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「本を読め」と言われた子どもは本を読まない

同僚が「子どもが本を読まない」と嘆いていた。

小学校低学年の息子向けに児童文学書を買って「読みなさい」と言っても、興味を示さないという。

彼に「子どもの前で本を読んでいるのか」尋ねたところ、「読んでいない」ということだった。テレビを見てるかスマホを見てるか…ということだった。

だったら子どもは本を読まないだろう、と思った。

命令されたことはしたくない

子どもに限らず大人であっても、「〇〇をしろ」と命令されたことはしたくない。それが普通のことと思う。

だから、「本を読め」と言われた子どもは本を読まない。

仕事においても、軍隊的組織で上司の命令に反射的に従うような訓練をされているでもない限り、それがどんなに簡単なことであっても、上司から「やれ」と命令されたら「面倒だな」とか「やりたくないな」と思うものである。

そのため現在では、リーダーシップ手法として、部下のモチベーションを高める手法として、上司から部下に対しては、命令ではなくお願いする方が有効とされることが多い。

「〇〇をやれ!」ではなく「〇〇をお願いできないか?」と部下に選択させた方が、部下が主体的に取り組みやすいであろうし、ちょっと演技臭さはあるけれども「君にしか頼めない事案だから、〇〇をお願いできないだろうか?」の方が、部下も「仕方ないなぁ」と思いつつ、「やってやるか!」とモチベーションが上がる。

それは上司と部下の関係に限らず、親と子どもの関係においても同じと思う。

そのため、子どもに対して「本を読め」と命令したところで、子どもは本に対して興味は抱かない。むしろ、「本を読むな」と言った方が興味を抱くと感じる。

禁止されたことはしたくなる

「本を読むな」というように、禁止されたことは、それをしたくなる。

それは、アカデミー作品賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年)でも感じることである。

『スポットライト 世紀のスクープ』は、2000年代にアメリカで起きたカトリック教会による児童性的虐待がテーマになる。多数の神父たちが児童性的虐待を行っていた事実、それを隠蔽するカトリック教会、そしてそれを暴こうとする新聞記者の姿が描かれる。

『スポットライト 世紀のスクープ』は、真実を暴こうとする新聞記者が中心に描かれ、神父たちによる性的虐待の原因については、さらりとしか描かれていない。

そのさらりと描かれた部分でいうと、性行為を禁じられた神父は精神に異常をきたす傾向があり、そのためおよそ神父の6%に当たる人数が性的虐待を行っていた、とするものである。

本作の中では、発表された新聞記事をきっかけに、カトリック教会が性的虐待を行った神父に対して厳しく処罰する方針となったことは示されるが、根本の解決策については明示されていない。そのため、あまりすっきりしない作品ではあった。

現在カトリック教会が神父の性行為についてどういう規定を設けているのかわからないけれども、いかなる性行為も禁ずるというような厳格な規定を設けている限り、根本解決にはなっていないと感じる。

禁止された行為は、それをしたくなる。

それが性行為という本能に根付くものであれば精神にも異常をきたすであろうし、そして、それは性行為に限らない。

アダムとイブの頃から、禁じられた行為は甘くそして強烈な誘惑がある。「食べるな」と言われたリンゴは食べたくなるし、「押すな」と言われたボタンは押したくなるものである。

そして、本を読むことについても同じだろう、と思う。

知識より環境作り

自分の子どもの頃を思い返すと、親から「本を読め」と言われた記憶はない。しかし、本はよく読んでいた。むしろ「本ばかり読んでないで勉強しろ」と言われた方が記憶に残っている。

両親は二人とも読書好きだったようで、家には雑多な種類の本がたくさんあった。そして、両親は家ではいつも本を読んでいた。

そういう自分の経験から思うのは、子どもに本を読んで欲しいと思うなら、「本を読みなさい」なんて言葉は決して言うべきでないだろうと思う。読書週間といった読書を義務付ける施策もあるが、果たしてそれは本当に効果があるのか疑問に感じてしまう。

子どもに本を読ませたいなら、命令や義務ではなく、環境を作る。その方が重要なことではないか。そう感じる。

子どもの周りに本がたくさんある環境を作る。親が子どもの前で本を読む。子どもが興味を持って親の本をパラパラと見てみてみる。けれど、漢字ばかりで読めない。そういう「興味はあるけど読むことができない」禁止されたに近い環境に置く。その方が「本にはどんなことが書かれているのか」興味は抱きやすいだろうと思う。

そうして本を読むことに興味を持ち、児童向けの文学書や伝記などを学校の図書館で探してくる。もしくは、親にねだるなどして本を読むことを知る。

その方が子どもにとって自発的であるし、自発的、つまり子どもが自分の頭で考えて自分の意思で行うことが重要と感じる。

人格や個性は、環境によって作られる。

子どもに知識を伝えるのも必要な教育と思うが、人を形作る人格もしくは個性というのは、教育以前の環境作りの方が重要と思う。

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