あめにうたえば。
雨なのに、とても晴れやかな気分。
いままで、ずっと袋小路にいた気がする。
・・・
朝起きる。
歯を磨く。
今日は一般ごみの日。
つば付きの帽子をかぶって、
防水仕様のジャンパーを羽織る。
口を結んだ、市指定のゴミ袋を両手に持つ。
ネコが、行かないで、と足元にすり寄る。
すぐ戻るからね、とその頭をなでる。
玄関を開けると、わずかだった雨音が広がる。
ビタビタと地面を打ち付ける雨粒。
それをさえぎって、歩く。
両手に抱えたビニールを、ゴミ収集用の網棚にいれる。
私の生活を彩った、残りモノたちを、手放す。
きびすを返して、ふたたび玄関へ。
振り返ることなく、扉を開け閉め。
扉が閉まると、雨音がまた遠ざかる。
変わらず玄関にたたずむネコが、
不思議そうにわたしを見上げる。
きょとんとしている。
その頭を、なでる。
・・・
「わたしも出掛けるよ」と言わんばかりに
ドアにむかってにゃあにゃあ鳴く。
ごめんね、君は出られないよ。
こうなると、なかなか鳴きやまない。
玄関先に腰をおろして
落ち着くまで、なで続ける。
特に、自分で毛づくろいできないとこを、重点的に。
あごのした。
あたま。
耳の根本。
背中のてっぺん。
しばらくなでていると、だんだん耳が平たくなる。
「もうなでるな」の意思表示。
すっと手を引く。
まだ鳴きやむ様子はない。
「待ってて」と声をかけて、立ち上がる。
自室にもどり、読みかけの「すべてがFになる」を手に取る。
そのまま、もう一度玄関へ。
ネコはあいかわらず、居座ったまま。
また出かける気か？と、怪訝そうな目で見つめてくる。
「どこにもいかないよ」と説得しながら
また玄関先に腰を落ち着ける。
・・・
窓から漏れる、くぐもった雨音をBGM代わりに、
はらりと本のページをめくる。
足元に、ネコがぴたりとすり寄ってくる。
厚手の靴下をかぶった足の上に
むんず、とそのふわふわのお尻を乗せる。
お尻の付け根から垂れる、短めのしっぽが
車のワイパーみたいに、左右にゆれる。
往路は自由。
だけど、復路はわたしのすねに阻まれるから
ぴしぴしと、柔らかいウールみたいな感触と、
小さな衝撃が断続的につづく。
数ページ、紙をめくる。
そのときに、ネコはだんまりとしている。
わたしがどこにも行かないと分かったから
すっかり、落ち着く。
わたしのひざに、小さな頭をこすりつける。
さっきまでの、懇願するような感じじゃなくて
もっと自然に、甘えるように、すりすりと。
・・・
気が変わったようで、わたしの足からお尻をどかす。
すたすたと、玄関から離れていく。
その足取りは悠々としている。
本調子に戻ったその子を見届け、わたしも後に続く。
ネコの姿は、お気に入りのラックの上。
そこから、わたしを見下ろすのが大好きな子だ。
わたしは、使い古したゲーミングチェアに座る。
スリープ状態のパソコンに、電源を入れて
わきにおいたレモンティーを一口だけ飲む。
・・・
「あめにうたえば」
とタイトルを打ち込んで。
今日という一日がはじまる。
それでいい。
これでいい。
と、思った。
今日の一曲。
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