見出し画像

東京百景2「品川にある橋」

 大学時代のストック記事です。


 とあるものの料金をすぐに払う必要があり、重い腰を上げて日払いのバイトに行った。

 時間は9時から18時まで。倉庫で軽作業というやつ。
 今まで経験してきたバイトはだいたい5時間程度のものが多かったため、体力が持つのか心配だった。それに、やったことある人はわかるけど軽作業って少しも「軽」じゃないし。でも大人になったら9時18時というのは当たり前になるから今のうちに体感しておきたい気持ちもあった。

 作業自体は簡単なものであったが、なんせ立ちっぱなし歩きっぱなしとなるのでかなり脚の裏側が痛くなった。しかし、一緒に作業させてもらったパートさんが非常に優しい方だったのでだんだん楽しくなり、特に夕方はあっという間に過ぎた。
 18時になり「お疲れ様でしたー」と現場をあとにすると少しウルッときた。あぁ、人が怖い私でもなんとかやり遂げることができた、という感慨である。

 ロッカーに荷物を取りにいくと、同じくバイトを終えたおじさんが座っていた。おじさんは、目の前の若い女性にボヤいていた。
なんか違うんだよなぁ・・・こんなのとは思ってなかったなぁ・・・
 対して女性は、おじさんの前にかがみ込み、何か答えて慰めている様子だった。

 一体どういう関係性なんだ?
 
帰りのエレベーターでもこの2人と一緒になったが、おじさんは人目を憚らず「違うんだよなぁ・・・」とボヤき続けていた。

 外は綺麗なオレンジ色だった。
 棒のような足で歩きながら考える。おじさんは仕事先を探している人で、女性は就労支援してくれる人で、おじさんの単発バイトにまでついてきてくれた。それくらいしか思い浮かばなかった。家族のようなくだけた距離感ではなかったが、たまたま絡まれただけにしては女性は親身過ぎた。
 そんなわけはないのだが仮に私の予想が当たってるとするなら、おじさんはまず女性に感謝すべきだと思った。

 その後の道のりは覚えていない。気づいたら夜だった。気づいたら品川に来ていた。
 一旦電車を降りて、サイゼリヤで夕飯とした。
 そのサイゼリヤは「徒歩10分」と書いてあって、それでも今の私の脚ではきついと思ったのだが、他に安い店を知らないため歩いた。どう考えても15分以上は歩かされた。
 ハンバーグを食べた。「働いて食う飯は美味い」という美しい気持ちはほとんどなく、ただやり遂げたのだという感慨と、早く帰りてぇというのだけがあった。

 しかし肉を食ったのでわずかに気力が戻った。また駅への道を歩く。
 橋を渡る。磯の匂いがする。川なのだろうか、それとももう海なのだろうか。きっと海なんだ。

 磯くせぇ〜と思ったが、良い感じだった。

 私はどういうわけか昔から、お台場とか横浜とか、海に面した都会の街が好きだ。憧れに近い。これは田舎者だからだろう。
 そして東京が好きだ。東京には何でもあるからだ。東京なら何でもできるからだ。田舎ではこうはいかない。田舎では浮いてしまう。

 だから、東京の大学に行く以外の選択肢はなかったし、そのまま東京で働く人になる以外の選択肢もなかった。
 ところが、昔からの友達でそういう人はほとんどいない。みんな地元で働いてるし、結婚しちゃった子ももう2人いる。

 ちょっと前にツイッターを見ていて、昔好きだった男の子がもう地元に戻っているという事実を知った。彼も大学は東京だったのに帰ってしまったのだ。それだけで不安になった。こんなことで不安になるのは気持ちが悪いが、私にとっては新海誠の映画に触発され正月から記事に書くレベルの思い出深い存在であったために、不安になった。だって東京にいれば、どこかですれ違ってるかもしれないのに、その可能性がなくなったということだから。

    こんなことを考えているうちはまだ子供なのだろう。
 一体私は東京でどんな大人になっていくのだろう。どこまで行けるのだろう。いや、「行く」というのはどういうことなのだろう。
 全身を磯臭い空気で満たしながら、いくつもの白い光を放つビル群を見つめ、ただただ夜を歩いていた。




【今日のおすすめの一曲、じゃなくて動画】


【簡単5分】マインドフルネス瞑想・超入門

 神戸のヨガ講師ぬん先生の動画。いつもにこやかでユーモアがあって、すっかりファンです。この人が新興宗教始めたらついてっちゃうかもww

 今日は久しぶりにこの動画で瞑想したら少し落ち着きました。瞑想難しいと思う方はこの動画みたいに、体を伸ばしたりして気持ちいい感覚を味わいながらだとやりやすいんではという気がした。
 私もほんとに頭からっぽにしたいです。瞑想サボりがちでしたが毎日やろうと思ってます。


 

 

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?