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習慣化は目的を達成しない

習慣化について書かれたビジネス本をよく見かける。また、自分の周りにも何かを習慣化したいという人がいる。

習慣化を目指して頑張ろうという人を否定する気持ちはないが、そういう人の話を聞くと、果たして本当にそれは習慣化を目指しているのだろうか、と疑問に思うことがある。また、習慣化を目指す以上、恐らく習慣化は上手くいかないのだろうなと思う。

習慣の意味

習慣化は上手くいかないというのは、様々な習慣化について書かれた本が出版されていることからもうかがえる。習慣化が上手くいくのであれば、習慣化の方法が書かれた本一冊あれば十分で、手を変え品を変え、またはタイトルを変えて多くの書籍が出版される必要はない。

なぜ習慣化は上手くいかないのか。

習慣化が上手くいかない理由の前に、まず習慣の意味を考えるため、習慣と近しい内容の、義務と癖との違いを書くと以下になると思われる。

義務
強い意識で行う行動

習慣
無意識に近い状態で反復する行動


無意識で行う反応

これらの違いを二軸でマッピングすると、以下のようになる。

義務、習慣、癖

義務は強い意識下で行う行動で、基本的に反復行動となるが、1年に1回でもいいし10年に1回でもいいし、要するに習慣ほど連続性は必要とされない。

習慣は、義務よりも無意識に近い中での反復行動で、だからといって癖ほど無意識で行われる行動ではない。朝起きての歯磨きとか寝る前の読書、週末の散歩とかとなる。

癖は、「Aに対してA’」「Bに対してB’」というように、何かの行為に対してほとんど無意識に示す反応といえる。そのためこれは、連続性は必要とされない。

青年が空手を学び成長する姿を描いた映画『ベスト・キッド』(1984年)の中では、義務、習慣、癖の違いがよくわかる有名なシーンがある。

空手の師匠ミヤギ老人が、空手の修行として、主人公ダニエルに車の窓ガラスや壁を拭かせることを延々と繰り返させる。この”拭く動き”は、相手に攻撃された場合、自然に反応する防御の動きとなる。

窓ガラスや壁を拭かせる反復行動は、(ダニエルは当初わかってないが)空手の動きを身に着けることが目的であり、そのための鍛錬として、ダニエルは”拭く動き”の義務を強いられた。結果、目的達成と同時に、相手に攻撃された時にほとんど無意識に防御できる癖を身に着けた。

つまり、”拭く動き”の反復は、習慣化を目指したものではないし、習慣化されたことでもない。

習慣化は目的を達成しない仕組み

このような意味の習慣において、習慣化は上手くいかないというのは、習慣化は目的を達成しない仕組みになっているから、ということができる。

例えば、「10kg痩せることを目的」に、「毎朝5kmのランニング」をするとする。この場合、1年続けて「10kg痩せたら目的達成」となる。

これは習慣化ではなく、「毎朝5kmのランニング」という義務化による目的達成のステップということができ、それを簡略化して書くと以下のようになる。

義務化による目的達成のステップ

10kg減量した後も、毎朝早起きするようになっていたら、それは癖だろう。また、走らないと気持ち悪い感じがして、5kmのランニングを続けるのは習慣だろう。ランニングによって減量だけでなく、肌がきれいになったとか風邪をひかなくなったとか、そういう目的以外の効果も得るようになる。

つまり、習慣というのは、目指すものではない。明確な目的を持った義務化による効果の一つといえる。または、趣味であったり何となく続けていた行動が、気がついたら習慣になっていた、そういうものだろう。

これが、「毎朝5kmのランニング」を習慣化しようとすると、以下のようになる。

目的達成できない習慣化のステップ

「毎朝5kmのランニング」によって健康/美容という効果はあると思うが、習慣化は「毎朝5kmのランニング」という手段を目的にする。つまり「毎朝5kmのランニング」を続けること自体が目的となる。続けることが目的なので、終わりなく永遠に続ける必要がある。しかし、永遠に続けることは不可能なので、目的は達成されない。

そのため、「毎朝5kmのランニング」はいつの日か継続できなくなり、習慣化は達成されなかったことになる。

習慣化とは、回し車を走り続けるハムスターになることといえる。しかし、ハムスターもやはり永遠に走ることはできず、どこかで走るのを止める。

習慣化は目的を達成しない仕組み、というのはそのためである。

そして、習慣化が上手くいかなかったので、自己嫌悪に陥り、もしくは反省し、また別の習慣化のビジネス本などを買うことになる。タイトルを変えた習慣化のビジネス本が売れ続けるのは、習慣化は目的を達成しない仕組みになっているから、ということができる。

習慣化は手段の目的化ビジネス

以前、手段の目的化は悪だが、手段の目的化は金になる(ビジネスになる)ということを書いた。

習慣化というのは手段の目的化を肯定することであり、そのため、手段の目的化ビジネスということができる。そして習慣化を目指すというのは、ハムスター型人間になることを意味する。

それでも習慣化を目指し、習慣化による効果を得たい場合、習慣化とは反復行動自体が目的ということを意識して、頻度が少ない、もしくはかなり低い難易度の反復行動にした方が、習慣化が上手くいかず自己嫌悪に陥るリスクは低減されると考えられる。

逆に明確な目的がある場合、意識を持って自分に義務を課し、その義務を継続する意思を持つ必要がある。その結果、癖や習慣が手に入るかもしれない。

永遠には続けられない反復行動自体を目的にするのか、何かの目的達成のための手段として反復行動を義務にするのか

いずれの場合も、目的と手段を明確に設定することで、失敗のリスクは下がり、また、成功の可能性は高まると思う。

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