんだ……


免れたとはいえ罪が払拭されたわけではない以上、組織は俺に下手に動いてほしくなかったんだろうな。しばらくは役割を振られなかった。であれ、真っ先に要求されたのはあの野郎の慰み者になること。動くな、はその次。仮に『五味』とでも記そう。五味はお抱えの弁護士を遣って俺を助けた。常に傍らに付き人も敷いており、そいつのジャニーズ然とした顔貌には本当に何度も吐き気を催したものだ。明らかに、そういう間柄だと知れたから。今だから言えるのは、俺はどっかしらで嫉妬感情を彼に向けていた可能性はある。冗談みたいな話だし、俺は断じてホモじゃないが、最初から五味を父親への意趣返しのために利用しようと決めていたからか?絵に描いたような美青年の彼がいては、何かと邪魔だと。


この辺りは記憶に鮮明だからと書き込みすぎたな。話を戻すと、裏切った元相棒を“分からせる”行動にも及べずにいた俺は次第に、薬を常習してる連中みたく頭が回らなくなっていた。投げやりだったのもある。刑務所暮らしの長かった男と同等なまでに女を欲しがっているくせ、気色悪い男に繰り返し犯され事後に毎回トイレで吐いてまで、父親に復讐したかったわけじゃない。自身をめちゃくちゃに壊れ果てさせることこそ、そうして否応なく衝動的に自殺させることこそ、俺が望む真の目的だったんだと思う。


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ひとりの刑事が接触してきたのは、自罰のルール変更をし、非合法の薬に手を出しそこらの女も抱いて良い気分に浸ろうかと欲望に堕ちかけた頃合い。その時点ですでに狂っていた俺は、眼球や臓器を欠損しかねない綱渡りなストリートファイトを頻繁にすることでガス抜きをし、そのたびに警察と絡む事態は避けられなかった。がしかし、その刑事はそっち方面とは一線を画する、警察手帳だけが刑事らしさを縁取っているようなタイプの人種。例えるなら、韓国だか台湾だかの派手めな歌手のようなそんな。ようやく、正気に戻るだけの理由ができた。『倉持』と名乗った男は、どうやら俺側の組織を内部分裂させたがってる様子で、そのために言ってみれば「協力」という名の“利用”を求めてきたと。頭が回らなかったんだな、やっぱり俺は。倉持の正体が組織が買収した刑事で、こういった遣り口で組織を裏切りかねない俺のような因子を炙り出している可能性もあったのに。まるで骨付き肉に跳びつく架空の犬みたいに、釣られる形で倉持の寄こした台本を読んだ。界隈じゃ、映画にちなんだ隠語がよく使われる。倉持の前では不承げに演じた俺は、役者になる上での譲れない条件を彼に提示した。あんたらが悪の組織の空中分解ってな絵空事を描くのに、まず親父をターゲットにしろと。正直、露ほどにも思っちゃいなかった。倉持側にどれほどの組織力と切り札があろうと、あの組織をスポイルするだけの威力なんてありえない……と。俺はただ、親父さえ潰せれば、それでよかったから。


五味に知られた。監視されているとは気づいていたが、音まで拾われているだなんて想定外。本当に頭が回ってなかった。根本的に俺は馬鹿なのかもしれない。起因は、あの日に水乃と「キメセク」をしていた組織所属の男に五味との肉体関係を嘲笑われ、それに対して字義どおり半殺しを実行してしまったことで。なぜそれが起因なのかというと、同じく組織所属であった美青年が俺の監視を命じられた契機になったからだ。五味の付き人は、刑事と策謀するという裏切りの真っ最中の俺の愚行を上へ報告することなく、謎の心酔対象である五味にのみ報せていた。終わったと思ったさ、そこで。実際には僥倖だった。これ以上ないくらいのチャンス。


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父親への復讐。母を早死にさせ、俺をあんな目に遭わせた、あの悪党への。その近道が眼前に発生したからと、俺は急ぎすぎたのかもしれない。五味は組織のあくまで外野に位置し、酔狂な奴はワインを瓶ごと牛呑みしつつ、彼らがどうなろうと知ったことではないと嗤っていた。要するに、目をつむると。そればかりか俺に力添えするとまで言いやがった。犯した過ちへの罪悪感に喘ぎ苦しみ、今では少年を買うなんてことは一切していないと、そこでようやく俺へ明かした。後に嘘だったと分かるが……まあそれは今はいい。とにかく、邪魔が入らずに済んで心底安堵したのを憶えてる。


組織から仕事を回されたのはその数日後。お得意様たる五味の指名だと聞かされ、嫌な予感はした。弱みを握られた形の俺に、何か極悪非道をやらせるんじゃあるまいな、と。予感は遠からず近からずだったよ。五味が過去に性的に好き放題していた少年が成人し、それで凶暴な梟となったから口を塞ぐかと思いきや、社会的に大成した彼の失敗の尻拭いをしろ……ときた。動かせる部下を持たない俺の立場ですることじゃない。それだけは判じた。要約すると、そいつは取引企業の令嬢と恋仲になり、しかし二股のあげくに令嬢を妊娠させ、あまつさえ俺みたいな輩を使って堕胎させ、令嬢とその家族から示談など不可能なレベルの恨みを買ったと。女に飢えたまんま無理くり我慢通してる俺からすれば、味方になるどころか敵対して半殺しにしたい屑だった。拒否できるものなら、していたさ、もちろん。


それから、令嬢に心を奪われないようにする日々が始まった。一般に「SP」と呼ばれる警備会社の類いに捩じ込まれた俺は、お墨付きとして令嬢の身辺警護を担わされ、すべて何もかも茶番なのではないかと懐疑的になるほどの生活を重ねることに。社会生活と呼べるもの自体が、まず初めての経験だった気がする。そんな日々に終わりが訪れたのは、俺を信用させるべく派遣された自作自演要員たちを彼女の目の前で撃退したはいいが、事の深刻さを再認識した彼女の家族が裁判の準備をし始めたその週。恋愛の雰囲気があったというのに、傷物の令嬢とどうにもなろうとせず蓋をした俺の不始末だ。止められたかもしれなかったのに……


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誰のために何をすればいいのかが、当時、まったく分からなくなっていたんだ。令嬢の家族の稼ぎ頭が脊椎を損傷し、逃げ場のない入院先に半ば幽閉された。企業には表沙汰にならない種類の水面下のバイトテロ紛いの実害が及ぼされ、績が落ち込むに伴い株価も暴落。俺はその辺はよく分からない。分かるのは、俺が何者なのかを知った彼女に哀願された“復讐”をしかし拒んだその理由。人を癒せる能力を具えた女の身で、ではそれを惜しみもなく与えた先はどんな男だ?復讐の対象である人物は俺と同じ過去を持つからまだいい。けれど、自身の愛らしさ美しさを武器に戦闘するでもなく異性の下心を刺激するだけ刺激し、その上で恋愛と称していともあっさり与えてきたんじゃないのか?過去、何人もの男たちに。当時から、女を妬むとは別に憎む想念があったと自覚できていた。彼女たち一家とは、いつかは……いつかは向き合わなければならない。


棚ぼたではあった。最終的に俺は何もしてないも同然だったのに、なぜだか組織はこの俺を評価した。なるほど、とは思ったよ。五味が俺のために裏で手を回した結果なんだと。以来のまぐわいは一層、反吐が出た。それでも五味は俺を介さずに警視庁の倉持と会うまでに計画に協力的な姿勢を見せ、いずれは露見するリスクを留意して“アクション”を早める催促までしていたらしい。親父を破滅させる鍵は、俺や倉持ではなく五味が握っていたと言っても過言じゃない。計画の全容と顛末は、あいにく話せない。親父の属性は「詐欺師」と「フィクサー」である点と、自分の幼い息子さえも保身やらなんやらの道具として利用していた点。このふたつから想像してもらうしかない。五味がパイプとなり、同じく少年の俺を買っていたあの肥満体型の女とつなげてくれたのも大きい。女は、親父の多くを知る重要参考人だったからだ。再会したその女とはさすがに成人した体では、やっちゃいない。そもそもが守備範囲外なはず。女は、意外なことに痩せ細っていた。言うまでもなく、薬にはまったんだろう。


親父が保身のために組織を裏切るよう状況をこさえてからしばらくして、思ったとおり、兄が俺の前に姿を現した。覚悟はしていたさ。鍛えたもらった時期に話しすぎたのだから、未来の意趣返しに懸ける思いの丈を。


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武闘派の兄が組織から任されていたのは、何割かの地下賭博の管理に加えて、興趣をやや逸脱した地下闘技場だった。もっぱら借金抱えた者同士を殺し合わせるような悪趣味の現場だよ、ここは。兄に連れられ、俺はそんな退廃的な場所で“話し合い”をすることに。だが、すぐに知れたさ、話し合いなんざ兄は微塵もする気がなかったと。父もいくらか関与する人身売買を象徴する児童……幼い少女がそこに居た。輩に拘束される形で。倉持との計画に必要な材料。死なれては困る存在。何も俺は兄の使者に拉致られて今ここに居るわけじゃない。協力者の女から連絡を受け、その後に兄にここへ呼ばれたんだ。人払いをした兄は、逃げながら戦えるよう従来より広めに設計されたリングに「来いよ」と先に乗ってみせた。広く、低く、硬く、黒いスクエア型。自信ゆえなのか、兄もまた自暴自棄になっていたのか、勝てばおまえの都合に合わせると言ってのけた。兄弟で殺し合いにならないとは言い切れない状況だというのに……


小説じみた描写はしない了見だ、ここも。確かなことは、父親譲りのラテン系に似た顔つきだった兄を憎き相手に重ね、かねてよりの妄想を実現させるみたく殴り、次第に認識が麻痺すると同時に“狂い”のスイッチが入り暴力に支配されていったこと。それらふたつの要素があって、兄を打ち負かせた。戦闘中に『珠貴』という俺の名を何度呼んできたことか。兄の片目がその視力をほとんど失ったことは、後になって知ったよ。が、兄弟で絶縁するに至った経緯は、それとはまた別の因果がある。


スケープゴートにされると踏んだ父は、しかし組織をあからさまに裏切るような動きを見せなかった。己の身を護ることに関しては徹底していた父だけに意外だった。観念したということか?警視庁の倉持は想定内のようで、ここから勇ましく掃除ができる算段だったらしく、将来的に俺を父の後釜にさせてさながら潜入捜査官の真似事をと言っていた言葉の浅さがそこで分かった。だから、俺自身が動くしかなかった。父があたかも組織を裏切ったかのような捏造をこさえ、そう、組織の自浄係に殺される筋書きを書いたんさ。おとなしく殺されてくれたよ、親父は。


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〔組織を抜けるまでで、いったん締めくくり。そうして、空っぽの男が生まれた。〕


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父が死んだことよりも、どう歪曲してか兄との男同士の決闘で勝った事実が一人歩きし、組織総体から一目置かれるふざけた立ち位置に俺は強いられた。これといって目的もなく、欲望も抑えるのがあたりまえで、ただただ荷重が増したという感想しかなかった。母や水乃を死なせる引き金となった罪悪感があり、女との一切は頑なに“無し”で通したが、非合法の薬をいくらでも望めば“ありつけた”誘惑には抗おうとしなかった。幹部じみた地位を授かったことでの益と言えたな、そこだけは。「仕事」は配下だか仲間だか定まらない連中に放り投げ、俺は淫靡のみ抜け落ちた自堕落そのものの生活へと例のごとく堕ちていった。あの五味が少年を買っていると情報が入るまでの記憶は、ないも等しい。


万能感があった。元相棒はとうとう俺から逃げおおせた(おそらく組織上層が庇護)わけだが、巷のハッカー掌握と運用の業務を組織から任せられたことで、東京の街という街がすべてジオラマに見紛うほどの錯覚を得られていたよ、当時は。もちろん、薬の薬効が脳に染みたためでもあっただろうが。リスクは冒せず、親父が消されてからは倉持ら刑事との縁は断絶していた。だから警察の利用は俺にはまったくできない。組織に護られている立場の五味を懲らしめるすべは、どっかの正義を掲げたどっかの団体を焚き付けるだけで事足りた。隷属してるハッカーくんを使えば、それはすぐに済んだ。五味が法の執行とならなかったのは、あえて野放しにしていたとなると具合が悪い捜査機関サイドの圧も及んだと察せた。つまりは、明るみになる前に謀殺された。


父の葬儀について話してなかったか。親父は婚姻をパスして子持ちのシングルマザーを内縁の妻にしていた。喪主は彼女だ。まさか死を予期してたってわけじゃあるまいが、遺産がその親子に渡るよう様々な手続き工作をここ数年でせっせとしていたんだと。闘うまでもなく、譲ったさ、さも当然のようにその親子に。俺は母方の祖父母と参列した。兄は現れなかった。葬儀にて、あの女が俺に対して言った文言を今でも憶えてる。「顔が綺麗で背も高いし、すぐにでも新しい家族を持てますよ」と。親父や五味を八つ裂きにしたのもあるが、このせいだと思う、あんなにも毛嫌いしていた薬で廃人化したのは。


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歴史は阿片からなんだってな。中毒性を取り除こうとした結果、逆にそこばかり顕著となった魔の薬が生まれ、やがて鎮痛作用の王様たるモルヒネが造られ、そのまま悪名高いヘロインへと連なっていった。いっそ壊れ果てちまうのが目的だったんだから、もはや躊躇はない。捕まえたクラッカーのひとりが荒稼ぎした潤沢な資金で国外のカルテルの裾を抓んでて、そこから無尽蔵にそいつの懐に供給されていたのがまた幸運だった。いいや、不運だったのかもしれないな。ともかく俺は、薬で蕩ける以外の選択肢を丸めて捨てた。廃人ルートまっしぐら。組織が求めてきたのは、粛清された親父とその領域の後継ではなく、単純に虎のごとく威圧というか中間管理職としての最低限の機能だけだった。やり甲斐なんてものはない。あったのは、いかにして悪を為しちゃいないと自分自身を勘違いさせて葛藤を放棄するかのゲーム性。それらすべては、薬に委ねた。状態が手遅れになるまで看過されていた俺は、ビジネスの局面にて破滅的な選択をしたことで組織の逆鱗にふれてしまったらしい。詳しくは憶えてないが、混沌の中の秩序を乱す要因となったのは確か。女ではなく薬の柔らかさへと逃げ込むように甘え尽くした結果、ランドセルを背負った少年となんら変わらない判断能力になっていたんだと思う。きっかけを組織は待っていたんだろうな。ハッカーら玩具を取り上げられ、それに紐付けされた職務も左遷され、傘下の詐欺師たちの支援という仕事も一度に失った。さらに法律まで追い討ちを。精神病棟同然の更生施設への強制収容。そのアクションを“撮った”のは兄で、密告こそしなかったもののやはり親父を終わらせたことへの怨恨が多少なりともあったのだろう。俳優じみた顔で「おまえは終わりだ」と俺へ向けた眼差しを忘れるわけがない。絶縁して相当な年月が経った今では、薬からも組織からも俺を引き剥がしたのは兄なりの同情が含まれていたのだと分かる。温情かどうかまでは分からないが……


もうさほど話すことはないよ。そこで他の薬で薬漬けにされ、廃人生活を何年も続けた。あんなに猛々しかった筋肉は薬物中毒者の因果で見る見るうちに分解されていった。小説中毒になったのは、その頃だったかな。物語たちが何よりの救いだったのは憶えてる。


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数年後、俺は解放された。全財産は施設に入る前に実刑を免れたりの費用と入所の費用とで弾け飛んでいたから、一文無しと言って差し支えのない無様さ。出してくれたのは兄というより、あの女だった。あの、幼い日にベッドで俺の父親がどんな悪い奴か教えてくれた肥え太った年増女。その時点では痩せていたし纏う香水も変わってはいたが、個人的な憎らしさは据え置き。それでもまあ互いに毒素が抜けたなと感じさせる空気は間に漂っていたっけ。いちおう、初体験の相手だった。中年となった女は、遠目では母娘にしか見えない少女を連れていた。齢、十五。驚いたことに、少女は、数年前に俺が巻き込んだあの女児だったんだ。それがなんでこの中年女が連れているのかというと、話せば長い。とにかくあれだ、里親が下劣でこの子に軽犯罪をさせ、嗅ぎつけた中年女が持てる力を行使して引き取ったと説明しておく。罪滅ぼしか?独特な憤りは湧きはしたが、施設で薬と共にやはり奥底に溜まった澱のような毒素も洗浄されたのかもしれないな。俺は、唐突に始まった不気味な共同生活を半ば受け入れてしまっていた。


少女は不登校だった。通ってた中学の教室でリストカットをして周りを引かせたのが最後の登校日。以来、中年女がショタコンのくせになぜか少女をいろんなところに連れ回していたとのこと。得られなかった家族のそれを埋め合わせてるんだろうと、察したさ。利き腕ではない左の前腕がリスカの傷痕で覆われていたのみならず、少女はあろうことか俺に、傷を求めた。気持ち悪いとは感じなかった。ただ、施設を経て女への飢餓感を忘れかけていたところに新鮮な刺激になったのは憶えてる。でもな……何もしなかったよ。何も。少女は同性愛を自認しており、実際に歳上の恋人がいた事実に助けられた形ではあったと思う。その恋人と仲違いしかけ情緒不安定だった未成年といくら同居していたとはいえ、どうにかなるなど、そこまで俺は落ちぶれちゃいなかったというわけだ。


そして、憧れの京都を俺は選んだ。何もかもをリセットして、生き直すつもりでいたのに。なんでかな、いかんせん無理っぽい。日雇い派遣労働者としての暮らし。出会い系でのいくつもの男女の駆け引き。もしかしたら語ることになるかもしれないが、今はとりあえず、これで語り終えるとしよう。

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