KY、チョベリバ、そしてSDGsと寅さん
仕事や日常の会話において、またはニュース記事で、カタカナ語やアルファベット略語を目にすることが多くなった。
SDGs、LGBTQ、ADHD、コンプライアンス、アカウンタビリティ、フィジビリティ・スタディ…など数多い。
こういう言葉を見たり聞いたりすると「カタカナとかアルファベットじゃなくていいじゃないか」という思いを抱く。
90年代~2000年代の略語
このようなカタカナ語やアルファベット略語は、90年代~2000年代、「チョベリバ(=超ベリーバッド、最悪)」「アウトオブ眼中(=眼中にない)」「MK5(=マジでキレる5秒前)」「KY(=空気が読めない)」「JK(=女子高生)」など、若者言葉として流行した。
現在、カタカナ語やアルファベット略語が多く使われるのは、90年代~2000年代に、そういう若者言葉に馴染んだ世代が大人になり、新しい言葉を作って普及させる側になったせいではないか、と想像してしまう。
90年代~2000年代よりもっと時代を遡れば、『男はつらいよ』のフーテンの寅さんは、定職につかずダラダラ生活している男として、「瘋癲」を「フーテン」と自称した。しかし、「瘋癲」を「フーテン」とするのは、読み仮名をカタカナ表記したもので、90年代~2000年代や現在のものとは別種といえる。
90年代~2000年代や現在のカタカナ語やアルファベット略語は、「フーテン」とは異なり、最初聞いた時に「どういう意味?」となる言葉である。そのため、言葉の意味を聞くか調べる必要がある。結果、言葉に触れてから内容を理解するためのステップが余計に多くなる。
つまり、略語といいながらステップが増える分、非効率と感じる。
「LGBTQ」であれば最初から「性的マイノリティ」と言ってくれた方がわかりやすい。もしくは「性的少数派」と言ってくれればすぐにわかる。
また「SDGs」も、「持続可能な開発目標」の方が大体の意味はわかるし、要するに「環境に優しい開発目標」と言ってくれた方が理解は速やかに進む。
このように「言葉を知る~意味を理解する」までが非効率な言葉が広く使われている現在、「喫茶店」を「きっちゃてん」と読むフーテンの寅さんが生きていたら、「横文字ばかり使いやがって!」とか「インテリ野郎!」とか罵ったに違いないと想像する。
略語の多用
寅さんに罵られそうなカタカナ語やアルファベット略語を多用するのは、仕事の会話においても多く目にする。
「SDGsを意識した開発を考えており、フィジビリティ・スタディの結果、わが社としてはこの開発にコミットしたいと考えておりまして…」
「コンプライアンスの観点から、LGBTQの視点も取り入れた方がよいと思い、そのためアカウンタビリティを意識しまして…」
などである。これらはまだいい方で、
「予定のミーティングがブレイクしたので、新しいスケジュールをアジャストしたいんですが…」などと言われると、もはや日本語ではない。
こういうカタカナ語やアルファベット略語の多用は、その言葉自体が広く普及しているため、特に意識せず使っている場面も多いと思うが、それを使うと、”カッコいい”とか”知っていることのアピール”ということもあるのだろうと感じる。
何かの言葉、もしくは何かの知識は知らないより知っていた方がよいのは当然で、しかし、知っていること自体は、カッコいいことでもアピールすることでもない。
知らないのであれば知ればいいだけの話で、知った上でそれを使う使わないの選択、そしてそれをどう使うか、そのことの方が、その人のセンスや価値を示すことになる。
実際、無理矢理に近く略語を多用するような人は、その言葉の本質的な意味を理解していないような人が多い。
本質的な意味を理解している人、そして、本当に自分が言うことを理解してもらいたいという人は、「SDGs」でいえば、あえて「SDGs」といわず「環境にも優しい開発です」と言うものである。そうすることで、聞いてるこちらが「ああ、SDGsを意識してるんだな」となる。
略語をあえて誰でもわかりやすい表現で伝える。それが、本当のカッコいいということだろうと思う。
そのため、本質的な意味を理解せず、無理矢理略語を多用するのは、寅さん風に言えば、
「それを言っちゃあ、おしまいよ」
である。
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