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脳神経科学×教育×IT NeuroEdTechが切り開く未来

ダンシング・アインシュタイン(DAncing Einstein)代表 青砥瑞人氏

人が何か行動しよう、学ぼうとするとき、私たちの脳内では様々な神経活動が行われている。ドーパミン、アドレナリンといった、神経伝達物質の名を聞いたことがある人も多いだろう。だがこうした営みは、何となく知識として知っていても、日常生活の仕事や勉強に活かせている人は多くないはずだ。
ダンシングアインシュタイン 代表の青砥瑞人氏は、国外で本格的に学んだ脳神経科学の知識を人の成長、教育分野に応用しようと、学校現場や企業のHR分野に日々アプローチしている、国内初のジャンルのパイオニアだ。人間の脳の仕組みを存分に生かした学びや、学校現場での取り組みなど、脳内のミクロな世界と日常生活を結びつける青砥氏の活動に迫った。

■ダンシング・アインシュタインの目指すものとは

僕たちダンシング・アインシュタインは、脳神経科学と人の学び、人の成長に何らかの形で貢献できればと、主に教育分野で活動しています。脳神経科学という分野は、人間の脳内活動を細胞・分子レベルでわかる学術分野です。僕は、もともとアルツハイマー病を研究していたんですが、そうすると人の記憶の仕組みを、細胞とか無意識のレベルから読み取ることができるんですね。そのうち、この内容は患者さんのためだけではなくて、人が何かを学ぶときに幅広く役立つんじゃないかと思ったんです。特に、小・中・高校と、教育の現場に活かせないかと思いました。
最初、国内の様々な研究者の方々を尋ねながら自分の思いをぶつけさせていただいた時は、「脳神経科学のような超ミクロな世界と、人の学びをどうやって結びつけるのかわからない」と全否定されてしまったんです。でも僕の中には、研究論文に書いてある難解な、研究者にしかわからないようなことこそ、本来教育者や現場の方が知るべきことだという思いがどんどん芽生えていきました。だったら、自分でその橋渡しをやってみようと。国外ののスペシャリストの元を渡り歩きながら学んで、日本に帰ってきました。最初は興味を持ってくださった学校に入り、今は企業様も含め実績を作っていっているところです。今ではアプローチの斬新さから、企業のHR部門の方にお声がけいただくことも多いです。

実際、現場でどんなことが起きているのか、イメージできるように、最初の頃に関わった学校の事例をお伝えしましょう。小学校6年生を担当していたある先生は、学級崩壊を起こしてしまいました。クラスの生徒同士が敵対していて、生徒は自分に対しても敵対心を持っている。そんな状態だから自分もつい生徒を信頼することができず、とても居心地の悪い状態になっている。どうにかしたいというご相談でした。

ここで大事なのは、先生本人がまずどうしたいのかを考えてもらうこと。科学、テクノロジーといっても、僕らは「これさえやれば上手くいく」といったメソッドを持っているわけではありません。脳神経を構成するDNAは1人1人違っていて、人にはそれぞれ違った無限の可能性があります。そんな中で、最適な答えなんて科学者だろうが何だろうか持っていないと思うのです。ですので、まずは本人が自分の現状と、どうしたいのかをメタ認知するお手伝いをしました。どういうクラスにしていきたいのかと問いかけると、彼には「クラスを安心できるような学びの場にしたい」という思いがあったんです。

こんな想いが出てくると、脳神経科学で安全の状態というのが、学びにおいてどれだけ重要なのかということがいくらでも説明できるようになります。それを先生にお伝えした上で、今度はどういう風に安心の場を作ったらいいのか、また考えてきてもらいます。先生がやりたいとおっしゃったのは、"褒め言葉のシャワー"。これは菊池省三先生と言う有名な方のメソッドですが、生徒同士が、お互いのよいところを伝え合って、生徒の自己肯定感を高め、雰囲気もよくできるというものでした。その先生がやっていることを見る限り、確かにここまでできたら、生徒達は安心するだろうなと感じました。

■データ×脳神経科学の知見で、劇的な変化が

そこで僕は「2学期中、毎日時間をとって、本気でやり続けてください。そして必ずデータを取ってください」と言いました。先生はデータと聞いて、困惑しましたが、データを取るというのが大事なポイントです。なぜなら、この先生がメソッドの提唱者と同じように唐突にやっただけでは、きっと上手くいかないだろう、必ず改善が必要だと思ったんです。そしどこを改善したらいいのかは、状況を見える化して初めてわかるものです。そこで脳神経科学で被験者から感情のデータを引き出せるような声かけの仕方や、アンケート項目を渡し、自己肯定感が得られたかどうかを引き出す方法を探りました。小学生がわかるように、先生と一緒に一生懸命アレンジをかけて作りました。と同時に、子供たちにはそれぞれの褒め言葉を書いてもらうようにし、先生には全部文字起こしをしてもらったんです。

そうすると、最初の1週間は、子供たちもちょっと楽しんでいるんですが、1週間もすると、飽きてくるのがわかるんですね。なぜなら、褒められる子は嬉しいけれど、そうでない子はやる気が落ちてしまうから。そして言う言葉の種類が限られていて、前と同じような言葉になる。先生は新しい褒め言葉を生徒達に教えていったのですが、子供たちは全く使ってくれないんです。これは、人間の脳の中で、言葉の意味を記憶する時と、自分が言葉として表現できるようになる時は全く違った脳のメカニズムを使っているからです。自分がどういった文脈の中で言葉新しく言語を使うのかって言うことを学習しない限り、使えるナレッジにはならない。2学期の最後には、形骸化してしまいました。

そこでどうしたかというと、褒め言葉のデータから、子供が子供を褒めるときにどういう視点で注意を向けて褒めるのかに着目するわけです。脳の中で近しい情報同士はニューロンが結びつきやすいという原則があるので、つい子供たちが目を向けるような価値ある言葉を提供してあげれば、子供たちはきっと言葉を使ってくれるだろうと。実際にやってみると、ものの見事に子供はそれを使いたがりました。

また、子供達が書いた褒め言葉を、お互いにプレゼントするようにしました。すると、子供達だけでなく、保護者の方も喜んでくれたのです。「家では叱ることばかりだったけど、クラスのみんなの言葉を見ていると、褒めることは大事だと思いますし、こんなことやってるんだって安心できました。」という、保護者からの思いがけないフィードバックに、先生は自信を持ったようです。当初は先生が問題児視していた生徒も、見方を変えて「こんなにいいところがある」と先生が思えるようになったことで、生徒もクラスを愛せるようになったり。先生が目指していた「クラスを安心な場にする」ということが、実現されていきました。

この事例は、だいぶ初期のころに関わった学校の話で、私もかなり伴走しました。でも、もっといろんな方に、普遍的にアプローチできるようになりたい。そこで今取り組んでいるのが、IT、テクノロジーの活用です。テクノロジーによって、今回先生がアナログにやっていたことを、より効率化できることがたくさんありそうと思いました。簡単ではないですが、今企業としては、脳神経科学×教育×IT、この掛け合わせでNeuroEdTechという分野を開拓し、学び・成長の文脈で貢献したいと思っています。あらゆるものを、AI:人工知能・IT、BI:神経科学研究、RI:学習&教育現場という、3つの”I"で繋げるのが目標です。

■神経伝達物質の営みが、学びを作る

みなさんはこうして、大人になっても何かを学ぼうとされていますが、子どものころの学び方とはちょっと違うと感じている方もいるのではないでしょうか。これは実は、脳神経のあり方が、時期によって全く異なるからです。今後の学びに役立つような脳内の営みを、少しお伝えします。

我々の脳には、シナプスと呼ばれる神経細胞と神経細胞の結び目があります。シナプスのレセプターと呼ばれる受容体部分を、情報が行き交っているわけです。このシナプスの数が、人の成長過程においてどう変化するか、視覚聴覚情報に関するシナプスで見てみますと、受精してから数ヶ月はどんどん増殖し、2歳頃には、ピークを迎えます。子どもが「なんで?なんで?」とひっきりなしに聞いてくる好奇心旺盛な時期がちょうどここですが、これは効率的に記憶ができる脳の状態だからなんですね。生き物として理にかなったことをしているわけです。

そのあと、4歳、6歳ごろにはシナプスは減少していきます。これはシナプス形成期の後、我々の脳にシナプスを刈り込んでいく時期があるからです。なぜ刈り込むのか。脳にとっては、使っていない回路を保つこと自体がエネルギーの無駄遣いになります。だから刈り込んでしまおうというシステムが働き、大人になる頃には回路がある程度精査されている状態になるんです。そこから新たなことを学ぼうとすると、またシナプスを作ったり、神経伸長や強固にするために、脳は膨大なエネルギーを使います。大人になると学ぶのに時間がかかるなと思ったり、モヤモヤすることが多いのは、まさに学んでいる証拠というわけです。

子供のころより時間は画商かかりますが、大人になっても我々はいくらでも学ぶことはできます。我々の神経細胞には絶縁体のようなものが巻かれていて、電気的な情報をやり取りしていますが、この絶縁体が太くなればなるほど、電気は漏洩する確率が低くなります。つまり、効率よく信号情報を伝えることができるようになるわけです。あるいは神経細胞は情報をキャッチするレセプターが、いろんなシナプスの方にいろんな方に動き、生み出されるんです。学習するまでにはエネルギーを使いますが、学習を習慣化することで、脳は省エネになるという良さがあります。習慣が大事と言われるのは、脳神経科学的にはこんな側面があるんです。

我々の記憶を効率よくしてくれる物質が、ドーパミンです。みなさんが何かをするときに、モチベーションというのは大事になってくると思いますが、実はどういう動機で物事に取り組むかによって、分泌される神経伝達物質が異なります。ドーパミンは、簡単にいうと、好きなこと、やりたいことをやっているときに出てくる伝達物質。やりたくないけどやらなきゃもっとやばい、怖いという状態のときは、アドレナリン(ノルアドレナリン)という物質が出ます。主にドーパミンが出ている状態のときは、好奇心が湧いているとき。よく、子どもに話しかけても目の前のことに夢中で聞こえていない、なんていうときがありますが、これはまさにドーパミンが出ている状態です。こういうとき、脳内ではβエンドルフィンという快楽物質が出ていて、かなりの集中力を発揮でき、気持ちいと感じる状態です。一方、アドレナリンが出ている時は、コルチゾールという副腎皮質ホルモンが分泌されますが、この状態になり続けると、注意力は散漫になり、ストレスが溜まっていくとされています。

僕らは、いかにドーパミン由来でものごとに取り組めるかが重要だと考えています。子どもも大人の方も、脳の中でドーパミンが溢れているような学び、「ドーパミン(DA)がだだ漏れしちゃうような、DAがDADA漏れドリブンの学び」ができる世界を僕は作っていきたいなという風に思っています。

脳神経科学には、ここに挙げきれないようなあらゆるナレッジが詰まっていて、これからの教育においても何らかの良いベネフィットを与えてくれるのではないかと思っているので、あらゆる場面で活かされるように成長して行きたいと思います。

文:武藤あずさ 撮影:梅田眞司


スピーカープロフィール

青砥 瑞人(AOTO MIZUTO)

ダンシングアインシュタイン  代表

日本の高校は中退。米国の大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)にて神経科学学部を飛び級卒業。
脳神経の奥深さと無限の可能性に惹かれ暇さえあれば医学論文に目を通す脳ヲタク。
一方で、教育には特に熱い情熱を持ち、学びの楽しさと教えの尊さを伝えることが生き甲斐。
研究者ではなく、研究成果たちを教育現場・ヒトの成長する場にコネクトし、 ヒトの学習と教育の発展に人生を捧げる。
脳x教育xITの掛け合わせで世界初のNeuroEdTech?という分野を立ち上げ、 実際にこの分野で幾つも特許を取得している。
ドーパミン(DA)が溢れてワクワクが止まらない新しい教育を創造すべくDAncing Einstein Co., Ltd.を創設し、教育者、学生、企業と垣根を越えてヒトの成長に関わることを楽しんでいる。 創設間もないが、国連関連のイベントや国を巻き込んだプロジェクトも楽しんでいる


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