見出し画像

余談……それとクリープハイプ#2

夜をずっと抱きしめる (クリープハイプ・『ラジオ』より)

私は銭湯が好きです。一人暮らしで、普段バスタブに湯を張らないということもありますが。私は湿度100%の銭湯の絶妙な閉鎖感が好きなんです。周りにいろんな人がいるけれど、結局一人。そんな感じがなんだかいいんです。なんだろう……映画館に似ていて、少し違うような。そして、その少し違うところが私が銭湯を好きでいる理由なんです。

シャワーの水がタイルに弾けていく。湯船でぶくぶくぶくと泡が立つ。滝がしぶきを上げる。サウナ室から出てきたおばさんが水風呂に飛び込む。あそこの小さな男の子が滑って転ぶ。泣き喚く。露天につながる扉が開き、侵入してくる冷気にみんな肩まで湯船に浸かる。

みんなで同じ空間、お風呂、湯船にいるのに。しかも裸で。なのに私たちはそれぞれ一人でいる感じがして。それに私は少々寂しさを覚えるときがあって。とくに髪を洗っているときにそう思います。シャワーの中で涙目を拭うときもあったり、なかったりして……。

そのときも、寂しさを隠すようにシャワーを頭にぶつけていました。すると、ふと私の中から歌がこぼれたんです。クリープハイプの『ラジオ』。

全部一通り歌ってから私は気づきました。銭湯はちょうどよく騒がしいから小さな声ならいくら歌っても周りにはばれやしない、と。これこそ映画館と少し違うところ。私が銭湯を好きでいるところ。映画館ではさすがに歌は歌えないです。小声でも。あそこは静寂100%が好ましいとされる場所だから(緊張感あふれるシーンでのポップコーン貪る音はほんとどうにかしてほしいです笑)。

それから私は鼻歌交じりで身体を洗うようになり、湯船に浸かりイントロからアウトロまできっかり歌うようになりました。そこにはカラオケとはまた違った感覚があって。場内の喧騒がなんだかライブ会場のようでもあって、聴かれてたら恥ずかしいけど、ちょっと聴かれててもほしい、そしてクリープハイプの良さを今ここで裸で語り継ぎたい。何も着ずに裸で語り合いたいと思えるアーティストは後にも先にもきっと彼らしかいない。私はそんなことを想いながら歌う。

その日も『大丈夫』から始まり『料理』、『さっきの話』、『今今ここに君とあたし』、『愛の点滅』、『サウジアラビア』、『手』、『泣き笑い』……と歌っていきました。お盆だったためか、場内がいつもより盛り上がっていて、ついつい私も調子に乗って次々と歌っていきました。
『栞』、『チロルとポルノ』、『愛は』、『美人局』、『イト』。露天に移動。『さっきはごめんね、ありがとう』、『SHE IS FINE』、『お引っ越し』、『モノマネ』、『幽霊失格』。中に戻る。『週刊誌』、『HE IS MINE』、『キケンナアゾビ』、『ただ』、……そして『ラジオ』

ラジオ 朝まで側にいてね
目に見えない音が聴こえたら
だんだん君の声が見えてくる
夜をギュッと抱きしめる

「夜をずっと抱きしめるぅ~」
気持ちがこもりすぎてつい声が大きくなって、反響するように湯船が大きく揺れました。きらきらと天井の照明を反射していて、歌い切った私はぞわぞわと感動しました。しかし、それが観客からの歓声のように思えたのはほんの一瞬のことで。隣を見たら私のことを怪訝そうに見るおばさんがいて。いたたまれなくなった私はすぐに湯船から出ました。

今夜のライブは終わり! アンコールはなし!

お風呂から出てコーヒー牛乳を飲んでいると、さっきのおばさんがやってきて私の方をちらりと見て銭湯を出ていきました。

なんとなく振った右手のコーヒー牛乳の残りがピチャピチャ情けない音を立ててる。

#クリープハイプ
#余談
#note初心者
#日記
#エッセイ
#銭湯
#ライブ
#ラジオ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?