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「ちょっと思い出しただけ」

映画を観た。
今日の予定を全てすっぽかして、映画を観た。

のっぺりとした厚い雲が空を覆った、花曇り。
ハクセキレイが、隣の家の屋根を踊る。

わたしは、昨日今日と、なんとなく、元気が無かった。
思い当たる節が無いわけではないけれど。

そんな日は、映画を観ることにしている。
悩みも、予定も、名前も、肩書きも、常識も全部。
全部脱ぎ捨てて。

映画なら、わたしを救ってくれるかな。
そう信じて。

洋画が好きだ。邦画はしんみりとしすぎていて、なんだか少し寂しいから。
友人Aの言葉


「ちょっと思い出しただけ」


偶然noteでこの映画の感想を2つみかけた。
多分、この映画を観るのは今日なんだろうな。
そんな運命めいたことを感じた。

東京タワーは、何の象徴なのだろう。
銀幕の中の東京タワー。
天に突き刺さる鮮やかな朱の発光体は、よく作品のモチーフとなる。

作り手たちは、何を表現しているのだろう。

やんわりと感じるものはあるのだけれど、
わたしはまだ、東京タワーにぴったりな言葉を知らない。

そんな言葉を見つけられた時、わたしは自分を好きになれるのだろうし、
そんな言葉を教えてくれた相手に、わたしはきっと、恋をするのだろう。


この映画には、好きな表現がたくさんあった。
いっぱいここに書きたいくらい。


わたしに一番響いた言葉。
「追いかけてこないのかよ。」

喉につっかえた魚の骨のように、少しの嫌悪感を引っ提げて、この言葉はわたしに刺さった。

実際に、そう思ったことがあった。
追いかけてほしかった人がいた。

多分、この映画はいろんな人に、いろんな苦い思い出を、
ちょっと思い出させているんだろうな。


夜にしがみついて。朝で溶かして。
何かを引きずって。それも忘れて。
だけどまだ苦くて、すごく苦くて。
結局こうやって何か待ってる。
クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」より


クリープハイプが好きだ。
等身大の歌だから。
歌詞も。声も。エレキの音も。ベースも、ドラムも。
全部大好きだ。


今週、初めてクリープハイプのライブに行く。
機材席の解放で偶然取れたチケットを握りしめて。

彼らのライブの帰り道に、わたしは一体何を思っているのだろう。
誰を想っているのだろう。


p.s.
友人が頬を濡らしたこの映画。
わたしは、涙を流せなかった。

わたしにはまだ、少し早かったのだろう。

いつか、この映画にたくさん共感できる人間に。

セピア色の甘くて苦い思い出を、
ふとした瞬間に脳裏に浮かぶ切ない思い出を、
目一杯抱えた、そんな人間になりたいな。

そして、この映画を、次は誰かと。


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