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『傲慢と善良』/ピンとこないとは

辻村深月さんの『傲慢と善良』を読んだ。
ストーリーは、ざっくりいうと婚活アプリで知り合った婚約者が突然消えてしまい、行方を捜すなかで、現代の人間のパートナー選びの難しさを浮き彫りにする恋愛ミステリー……と言っていいのか? パートナー探しだけではなく、自分の生き方や内面を問う話。

前半は、ネット上で見かける婚活記事にあるあるな話な気がして(大勢が自分のレベルを勘違いしているという趣旨の)、あまりのめり込めず。そのうち育った環境や価値観の異なる多くの登場人物や相関関係が出てきて、詳しい背景描写にだんだん引き込まれていった。

東京育ちでモテてきた主人公・架(かける)と、地方育ちで控えめな性格の真実(まみ)。架が突然消えた真実を探す中で、彼女を育ててきた田舎の狭い価値観、過干渉な毒親の存在が明らかになる。
そんな真実は、"被害者"に見えるが、同時に"自己愛"が強い側面も持ち、「自分にふさわしい人」探しの迷路に迷いこむ様子もわかっていく。

結婚相談所を営む小野里夫人の言葉が印象的。

皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない。ーー高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが掴みたいだけなのに、なぜ、と

私は婚活アプリ未経験者だが、じゃこの小説がそういう人に関係のない話かというとそうでもない。婚活に限らず、自分のレベルを見積もって、無意識に傲慢な行動を取っていることがあると思う。「私にこの仕事は見合わない」「〇〇に失礼な態度を取られた」とか。別にそれが悪いわけではない。何くそと燃料になることもあるだろうし。この話では、自分の価値を見極めて努力するわけでもなく堂々巡りする人を描いていた。

私も進路に関しては真実と似たような態度だったな。学生時代はとにかく親の意向や印象第一で決めたので、社会に出てからは自分って何がしたいんだっけと途方に暮れた。
いろんな人が自分が普段フタをしている汚いところを自覚させられる本ではないだろうか。


はじめて辻村さんの小説を読んだが、嫌いなタイプの女性がいっぱい出てきてすごーーくイライラして疲れた……。
とくに架の女友達たちがいや〜な印象。垢抜けない真実が架を捕まえたことが気に食わないのか、「なんか頑張っちゃってるけど惜しい」「うまくやったよね」とか批評する。女性のネットリしたところがこれでもかと煮詰められていて、お腹いっぱいで胸焼けした。それだけ人物描写が鋭い作品ということなのでしょう。年収とか何でもかんでも数値で判断する風潮が強い世にぴったりの小説だった。

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