私的解題−4「形篇」 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら

「計篇」でガイドラインとアセスメント項目が提示され、次に「作戦篇」で予算の持つ意味の重要性が提示され、「謀攻篇」では、1)障害や抵抗勢力への対処法、2)オーナーとリーダの関係、3)自己と他者の評価 が提示され、「孫氏の兵法」の主要課題である「コントロール」へと来ました。
ここの「形篇」では、「コントロール」を念頭に置きながら、プロジェクトマネジメントに対する姿勢を解題していきます。

「プロジェクトを進めるにあたって、予見できるリスクを未然に防ぎながら、新たに発生する障害に対処する準備を整えておく必要があります。もちろん、目標が達成できるかどうかを評価することは重要なのでおざなりには出来ませんが、目標が達成できるという評価に基づいて計画を進めたとしても、いつどのような形で障害が現れるかはわかりません。実際に目標が達成できるかどうかはプロジェクトが完了するまでわからないのです。
ですから、障害やリスクに抗うのが「守り」になり、それを克服するのが「攻め」になります。」
→ 当たり前の話が書かれていますが、「計篇」での五事(ガイドライン)と七計(アセスメント)で評価したからと言って、勝手に目標が達成できるわけではない。と言っています。そこで重要なのが「障害やリスク」への対応になると言っています。

ちなみに、プロジェクトには「孫氏の兵法」でいう所の「敵」は存在しません。存在するのは「障害やリスク」であり、これをプロジェクトに当てはめると「抵抗勢力」になります。
ですので、プロジェクトマネジメントの観点から「孫子の兵法」を翻案すると、「守り」とは、プロジェクトにもたらせられる「障害やリスク」に「抗う」ことであり、「攻め」とは「障害やリスク」を「克服」することになります。

プロジェクトが「障害やリスク」なく進むのが一番良いのですが、そんなうまい話はありません。
もし、「「障害やリスク」なく進む」のであれば、プロジェクトの組織を組みあげる必要はなく、現有組織の業務の延長で対応すればよいのです。逆に言えば、プロジェクトとして組織が存在する理由を述べているともいえます。

「プロジェクトを進めることが巧みなリーダは、派手な動きもなく無駄のないプロジェクト運営によって目標を達成します。成果を出すリーダは、障害やリスクを自分のコントロールできる範囲に置きます。ですから、何事もなく目標を達成しているように見えます。
この様に、何事もなく目標を達成するので、素晴らしいリーダかどうかの判断は、リーダの真価を理解している者しか判断ができないのです。」
→ 上記の理由にてプロジェクトが存在している中で「成果を出すリーダ」はどういう動きをするかを書いています。
「成果を出すリーダ」は「派手な動きもなく無駄のないプロジェクト運営」を行い「障害やリスクを自分のコントロールできる範囲に置き」、「何事もなく目標を達成しているように見え」るといっています。

前章でもありましたが、見苦しい「大立ち回りのような振る舞い」は不要なのです。ただ、何事もなかったのようにプロジェクトが成果を出すと、同僚や上司から(妬みも含んだ言葉で)「イージーワークだったから簡単に成果がでたんだ」といったことを言われる場合があります。
プロジェクトリーダは「24時間働けますか」や「オフィス365」に示されるように、ハードワークのように見せたがる方が多いですし、問われるは「成果」なのに、そのようになっていないと仕事をしていないと思うずれた感覚の人も多いです。プロジェクトリーダになりたがらない人が多いのも、こういう理由があるからかもしれませんが…

ちなみに余談ですが、個人的にもそういう事を何度か言われたことがあります。
「孫氏の兵法」では「この様に、何事もなく目標を達成するので、素晴らしいリーダかどうかの判断は、リーダの真価を理解している者しか判断ができない」と言っていますので、「孫氏の兵法」的には、そういう上司や同僚は「リーダの真価を理解して」いない者になります。ですので、ステップアップできるチャンスがあれば、そういう人たちの元を早く去った方が人生は豊かになります。

話しは戻って前章で出てきた「コントロール」がここでも出てきましたね。
「成果を出すリーダは、障害やリスクを自分のコントロールできる範囲に置きます。」と言っています。
雰囲気はわかりますが、実際はどういう事でしょうか。

前章の「謀攻篇」の「3)自己と他者の評価」で「敵を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」の話がありました。
そこでは『「双方[自身と自身の組織と対象]を理解し評価できている状態」であれば「どう進めばいいかが手に取るようにわかるのでプロジェクトのコントロールで失敗することはありません。」となり、くどいようですが、自らをコントーロールでき、自らの動きで相手をコントロールできれば、「失敗することはありません。」と言っている』と書きました。
くどいようですが「双方[自身と自身の組織と対象]を理解し評価できている状態」であれば、対象が何をどうするかがわかり、「『自らの動き』で相手をコントロール」する。言い換えると「自らの動き」で対象の出方や動きを「目標を達成するための利」に添うようにコントロールする。ですね。

ここのところが、「謀攻篇」で提示された「つまり、直接対決を避け、資源や資金を投入する前に、策(孫氏の兵法では「謀」)を使って問題を解決する」につながるということになります。
ですから「ですから、何事もなく目標を達成しているように見えます。」となるわけです。
ですので、「策(孫氏の兵法では「謀」)」を使える人にしか「策(孫氏の兵法では「謀」)」は、わからないから「この様に、何事もなく目標を達成するので、素晴らしいリーダかどうかの判断は、リーダの真価を理解している者しか判断ができないのです。」となるわけです。

なぜ、あの人が進めるといつもうまくいくのだろうか?と思ったら「運」がよかったからだと思考を放棄せずに「なぜ」を考えてみてください。もちろん「運」もあるかもしれませんが、自身の考える流れに沿うように、だれでも引き寄せられ、基盤となる関係性の「場」をつくり、機微に富んだ「自身の振る舞い」で、細かく「双方[自身と自身の組織と対象]をコントロール」しているはずです。もちろん、これの「振る舞い」がだれにでもわかると「策(孫氏の兵法では「謀」)」にはならないのですが、やっている本人は、これといって隠してわけでもなくのですが、その「振る舞い」は、わかる人しか気づかないので「リーダの真価を理解している者しか判断ができないのです。」となるわけです。

お気づきのように『だれでも引き寄せられ、基盤となる関係性の「場」』をつくるわけですから、「派手な動きもなく無駄のないプロジェクト運営」も可能になるわけですね。

勘違いしていただきたくないのは、「孫氏の兵法」は「策(孫氏の兵法では「謀」)」の解説書ではなく、マネジメントシステムの解説書なので、明示されてはいませんが「方針、体制、マニュアル」が「場」の基礎になります。これがないと何も始まりません。
(五事七計に組み込まれていますが…)
くどいようですが、このプロジェクトの幹となる「場」の運営に「策(孫氏の兵法では「謀」)」が組み込まれるのであって、俗に言われる「陰謀」が「場」ではないということと、「孫氏の兵法」とは、このマネジメントシステムの「運営」を書いたドキュメントということです。

続きに行きます。

「また、プロジェクトを成功に導くリーダは、状況を常にコントロールし成功のチャンスを見失いません。
このため、目標達成が可能になるプロジェクトは、状況を常にコントロールできるようにリスク対策を含めた各種計画を策定し、成功の可能性を確認してから着手しますが、達成できないプロジェクトは、無計画のまま着手して、プロジェクトが始まってから目標達成のための対策を検討し始めることになります。」
→ 当たり前のことが書かれていますが、成功するプロジェクトは「各種計画を策定し、成功の可能性を確認してから着手」=盤石の体制でスタートするが、ダメなプロジェクトは「プロジェクトが始まってから目標達成のための対策を検討し始める」=いい加減である(「「謀攻篇」でもパロディーで書きましたが「敵を知らず、己を知らずれば、百戦して殆(あや)し」)といってます。

「その上、プロジェクトを成功に導くリーダは、メンバーのベクトルをゴールに合わせ、定められたルールを遵守させることができます。そのため、プロジェクト全体を統合的にコントロールすることができ、目標を達成することができるのです。」
→ 前述のマネジメントシステムとその上に成立する「場」の運用できるから「プロジェクト全体を統合的にコントロールすることができ、目標を達成することができる」と言っているわけです。

「孫氏の兵法」は古い書物なので、急に展開が変わることが多くて面倒なのですが(だからゆえに「解題」が必要になるわけです)、ここでいきなりプロジェクトの確認項目に突入します。

「・プロジェクトを進めるためには、次の5つの項目を確認する必要があります。
1.地 → プロジェクトの範囲とスコープ
2.度 → プロジェクトの規模
3.量 → 投資する資源
4.数 → 人材
5.称 → プロジェクトが持つべき能力。

地:プロジェクトの範囲とスコープを検討するためには、度:プロジェクトの規模を検討する必要があり、規模を検討した結果、量:投入する資源を検討する必要があり、資源を検討した結果、数:人材を検討する必要があり、人材を検討した結果、称:プロジェクトが持つべき能力を検討する必要があり、能力を検討した結果、プロジェクト目標の達成の可能性が明らかになります。
目標を達成するプロジェクトは、この検討プロセスを経るので、プロジェクト目標の達成可能性が明確に見えますが、この検討プロセスを経ないプロジェクトは、目標を達成できるかどうかわからないまま進めることになります。」
→ いたって普通のことが書かれています。このとおりなのでこのままにしておきますが、あえてここに明示的に書いていないことを加筆するならば、「プロジェクト目標の達成の可能性が明らか」になって、このプロジェクトのプロジェクト目標の達成の可能性は「ヤバイ」となったら、「増強」だけではなく、「やめる」または「縮小」という選択肢もあるということです。「作戦篇」でコストの話をしましたが、「見切り千金」という言葉も覚えておいてください。

「上記のプロジェクトの運営態勢が準備できれば、プロジェクトを一気に進めることができる体制が出来ていることになります。」
→ そして「上記のプロジェクトの運営態勢が準備できれば」、勢いをもって開始するわけですが、その前に次の「形篇」で「プロジェクトのコントロール」の話に入ります。

長文を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

※孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら INDEX

孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら
https://note.com/leal_frog9738/n/ne43d34f3b104

【補足事項】孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら
https://note.com/leal_frog9738/n/ndda19945553c

私的解題?1「計篇」 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら
https://note.com/leal_frog9738/n/n69e48d157274

私的解題?2「作戦篇」 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら
https://note.com/leal_frog9738/n/n2fabf6a2721a

私的解題?3「謀攻篇」 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら
https://note.com/leal_frog9738/n/nba143ef2c80a

私的解題−4「形篇」 孫子の兵法をプロジェクト マネジメントの観点で翻案したら
https://note.com/leal_frog9738/n/n787786432a05

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