視点を変えると生まれる効果
時折、小津安二郎監督の映画の特徴としてローアングルによる撮影というのを目にすることがある。しかし、それは誤りである。
小津作品の特徴として言及するなら、ローアングルではなくローポジションになる。
ローポジションとローアングルとハイアングル
ローポジションとローアングルの違いは以下のようになる。
ローポジションは、低い位置にカメラを据えることで、『東京物語』(1954年)をはじめ、戦後の小津作品は日本家屋で会話する家族をローポジション、つまりカメラを低い位置に置いて撮った。それによって独特の味わいを作り出した。
それに対してローアングルは、カメラを下から上へ煽って撮影することをいう。カメラの位置自体は、低い位置でも高い位置でもかまわない。
また、ローアングルと逆に、カメラを上から下へ向けて撮ることをハイアングルという。
このローアングルとハイアングルは、映画において、特に人物の心理状況を表す効果があり、それぞれ使い分けられている。
ローアングルとハイアングルの効果
カメラを水平にして一人の人物を撮ると、どこかに突っ立っているだけの何でもない画面となる。
これを、ローアングルで撮ると以下のようになる。
被写体は、水平のときに比べてより大きな存在として映る。被写体は権威や威厳、もしくは恐怖や不安を抱かせる対象になる。
そのため映画においては、権力を持っている偉い人や、モンスターや怪獣、もしくは殺人犯など、恐怖の対象がローアングルで捉えられる。
次に、ハイアングルだとこうなる。
ローアングルとは逆に、被写体がより小さく見える効果があり、被写体は弱さや孤独感を抱かせる対象になる。
そのため、ハイアングルとセットで用いて被写体同士の関係を明示したり、または、孤独や不安を背負った被写体が捉えられる。
視点を変えるということ
このように、一人の人物を撮るだけでも、視点を変えることで印象は全く異なってくる。
映画の様々なシーンにおいて、このようにカメラアングルつまり視点を変えることで異なる印象を演出している。
視点を変えると印象が変わるということは、映画のカメラアングルに限らない。普段の日常においても、例えば一つのニュースに対して一つの視点だけなく、複数の視点から見ることで、そのニュースそのものに対して全く異なる印象を受けることもある。
ローアングル、ハイアングルというように、下から上からというだけにとどまらず、複数の視点をもって事象を見るという意識を持つことは、多面的な考え方につながっていくと思う。