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最近読んだ韓国人女性作家の本4選

最近読んだ、韓国の女性作家の本が今の自分の心にすんなり入ってくるものが多かった。爽やかな後味の作品、ズドーンとくる作品などバラエティ豊かだった。

『屋上で会いましょう』チョン・セラン

群像劇やSF、歴史物など多彩な9編の短編集。たいてい短編集はいくつか合わないものがあるが、全ての短編が好きだった。想像力豊かなヘンテコな話が多め。

1番好きなのは「屋上で会いましょう」。
主人公の「私」と仕事の苦労をわかちあってきた先輩女性たちは、次々に結婚して退職。彼女たちは呪文書によって運命の相手を得たという。「私」も呪文で旦那をゲットするが、彼は人間でない幽霊のような存在で、人の頭のつむじから絶望を吸い取る謎の生き物だった…。

ヘンなSFだけど軽快な語り口でテンポよくスイスイ読める。不思議な世界を体験できて、読後は爽やかな感じ。韓国の厳しい労働環境や女性の息苦しさなども感じられる。

「ウェディングドレス44」は、1着のウェディングドレスを着ていった花嫁たちの群像劇。
「永遠にLサイズ」吸血鬼に襲われて、干し柿が苦手な吸血鬼になる主人公の話。
「ご存知のように、ウニョル」は歴史学を専攻していた作者の視点を感じる話。
現実とファンタジーが行き来する独創的な話が素敵だった。

チョン・セランさんがなかなか文学賞を取れなかった理由が「主人公が明るくて悩みがない」からというのがわかる。
でも私はそこがいいと思った。人や社会の暗部をドロドロ、ぐちぐち描写する小説がすこし苦手なので、コミカルにシニカルに書いてくれる作者さん好きだな。

『保健室のアン・ウニョン先生』チョン・セラン

私立高校の保健室のアン先生がBB弾とおもちゃの剣で、学校に出没する悪霊と戦う話。大きなパワーで守られている堅物の漢文の先生から力を充電しながら戦うファンタジー。

悪態をつきながら、おもちゃの剣で怪物に斬りかかるアン・ウニョン先生がナイスキャラ。悪さをする2人の男子高校生の脇毛を飾りむすびで編み、エネルギーを封じる『幸運と混乱』などとにかく独特。
思春期の高校生が抱える悩みや理不尽な環境が怪物と合わさって、本人や周りに悪さをしてしまう。悪霊を退治するセラピストが子供(大人もか)に必要なのかもしれない。

『回復する人間』ハン・ガン

「傷と回復」をテーマにした7編の短編集。これもどの短編もよかった。

短編『回復する人間』の主人公は、お灸で足首に火傷を負った女性。放置していた火傷はひどい状態に。姉と和解できないまま先立たれた女性は、姉との思い出を回想していく。火傷がゆっくり治っていく過程と姉に対する後悔の構図。火傷と違って心の傷は1週間では治らない。身体の痛みを感じていたいと願う女性のひりひりした感情が伝わってくる。

文章が透明感があって、心にじんわりくる。元々詩作をしていたそうでなんか納得。

「曇色の空がだんだん明るくなっていきます。こうやって青い光が毛細血管のように、暗闇のすきまから染み出してくるときには、私の体内の血もまた違ったように流れている感じがします。私の意志、私の記憶、いえ、私というものが何でもないもののように消えていきます。波がひとしきり寄せては返すまでの短い時間に現れる柔らかい砂浜のように、わたしたちがここにとどまっている時間はわずか一瞬だという気もします。…」

『青い石』

『菜食主義者』ハン・ガン


心がどんどんかき乱されていく辛い物語。2016年国際ブッカー賞受賞作。

ある日を境に突然肉を食べなくなった主婦の女性を中心に、夫・義兄・姉の視点から3編の物語が紡がれる。

「普通」が取り柄だったのに変わった行動をし始める妻にイライラし、被害者意識を募らせる夫。女性の家族が無理やり肉を食べさせようとしてそこで悲劇が起きる。加速していく狂気に心がキリキリして、絶望的な気持ちになる。

映像作家である義兄は、主人公女性の蒙古斑にインスピレーションを受ける。女性を使ったアートを作ろうとするが…獣と植物の対照性が光る。官能的でグロテスクな章。

最後の話は、夫が去り幼い息子の世話をしながら、木になろうとする妹を見つめる姉の話。彼女に善良な姉がいたのはわずかな救い。でも姉は壊れられないから苦しみとまともに向き合う必要があり辛かった。


女性がなぜ菜食主義者になったのか、気味の悪い夢を見た内容以外は理由は明かされないが、夫や家族から個人として扱われず抑圧され続けたことで自分を守ろうとしたのかもしれない。本当にずっしり来る小説で、ハン・ガンさんの筆致に圧倒される。


近年はフェミニズムの観点から、韓国小説が注目されているそう。私はその視点で読んでいたわけではないが、たしかに社会制度や家父長制の下での女性の苦しみが根底にある話もあって考えさせられる。勉強不足なので日本と比較はできないのだけど。


他にも読んで好きだった小説やエッセイがあるが、字数が2000字超えそうなのでこの辺で。


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