【パート1】 STEAM領域のジェンダー格差をひも解く!トロント大学・木島 里江教授にインタビュー
こんにちは!Lean In TokyoのEducation Program Specialist、りさこです!
女子中高大学生が一歩踏み出すきっかけを作る、コンテンツ企画を担当しています👭
「教育」と「ガールズエンパワメント」をキーワードに、教育界のプロフェッショナルの方々への、インタビュー記事を掲載していきます🙌
今回は、2016年より女子中高生を対象にSTEAM教育プログラムを展開する、一般社団法人SKY Labo(スカイラボ)を立ち上げ、そして21世紀人材の育成や研究に取り組まれる、トロント大学マンク国際問題研究所・木島 里江教授にインタビューをさせていただきました!
【パート1】自分らしく一歩踏み出す、 21世紀のSTEAM女子中高生!←今はここ!
【パート2】デザイン思考を通じて、クリエイティブコンフィデンスを身につけよう!
木島 里江教授
一般社団法人SKY Labo共同設立者
トロント大学マンク国際問題研究所助教授
世界銀行中東・北アフリカ局及び東アジア局にて、ラオス、モロッコ、チュニジア、ベトナムなどの女子教育、貧困層やマイノリティーのための初等教育から高等教育、教員訓練などの教育政策に力を注ぐ。JICAチュニジア事務所でインターン、ボストンのNGO で教育コンサルタントとして働く。デザイン思考を中心に、スタンフォード・デザインスクールやヌエバ・デザイン機関にて研修。USJLP (米日リーダーシッププログラム) 2015/16 代表団。国際基督教大学教養学部人文科学科学士。スタンフォード大学教育学部博士号(国際比較教育)。2013年から19年の6年間、スタンフォード大学教育学部講師に従事。2019年よりトロント大学マンク国際問題研究所助教授。専門分野は開発教育、国際比較テスト、STEAM教育。小学校に通う、二人の女の子の母親。
21世紀に生きる、飛躍女子
りさこ:りえさんとは2018年に私が大学院進学を検討し始めた頃から、進学先の相談をさせていただいたり、スカイラボ のお手伝いをさせていただいたり、大変お世話になっていますね。研究と実践の両軸から、ジェンダー課題にアプローチされているりえさんは私のロールモデルです!
改めて、スカイラボ を設立された背景を教えていただけますか?
りえさん:スカイラボ を設立した背景には、素晴らしい人との出会いがありました。
スタンフォード大学で博士号を取得し、シリコンバレーで子育てをしていた友人と、教育や人文・社会科学といった自分たちの専門性を使って、STEAM領域のジェンダー格差を是正するために何かできないだろうかと意気投合したことが始まりです。
STEAM教育とは、Science 科学・Technology テクノロジー・Engineering エンジニアリング・Mathematics 数学(通称STEM ステム領域)に、Liberal Arts リベラルアーツを加えた教育です。
そして意気投合した友人とは、スカイラボの共同設立者のヤング麻里子さんです。ヤング麻里子さんと意気投合し、新たなチャレンジに挑戦してみようと思いました。素晴らしいパートナーに恵まれたこそ、ここまで来れたのだと確信しています。
これまで私は開発教育の研究や国際教育政策に携わっていました。ベトナムやラオス、チュニジア、モロッコなどで教育開発や政策のお仕事に携わっていました。そして2015年に米日財団の日米リーダーシップ・プログラム(USJLP)に参加し、様々なセクターで活躍しているリーダー達に出会い、いつか母国の日本に貢献できる教育プロジェクトに取り組みたいと考える様になりました。
そこで女の子達をエンパワーするプロジェクトについて、メンターの方に相談したところ、それは素晴らしいアイディアだね!と言ってくれた人が多かったのです。じゃあやってみようか、と思い立ち、2016年にスカイラボ を立ち上げました。
りさこ:教えていただき、ありがとうございます。スカイラボ では現在、どのような活動に取り組まれていますか?
りえさん:STEAM教育を通じて、次世代のイノベーション人材を育成する活動に取り組んでいます。
STEAM 教育と言っても、一般的なコーディングのプログラムにアートやデザインを取り入れるだけではなく、エンパシーに重点を置き、相手のニーズを理解し、そのニーズに合わせたプロトタイプ作りを行う、デザイン思考を使ったSTEAMプログラムを実施しています。
毎年、日米で数日間にわたるSTEAM 教育に重点を置いたデザイン思考のワークショップを開催し、イノベーションに欠かせないマインドセットを学びます。このマインドセットとは、型にはまらない、ひとまずやってみる、そして失敗して前進する、この三つにまとめられると思います。
詳しくは2019年に出版された「世界を変えるSTEAM 人材」をご参照ください。
子供たちがのびのびと着想し、楽しみながら探索するための、大空のような無限の実験室。それがスカイラボ の目指すコンセプトです。
りさこ:私もリサーチアシスタントとして二年間、キャンプに参加させていただきましたが、初日は緊張していた女の子達が、最終日には堂々と笑顔でプロジェクト発表を行なっていた姿が、とても印象的でした。
STEAM教育とジェンダー格差
りさこ:STEAM領域のジェンダー格差は、教育分野において大きな課題ですよね。なぜ格差が生まれているのでしょうか?
りえさん:そうなんです。日本は特に、数学におけるジェンダー格差が著しい国の一つです。
OECDが例年実施している、学習到達度調査(PISA)における2012年の結果によれば、日本の数学スコアにおけるジェンダー格差は、チリ・オーストリア・イタリア・韓国に次ぐ5位で、男子と女子のスコアには19ポイントもの差があります。
そしてこのPISAのレポートは、学業成績のジェンダー格差はIQなど生まれつきの能力差によるものではなく、「自信」「セルフ・エフィカシー(自己効力感)」「モチベーション」といった「非認知能力」が関係している可能性を指摘しています。
さらに「数学に対する不安の強い割合」が、女子の方が高いことが研究で報告されています。この自信の欠如がセルフエフィカシー、つまり「自分には数学や科学などの問題を解く能力がある」という自己効力感に影響すると考えられており、実際にSTEAM領域のセルフエフィカシーが、男子と比べて女子が低いことがわかっています。
この「数学に対する不安」は、Psychological(心理学的)とSocial(社会学的)要素がそれぞれ関連しています。
日本では、例え15 歳の息子と娘の数学の成績が同じ場合でも、ジェンダー格差があることがわかっています。「男の子だから」「女の子だから」という期待値の違いが、子供たちが潜在性をフルに発揮するチャンスをそいでいる可能性があります。
そしてそのバイアスを受けてきた女の子達が、'Because you are a girl, you are not good at STEAM.(女の子だから、STEAMは苦手)'というバイアスを心理的に内在化させてしまい、成長してもなかなか抜け出せずにいます。
そして社会学的には、女性リーダーや活躍している女性のSTEAM人材が少ないことが影響しています。'You can’t be what you can’t see. (あなたが見えない者には、なることはできない)という言葉があるように、ロールモデルや先例が少なければ、同じ道を目指す学生も少ないままです。
ジェンダー格差を是正するには
りさこ:STEAM教育のジェンダー格差は、様々な要因が関連しているのですね。一筋縄では行かないと思いますが、どのようなアプローチによって、格差の是正に近づけるのでしょうか?
りえさん:失敗を気にせずにとりあえず試してみることの大切さ、この試行錯誤こそ、知識を獲得する上で必要不可欠なプロセスだと考えられています。
また、女の子達の心理に働きかけている社会的構造が、複数の層で関連していると思います。一対一の人間関係や、学校の制度、そして個人が属している部活やサークルなどのコミュニティ、さらには国単位での政策など、様々な層で格差是正につながるイニシアチブを取ることができれば、女の子達も一歩踏み出しやすい環境を作ることができるのではないでしょうか。
スカイラボの様なプロジェクト、そして最終的にはSTEAMという分野が一つのオプションになりうる可能性を感じられるきっかけができれば良いな、と思っています。そしてSTEAM分野に対して自信と希望を持てる女子が増えることを願っています。
りさこ:世界経済フォーラムは例年発表している、ジェンダーギャップ指数でも、識字率などではジェンダー格差がないとされている一方、理数系分野における男女の学力差が順位を下げる、大きな要因となっています。
そんな中、スカイラボのように「非認知能力」を引き出すプログラムによって、女の子達そして社会によるSTEAM教育へのバイアスがなくなることを、私も期待しています。
【パート2】デザイン思考を通じて、クリエイティブコンフィデンスを身につけよう!はこちら🙌
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