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マーベル映画はバーガーキングのワッパーの味がする

マーベル映画が絶好調、らしい。

マーベル映画とは、『アベンジャーズ』をはじめとした、マーベル・コミックに登場するスーパーヒーローの活躍を描いた作品群のことである。ウォルト・ディズニー社傘下のマーベル・スタジオが製作し、2008年の『アイアンマン』以降、ほぼ毎年作品を発表してきた。特に、2015年頃あたりからは年に数本ペースで発表し、どれも大ヒットを記録している。また、映画に留まらず、テレビシリーズにも拡大され、マーベルの勢いは留まるところを知らない。

マーベル映画は面白いと思う。出演者は豪華だし、アクションも迫力満点、スーパーヒーローが活躍するストーリーも楽しめる。

しかし、マーベル作品を観ると感じることがある。

マーベル作品を観た時の気分、それは、バーガーキングでワッパーを食べた時に似ている、と。

マーベル映画はワッパーの味

バーガーキングのワッパーは、美味しいしサイズもデカい。舌もお腹も満たしてくれる。

しかし、それだけである。高級寿司を食べた時のような感動はない。旅行先でご当地グルメを食べた時のような喜びもない。B級グルメを食べた時のような驚きもない。

期待通りの味で、予定調和的である。こちらの想像を超える味はない。同時に、大きな落胆もない。デカくて美味い。その期待に対して、期待通りに応えてくれる。

マーベル映画もそうである。「面白い」映画を観たいという期待に応えてくれる。しかし、こちらの想像を超える面白さや感動はない。また、大きな落胆もない。

マーベル映画の特徴

マーベル映画は、刺激に満ちている作品である。

冒頭で派手なアクションシーンなど、観客を惹きつけるシーンが描かれる。その後も、10分に1回くらいと感じるような頻度で、派手なアクションシーン、つまり見せ場が訪れる。刺激、刺激、刺激…!という作品である。

このような作品は、現代的だなと感じる。常に刺激を与え、観客を飽きさせない工夫を感じるのである。

音楽の話になるが、近頃のポップス音楽を耳にして感じるのは、以下のようなことである。

  • イントロが短い

  • 冒頭にサビがくる

  • 曲のテンポが速い

これらは、楽曲の購入方法が、CDからサブスクに変わり、聞き手に曲を選択させるため、冒頭から刺激を与え、聞き手を飽きさせない工夫ということなのだろうと感じる。

マーベル映画も同様で、そのため、現代的だなと感じるのである。

マーベル映画は観客に媚びている

マーベル映画が現代的だという事を、別の言い方にすると、マーケティング的と感じる。さらに別の厳しい表現にすれば、観客に媚びている。

観客のニーズを取り入れ、観客が満足する作品を作る。映画を芸術作品でなく製品として生産する。観客は、そうしたマーベルの思惑に素直にハマり、大ヒットする。大量生産と大量消費である。

現在は、昔と違って、大量の情報に溢れ、また、楽しむ手段の選択肢も多い。家でテレビ、お出かけして映画だけではない。ゲームもあるし、ネット動画もある。また、それら多くのネット動画は、数分程度で視聴者を楽しませる短尺動画である。映画は娯楽の主役ではなく、相対化した娯楽の一つに過ぎない。

このような環境下で、人々をわざわざ映画館に足を運ばせるためには…観客のニーズに応えよう。観客に媚びよう。観客に刺激を与えよう。刺激だ、刺激だ、刺激だ…!というマーベル映画は、ある意味正しい。

映画はビジネスである。観客がいるから成立する。だから、観客のニーズを取り入れ、観客の期待に応える。その点で、マーベル映画は正しいのである。

しかし、それだけでよいのだろうか、という思いも抱く。

例えば1950年代後半に起こった、映画の革新運動ヌーヴェルヴァーグとは、大きく異なる。ヌーヴェルヴァーグで主張された主な論点は、「作家性」だった。

マーベル映画は、「作家性」よりも観客に媚びることが優先される。

マーベルだけが映画でない

映画をひとつの産業、つまり映画産業として捉えた時、マーベルのような姿勢を否定しないし、必要なことだと思う。

しかし、マーベルだけが映画ではない。そして、映画はビジネスであると同時に、文化であり、また、芸術でもある。

映画に限らず、芸術は時に、作り手の傲慢とも呼べる自己主張によって生まれる。時代のニーズに合わなくとも、異端と呼ばれようとである。

そのような作り手の傲慢な主張、つまり「作家性」が、文化や芸術を進歩させてきた。そのような文化と芸術の進歩が、人類の発展にも寄与してきたと感じる。

マーベル映画は面白い。マーベル映画を観る2時間は、たっぷりと楽しませてくれる。しかし、映画の楽しさはマーベル映画のような刺激だけではない。「作家性」の強い作品を時に観ることで、新たな発見があるかもしれない。B級と呼ばれる作品に驚きがあるかもしれない。白黒の古い映画に大きな感動を感じるかもしれない。

食事は、手頃な値段で手っ取り早く満足させてくれるハンバーガーだけではないのである。毎日、ハンバーガーを食べていたら、栄養が偏り、健康にもよくないであろう。

時には質素な米と味噌汁という食事をとる。時には奮発して高級寿司を食べる。それが、人生に必要なことであり、人生をより豊かにすることだと思う。

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