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#571 「TRYNNO事件」名古屋地裁岡崎支部

2022年9月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第571号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【TRYNNO(以下、T社)事件・名古屋地裁岡崎支部判決】(2021年9月1日)

▽ <主な争点>
美容室勤務の美容師の労働者性など

1.事件の概要は?

本件は、Xが2017年2月に美容室の従業員としてT社に雇用され、2019年3月に解雇通知を受けたが、同解雇は無効であると主張し、以下の請求をしたもの。

(1)雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認
(2)労働契約に基づき、2019年3月分の未払賃金およびこれに対する遅延損害金の請求
(3)労働契約に基づき、2019年4月分以降の未払賃金およびこれに対する遅延損害金の請求
(4)労働契約に基づき、時間外および深夜割増賃金ならびにこれに対する遅延損害金の請求
(5)労働基準法114条に基づき、上記(4)と同額の付加金およびこれに対する遅延損害金の請求
(6)立替払契約に基づき、美容室の開業および営業に関して立て替えた費用相当額である163万8000円およびこれに対する利息の請求

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は、元々自動車製造設備の製造補修等の事業を行っていた会社である。

★ Xは、元々個人事業主として結婚式場等において、ヘアカット、ヘアメイク、着付け等や美容業を行っていた美容師である。なお、XとT社代表者は遅くとも2016年4月以降、交際関係にあった。


<本件解雇に至った経緯等について>

▼ Xは2017年2月にT社に雇用され、2019年3月に解雇通知(以下「本件解雇」という)を受けるまで美容室「A」(以下「本件美容室」という)の美容師としてヘアカット、ヘアメイク等の業務に従事した。なお、本件美容室はX以外にヘアメイク、エステティシャン等10人程度が働いていた。

★ Xは本件美容室における上記業務を行っていたほか、従前と同様、B社から依頼を受けた結婚式場等に出向いてのブライダル業務を行うこともあった。

★ XはT社から本件美容室での業務に関し、2017年4月以降、毎月約15万円、同年9月からは毎月約20万円、2018年4月からは毎月約22万5000円の支払を受けていた。なお、同社はXに対する同支払に関し、雇用保険料、所得税を控除した上、給与支払明細書を交付していた。

▼ T社代表者は2019年3月9日頃、Xに所用で電話をかけたところ口論となり、Xに対して本件美容室のために提供した脱毛器購入代金等の資金の返還を求め、それができなければ同社が資金を提供した脱毛器等の物品を回収する旨告げ、交際も解消した。

▼ T社は同月25日付で代理人弁護士を通じて、「ご連絡書」と題する書面をXに送付し、本件美容室にかかる賃借権や造作をT社からXに無償譲渡することや、Xが同社所有の自動車を返還することなどを内容とする提案を行った。

▼ T社はその後、Xに対し、同年4月20日までに荷物を全て店舗外に出すよう要求し、本件美容室の賃貸借契約の解除、廃業届の保健所への提出を行った。

▼ Xは本件解雇が無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および割増賃金等の支払を求める訴えを提起した。

3.美容師Xの主な言い分は?

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