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ふらりこころ海へ

水の音がないと生きていけない。
蛇口やシャワーヘッドから出る音じゃなく、
無秩序の秩序を教えてくれる音が好きだ。
だから、川沿いに住んできた、
海沿いに住んできた。
今は……残念ながら、どちらも傍にない。
悲しい。

いつもが悲しければ、再会の日は嬉しくなる。
悲しみは抱えながらでも生きていける。
強がりではなく、言葉の綾でもなく、
最近はそう思う。
寄せる波、返す波。
別離、再会。
砂浜に引かれた鋸歯状の線は美しい。
どうせなら気怠くジグザグ歩こうと思う。
ただ悲しみを悲しみの姿で
抱えていることは悲しい。

夏の海は残酷だ。
孤独な海に見せつけるかのように、
恋人や家族や友達が戯れる。
「焼け焦げてしまえ」
そう思いながらも、
海は彼らの焼けた肌を優しく冷やしてしまう。
でもあまりはしゃぎ過ぎちゃダメだよ。
あらゆるものは目の届かない奥深くに、
怒りを隠しているのだから。

少しレンズを傾けるだけで
僕らが守られていることが分かる。
大地に、重力に。
ねえ、君は何に守られている?
人の顔が浮かんだあなた、
「果たしてそれで大丈夫かな?」

海を眺めて、
悩みがちっぽけになることなどない。
ただ海がでっかくて、
人間が小さいだけだ。
これも呪術的思考だ。
こじつけってやつ。
人ってそもそも
科学的な生き物じゃないんだよ。
あれも、これも、それも、呪術的。

影の背が縮むのは
童心にかえるため。
だとしたら、
影の背が伸びるのは
早く大人になりたかったから。
……だったんだね。
詩はいつだって呪術的だ。
大人になったからといって、
呪術を封印しなくてもいい。

夕暮れ時の僕へ、
また会おうね。

ご支援頂いたお気持ちの分、作品に昇華したいと思います!