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レントよりゆったりと〔随想録〕

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2017年10月の記事一覧

エッセイ「詩と小説」2. #執筆観

 室生犀星は1910から20年代は詩を多く書き、1930年代には小説の多作期に入った。1934年には『詩よ君とお別れする』を記し、詩との決別宣言を述べたが、その後も詩作を続けている。

 愛を唄う詩人は、出自や容姿のコンプレックスを克服するために詩を書いた。もっとも弱い人間が、もっと弱い人間を見つけ、手を差し伸べたくなるような詩だ。弱い人間は他人に手を差し伸べる瞬間だけは強くなれる。その差し出した

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エッセイ「詩と小説」1. #執筆観

詩という絵画をいくら重ね合わせても物語にはならない。詩の持つ、時間と空間の・主体と客体の伸縮性が、小説の時間的順序の中では、双方に悪影響を及ぼしてしまうからだと思う。
詩的な物語を書きたいと思った時、登場人物に詩的な散文を吟じさせて満足するか、筋に重きを置かず客観的事実が少なく抽象性の高い文章に挑戦するか、しかないのか?
と、ここまで書いて結局自分は詩的な物語ではなく、実は美的な物語を書きたいとい

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