『不思議の国のアリス』は遠い国
神奈川近代文学館で開催中の「安部公房展 21世紀文学の基軸」に行ってきました。非常に充実した展示内容で見応えがありました。
安部公房作品といえばルイス・キャロル『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の影響が指摘され、本人もルイス・キャロルの作品から大きな影響を受けたと語っていたようです。
今回の展示でもこの点について触れた解説が見られ、興味を惹かれました。
ところで、私は安部公房の小説がとても好きなのですが、昔から『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』にはあまり縁がなかったです。
あらすじは知っていましたが、しっかり読んだのは大人になってからです。その時は角川文庫から出ていた福島正美訳の『不思議の国のアリス』を読みました。(現在の角川文庫は河合祥一郎訳です)
ですが、今一つ夢中になれませんでした。最初は訳文が自分に合わないのかと思い、他の翻訳を図書館で借りたり、別の訳を買って読んでみたりしたのですが、どの訳を読んでもどうも上手くハマれないという印象です。
多分大人になって読んだために、子供心を失って純粋にこの奇想天外な世界を楽しめないのだと思っていました。世の子供たちや芸術家たちに多大な影響力を与え続けている作品ですが、私にとって『不思議の国のアリス』は遠い国に感じられました。
それでもいろいろ試した結果、このようなナンセンスなストーリー展開や言葉遊び、イギリスの詩や歌のパロディが詰まった作品は原文で読まなければ、その面白さはわからないのではという結論に至りました。少しずつ原文で読み直してみると、なるほどこんな面白さや逆にこんな難しさがあるのかということに気づかされます。
私が持っている原書は昔買って少し齧っただけの積読本で、ジョン・テニエルの挿絵、マーティン・ガードナーの註釈付きのものです。
キャロルの原文はそれほど難しい文章ではなく、英語を学びなおすのにちょうど良いです。しかし、一度読んだだけではわからない意味の複雑さが隠されていて、当時の言葉遊びや生活習慣を知らなければわからない面白さも多々あります。ガードナーの原文註釈は少し難しいのですが、2019年に高山宏さんの訳で『詳注アリス』が出版されました。難しい箇所はこの一冊を読み、原文だけではよく理解できなかった箇所を確かめられます。原作の背景がよくわかり、また様々な挿絵の紹介も豊富で読み応えがあります。
原文を読んで、翻訳や註釈を読み直すと翻訳者の苦労がわかってそれもまた楽しめます。
『不思議の国のアリス』はさまざまな翻訳本が出版されていて、その挿絵にそれぞれ趣向が凝らされているのも楽しめる点だと思います。ジョン・テニエルの挿絵は定番で人気が高いと思いますが、画家によって物語の場面をどう解釈したのかが少しずつ違っているので、それを見比べてみるのも面白いです。
私が持っている本では、福島正美訳の角川文庫は和田誠、矢川澄子訳の新潮文庫は金子國義、北村太郎訳の王国社はルイス・キャロルの絵です。
様々な本を読むことで、遠かった不思議の国が少し近くなったように感じられます。
noteで『不思議の国のアリス』の原文を日本語に翻訳・解説を投稿されているすーゆ/suyuさんの記事と出合いました。
『不思議の国のアリス』の原文に興味がある方は、すーゆ/suyuさんの投稿を読むととても勉強になります。
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