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反人生/山崎ナオコーラ


山崎ナオコーラという強烈な著者名だけで、面白くないわけがないと思えてしまう魔力。すばらしきかな。

山崎ナオコーラさんを知ったのは「人のセックスを笑うな」だった。確か、文庫版の解説?か何かに「人のセックスを笑うな/山崎ナオコーラ」というだけで今年の文藝賞はこれが受賞作だなと思ったみたいなことが書いてあった。それだけでやっぱり山崎ナオコーラはパワーワードである。

今回は「反人生」を読んだ。こちらは「T感覚」「越境と逸脱」「社会に出ない」と4つの短編で構成されている。

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「反人生」を読み終わった後の正直な感想は???だった。とりわけ大きな出来事がある(実際はあるが多くを語られている)わけではなく、淡々と進む物語。勝ち組や負け組って言葉がある中で、実は人生ってシンプルで好きなこともそうでないことも淡々と続いているということを何となく感じた。

反人生を検索していたら、産経ニュースに「『キャリアを積む』『恋愛したら結婚する』『自分の物語をつくる』という感じで“自分で人生を作れ”ということがよくいわれます。でも、そんなのなくても生きていける、ということを書きたかった」と著者の言葉として掲載されていた。

これを見てから、また読み直したら生きるということ、反人生と人生を作りたい人との兼ね合いなどもっと楽しめるなと期待が高まった。

「T感覚」は数ページの超短編。T感覚を通しての木綿と絹子の絆、木綿が絹子をありのまま認めてくれる存在であったことが伝わってきて、数ページに込められた愛に思わず感涙。

「越境と逸脱」は大人ならば誰しもが環境の変化による友人関係の変化ではないだろうか。自分の平凡な人生と比べて、楽しい人生を送っていたり、何かをやり遂げそうという大物感のする友人と仲が良いことで自分の人生も輝くのではと、人の人生に期待してしまうこと。読むとなんだか他人事とは思えなく切なくもなるが、逆に自分の人生は自分の物という反人生とは逆の感情も生まれるから不思議だ。

「社会に出ない」は大学時代の友人が今でも年に2回の飲み会をしていて、そのうちの一人がいつからかフェードアウトしたという話だ。(まとめが下手すぎる)幼いころにした冒険心を思い出しながらも「大人」になった自分を実感した。自分の中では友人に話せないことを抱えながらも、時が経つと話せることがあったり。その当時は絶対に言えないと思っていたことが後から考えると何で言えなかったんだろうと思ったり。誰しもが経験することがちりばめられて少しチクりとでも暖かくも感じるお話でした。

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