見出し画像

東京百景1「原宿竹下通りの男たち」


 色々不安はあるけども、一人で東京で生きていく欲はどうしても捨てられない。
 ある日、用事があって竹下通りを歩いてきた。東京は怖いが、面白い。ピース又吉の『東京百景』みたいに出来事を記録してみようと思う。


 竹下通りに入る。
 時間がまだ早いので空いていて、お店もほとんど開いてない。クレープ食べたいな〜アクセサリー見たいな〜などと思いながら歩いていると、前方に90度に身体を傾けた若い男の背中が見えた。
 えっお辞儀?落とし物?と最初は困惑した。彼はスマホを耳に当てており、近づくと「本当にッ、申し訳ございませんでしたッ!」と非常に明瞭な声で先方に謝罪していた。
 
 近くを歩いていた人が振り返る。私もその気迫ある謝罪に驚いた。別にスーツなど着ていない、ラフな格好の若者である。彼は歩き出したが、またすぐ立ち止まって「本当にッ、申し訳ございませんでしたッ」と再び90度のお辞儀をした。
 私は彼を追い抜いてしまったが、彼の謝罪は止まらない。

これからは、シャキシャキ話して、シャキシャキ動いて・・・本当にッ、申し訳ございませんでしたッ

 はっきりこう聞こえた。
 失礼ながら笑いそうになった。「レタス」について話す時以外なかなか口から出ないであろう「シャキシャキ」という擬音。日常生活におけるその響きはまさしくレタスのように新鮮に聞こえ、だから面白かった。

 彼の文脈だと、シャキシャキ話してシャキシャキ動くことができなかったから謝罪しているという感じになるが、今の彼は非常にシャキシャキ話してシャキシャキ動くことができている。求められるシャキシャキレベルが常人のそれではないような状況でヘマをしたのかもしれない。自衛隊とかの人なんだろうか。いずれにせよこの時間の竹下通りで最もシャキシャキ話してシャキシャキ動いていたのは彼だった。


 みんな、それぞれの事情があるのだろう。
 3年くらい前の話になるが、夕暮れ時、通りの下着屋でブラジャーを見ていて、ふと顔をあげるとおじさんの客が会計していた。
 このおじさんは厚手の背広を着た細長い、地味で貧相な感じの人で、初老に近かったかもしれない。こんな人が、若い女ばかりの竹下通りの店にいる。そして真っ赤なレースのTバックを1枚買おうとしている
 私は驚愕した。レジの店員も表情を凍らせているように見える。これは罰ゲームだろうか。
 しかしおじさんは平然としており、卑屈そうな感じはなかった。おじさんは当たり前のように購入し、堂々と去って行った。

 乳当てどころではない。私は店を出、尾行してみようかと思ったがすぐにやめ、クレープを買って、衝撃を胃に沈めるように食べた。通りはだいぶ薄暗くなっていた。
 食べながら考えた。女王様の命令で買いに行かされたのか。遊び相手に履かせたかったのか。自分で履きたかったのか。この時はやはり罰ゲームというか、女王様説が一番しっくりくるように思えた。相当なドMでないと、こんなところまで来て下着買おうなんてことにならないだろうから。
 いま考えれば、小川洋子の小説『ホテル・アイリス』に出てくる翻訳家の男みたいだなと思う。一見真面目な雰囲気がそっくりだ。となると、翻訳家に調教される少女マリのような相手が、あのおじさんにもいたのかもしれない。ならばあのおじさんはドSということになる。

 でもやっぱり、うーん。
 偏見や嫌悪の気持ちがあるわけではなく(こうやってあれこれ考えるのも偏見と言われてしまうかもしれないが)、単純に不思議で腑に落ちないのだ。ネットで買うのではだめだったのだろうか。大人な街の高級な店ではなく、どうして原宿だったのだろう。結局この疑問に戻ってしまう。あるいはチープな下着が性癖に刺さるのだろうか
 いや面白い。東京は面白い。


【今日のおすすめの一曲】

ゴールデンボンバー「さよなら冬美」

 普通に切なすぎる。
 ちょっと、季節の変わり目だし、前回までの記事の流れもあるし、どうしてもナーバスなんですよね、今(いつもか)。かといって沈み込んでもいられないから、暗すぎる曲はなるべく聴きたくないし。そんな時にちょうどいいかもしれないですね、MVで笑えるから。

 本当に色んな曲作れるし、癒し&安眠のための暖炉動画とかは相当癒されて助かったし誠実さが分かるし、日本が誇れるエンターテイナーだと思うので尊敬しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?