見出し画像

詩と文化についての覚書

年末「一行詩いちごつみ」で遊んだときの話。
詩作初心者の方もいて「詩ってよく分からない」というような言葉がコメント欄にチラついていた。
それに対して、初心者でないメンバーの誰もが口を噤んで、答えらしきものを提示しなかった。
それが正解だったのだと思う。
おそらく「詩はこうである」と分かった瞬間に、詩が分からなくなる。
「詩ってよく分からない」と「詩を書くこと」はコインの表裏なのだと思う。

詩が個人の感情や感性を、ひたすら「個人の言葉で」綴っていくものと仮定すれば、そこには初心者と熟練者といった概念はなくなるはず。
実際に「一行詩いちごつみ」に並ぶ詩を見てみると、個性こそは際立つものの、そこに上手い下手はない。ただ読者の心と周波数が合うかどうか、それだけのように思える。
かと言って、多くの人の胸を響かせれば良いわけでもないし、強く響かせれば良いわけでもない。
やはり難しいね。

元々、音楽活動の一環として作詞などをしていた僕は、30歳までそれほど読書家でもなかったし、目立った文芸活動はしていなかった。
そんな僕が社会人大学生として文学部に入って、宗教文化(最終的には物語詩)を学ぶようになった背景には、1つの詩作品と1冊の小説があった。その2作品は自分の「外側」の世界への通路穴だったのだろう。
このような出来事を「オカルティズムへの目覚め」と揶揄する人もいると思う。僕はそれで構わないと思っている。

ただ自分のまだ少ない人生経験から、「生きる」ことは、論理的・哲学的に整理整頓・説明できることの方が圧倒的に少ない。世界にある「ものこと」だって、論理的に「説明」はできたとしても「納得」は出来るとは限らない。
そういった局面にぶち当たったとき、文学に出会う前の僕はひどく貧弱だった。目の前にあるはずの現象や感情を、表現したり受容するための術を持たなかった。

学生時代に学んだことをまとめて説明するには紙面が足りない。ただそれをできるだけ簡略化して視覚的に示そうとしたとき、下の図が有用だと思ったのでここに転載する。

これは文化現象としての仏教世界を図示したものだ。仏教がこれらの要素を兼ね備えていることを説明しているものだが、僕が思うに、知る限りのキリスト教・イスラーム・ゾロアスター教・ヒンドゥー教などにもこの図は当てはまると思う。どの宗教文化にも
・呪術的な要素=祭祀、呪詛、礼拝、儀礼など
・神話的な要素=物語、奇跡、終末思想など
・合理・哲学性=理論、倫理、道徳、科学など
・霊性
がある(霊性は僕には言語化できない)。

ここでポイントになるのは、この図は「信仰」の世界ではなく、「文化」の世界という点だと思う。太古から人はこのような「文化」の世界を信じて、創造しては享受して、生きてきたのだ。
文化は宗教に限らない。人間関係、文学、音楽、絵画、舞踊、学問など、すべての文化に、このような要素が少なからず含んでいるのだと思う。

現代の日本に生きる僕は、この図の外側から3つ目の円、すなわち「合理性・哲学性」の世界を中心に生きていることを否定できない。
この第3の円が拡大した世界、それが現代なのだろう。
しかし「文化的」に生きたいと願うなら、もしくはこの「合理的・哲学的」なだけの世界に閉塞感を覚えるのなら、やはり他の要素を無視しては生きられないのだ。
この図が記載されている書籍を手にとってから、「オカルティズムだ」という指摘に対する反論は、「文化的だ」の一言で済むようになった。
生きる場が広がり、生き方が豊かになった。

さて、詩の話に戻ろう。
詩は上の図の全てを包括する、というのが僕の主張だ。
呪詛を詩にすることもできれば、神々への讃歌・物語詩というジャンルもある。論理的・哲学的な詩を書く近代の思想家もいるし、特に現代では個人の魂の救済のために詩が書かれもする。

現代詩が難しく感じるのは「霊性」を扱っているからだと思う。「言葉」の魔力を用いて、「言葉」の刺繍を編んで、「霊知的」なものを表現していく。それは共通言語としての言葉を捨て、理性の鎧を脱がないことには、読むことも書くことも難しい。
ただその世界を知ったときには、人種や性別や職業や立場や、、、あらゆる区別・区分を超えて、作品とそれを紡いだ人を通して、世界と人々を愛おしく思える。そんな素晴らしい体験ができるようになる。

結局、詩が何なのかは分からないけれど、生き方の幅を広げるための詩、という選択肢があるはずだ。詩には様々な「ものこと」を表現し、生み出しうる包容力がある。
知らなかった自分の外側の世界に行く。これまで気付かなかった自分の内側の世界(=外側)に向かう。
それが僕の30代の学生時代に学んだこと。
どんな強固な論理よりも大事な財産だ。
これからも、詩を書きながら、そんな旅を続けていく。

【参考・引用文献】
岡野守也(2004)『唯識と論理療法─仏教と心理療法・その統合と実践』佼成出版社

ご支援頂いたお気持ちの分、作品に昇華したいと思います!