ヒッチコックの法則と伏線の見つけ方
映画の評価として「見事な伏線の回収」が言及されることがある。
しかし、前半もしくは中盤に登場する伏線に気づいていないと、伏線回収が見事なのかどうかわからない。そもそも、伏線回収していたのかどうかもわからない。
伏線にちゃんと気づくにはどうしたらよいか。もしくは、伏線回収された時、あの時のあれは伏線だったのかと感じるにはどうすればよいか。
ヒントの一つに「ヒッチコックの法則」がある。
ヒッチコックの法則
ヒッチコックの法則とは、サスペンスの神様アルフレッド・ヒッチコック監督が以下のように語った、映画における画面作りの法則のことを指す。
この言葉が持つ意味を、3つのショットからなるシーンを例に考えてみる。
シーンA
以下のような、3つの連続したショットで構成されるシーンがあるとする。
最初、複数の人がいるという全体像がわかる。二つ目のショットで、複数の人の中で「黒人物と白人物が会話している」ことがわかるようになる。最後のショットで「白人物が黒人物に向かって話している」ことがわかる。
同様のシーンを、今度は、以下のようにしてみる。
シーンB
最初、複数の人が並んでいる全体像でなく、白い腕=白人物が拳銃を握っているショットが映される。残る二つのショットは、先ほどと同じである。
しかし、最初に白人物が拳銃を握っているショットを見せられているため、「白人物は黒人物を拳銃で撃とうとしている」ということが想像できるようになる。そのため、白人物が何か喋っているだけなのに、ドキドキやソワソワを感じることになる。
ここで、再度、ヒッチコックの法則を見てみる。
つまりヒッチコックの法則とは、画面内を多く占める被写体(人でも物でも)は、映画のストーリーにおいて意味があり、その占める割合が大きいほど重要性が増す、ということになる。
先ほどのシーンBでは、最初に画面を多く占める形で白人物+拳銃が映された。そのため、白人物+拳銃が大きな意味を持っているということになる。
そのため、二つ目にも三つ目のショットにも拳銃は映っていないのに「白人物は黒人物を拳銃で撃とうとしている」となるのである。つまり、この3つのカットだけの短いシーンにおいては、白人物+拳銃が伏線としての役割を担っている。
ヒッチコックの法則と伏線
ヒッチコックの法則は、映画において観客にストーリーを伝達する方法として、広く一般的に用いられている。そのため、あっと驚くような伏線回収は、上記にあげた例のように、わかりやすくヒッチコックの法則通りに伏線は登場しない。
伏線は、それが伏線と気がつかないからこそ、伏線回収時に驚きが増すからである。伏線だったと気づくのは伏線回収の時になる。
見事な伏線とされるのは、ヒッチコックの法則の逆手をとって、画面内でさりげなく映っていた小道具が後半重要なキーとなっていたり、ストーリーの要素にしても、あえて伏線を目立たせないことで、後半のどんでん返しの驚きを強めている。
しかし、ヒッチコックの法則を意識して映画を観ると、ヒッチコックの法則通りに後の展開を示唆するクローズアップがあったり、逆手を取って、後の伏線回収に驚きを持たせていたりといったように、作り手側の意図を感じることができる。
そうすることで、ヒッチコックの法則の逆手の逆手の逆手を狙ったような伏線を予想したり、もしくは見事な伏線回収に感嘆するなど、映画の楽しみ方が広がるかもしれない。
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