Sevillanas セビジャーナス
おそらく我が国でフラメンコを始める際に最初に学ぶことが多いセビジャーナス。
けれども、初めてフラメンコに触れる入門者の方にとってはそんな簡単な内容ではないので、そこで挫折してしまう方も多いのではないでしょうか。
わたしも苦労した記憶があります。
それでもセビジャーナスって凄いなぁ!と私は感じるのです。
セビジャーナスはスペインでは主にアンダルシア地方で、お祭りの時などに皆で賑やかに唄ったり踊ったりされる庶民的なものなのですが、フラメンコの技術を習得する上での大変素晴らしい「基礎教材」の役割を担っていると思うからです。
フラメンコでは腕の動きに伴い同時に手首を内外と回します。
ステップを踏んだり回転もします。
スカートを履いた場合には振りでスカートを動かしたりも。
セビジャーナスにはそれらがほぼ全て含まれており、多くはペアになって踊られるのでお互いの動きにあわせて交差したりと、それによって更に構成までもイメージすることができるのです。
よくできている!セビジャーナスは凄い。
ここを乗り越えたら、次に出会う新たな音楽や振り付けに臨む頃には何一つ知らなかったあの日とは全く違う自分に出会えると思います。
そんなことから初めてnoteに記すのは
フラメンコへのささやかな旅の始まりとして、
わたしにとってもフラメンコとの初めての出会いでもあったこの
『セビジャーナス』を選びました。
先ほどは踊りの面からの事をお話ししましたが、基本的にこれから私は踊りの面からではなく音楽のことや背景についてを書いていくことになると思います。
Sevillanas
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セビジャーナスはセビージャの典型的な音楽と踊りであり本来のフラメンコの曲種には属しておらず、元々は舞曲の『セギディージャ ・ マンチェガ』が起源と考えられている。
セギディージャの詩節がセビジャーナスの基礎になっているということから少し調べてみた。
◉セギディージャ・マンチェガとはどんなものか
セギディージャとは音楽の形式の名称で、マンチェガとは「ラ・マンチャ地方の」という意味。
スペインの地図 Google earth
カスティージャ ラ・マンチャ地方の地図 Google earth
セギディージャの起源はイサベル王女とフェルナンド5世カトリック両王の時代(15世紀頃)まで遡る。
その15世紀頃「カスティージャ・セギディージャ」が生まれ、時間の経過とともに踊りを伴う様になり民族舞曲へと発展していったものらしい。
◉セギディージャの詩形
セギディージャはスペイン詩の中でとても多く用いられる詩節の一つの形であり、セギディージャ・シンプレ(単純形)、セギディージャ・コンプエスタ(複合形)(その他にもいくつかあるがここでは省く)がある、
⚫︎セギディージャ・シンプレ(単純形)
7音節と5音節の異音節詩形で
2行目と4行目、1行目と3行目が韻を踏み、奇数行は弱め。偶数行の韻が強いという韻律を持っている
1行目 7音節
2行目 5音節
3行目 7音節
4行目 5音節
⚫︎セギディージャ・コンプエスタ(複合形)
セギディージャ・シンプレに反復句を合わせたもの
1行目 7音節
2行目 5音節
3行目 7音節
4行目 5音節
この後に続く(反復句)の構成(例外もあり)
3行詩
1行目 5音節
2行目 7音節
3行目 5音節
1行目と3行目が5音節 で強い韻を踏む
2行目が7音節 偶数行より緩い韻を踏む
※『この胸の熱く燃える愛の火を消せるものなどはない』(意訳)
と唄っています
7音節 Un - in-cen-dio a-mo-ro-so
5音節 Mi - pe-cho a-bra-za
7音節 ¡Ay - de - mi! - si - re-sis-tes
5音節 É-cha-me el - a-gua
5音節 Aun-que - yo - cre-o
7音節 Que - no - hay a-gua - bas-tan-te
5音節 Pa-ra es-te in-cen-dio
※どんな音楽なのかなと探してみましたらYouTubeで幾つも見つけられたのですが,こちらをピックアップしてみました。
(上の歌詞とは関係ありません)
◉ここから本題 sevillanas
セビージャの地図 Google earth
初めに紹介したようにカスティージャの民謡セギディージャから派生したと考えられている。唄、ギター、パルマを主にし、パリージョ、タンバリン、太鼓、笛なども用いられる。
踊りは元はペアで踊るスタイルが主だが、一人でも大勢でも踊られる。
現在のスタイルに発展するまでの道のりとしては、まず始まりとして「セギディージャ・マンチェガ」が、アンダルシア地方への道すがらその土地の民謡などと影響し合いながら波及していった。
そして
1847年頃、主に元々は馬の見本市であったセビージャのフェリア(現フェリア・デ・アブリル)に届き、セビージャの人々によってよりセビージャらしく盛んに踊り唄われ発展したことで現在のスタイルが確立していったと思われる。
それは庶民の生活の中に浸透し、家の中庭や近隣の家々(セビジャーナス・コラーレス)や巡礼の道々(セビジャーナス・ロシエラス)などで、さまざまなスタイルが民衆によって育まれていったものと思われる。
※のちにテーマ別に紹介します。
『フラメンコギターの歴史』マヌエル・カーノ氏著 濱田滋郎先生訳
の中で濵田先生が選ばれた言葉が美しく胸がときめいた記載がある。
(一部抜粋しますが著作権など侵害している場合、ご指摘ください)
※セビジャーナスはフラメンコの曲種には属さないと初めに書きましたが
フラメンコもこういった「人々の人生や日々の種々を歌う生きた音楽」なのだと私は思います。だから人を惹きつけるのでは。
◉音楽の性質
フラメンコのミの旋法、短調、長調と全ての曲調から作曲され、あらゆるキーで演奏される。
歌詞もメロディーも決まりがないことによるが、基本のコンパスだけは変わらない。(基本的なものについて、という意味であり意図的に作り込まれたものを除く)
◉拍子、コンパスについて
セビジャーナスの拍子は3拍子。
1拍目に強いアクセントを持つ3拍子
初めの拍 つまり『1』が強く、2、3拍目はそれより弱い。
1、2、3、1、2、3、1、2、3
音楽的には 6拍で1コンパスと考える。
セビジャーナスにはパソ・デ・セビジャーナス、パサーダという名前のステップがあるが、それらは6拍で展開している。(基本的なギターのメロディーも同様)
一つの例としてこの↓YouTubeの音楽で話すと
Mirala cara a cara
一般的にギターによる前奏の長さは決まっていないが、この動画の曲では一発目の弾き出しの一音めから6拍づつで同じフレーズが3回繰り返されている。このフレーズはパソ・デ・セビジャーナス、パサーダの時にベースとなって弾かれる基本的なメロディーである。
※ 踊っている途中でコンパスを見失ってもこのメロディーがわかれば、また正しい位置に戻る事ができるという意味でも音楽を知っていることはとても大切です。
また後の項目で音楽と踊りの構成にも触れます。
◉唄
セギディージャのところで書いたように
セギディージャ・コンプエスタ をベースとしている
(例外も勿論あり8音節10音節などもありその詞による)
1行目 7音節
2行目 5音節
3行目 7音節
4行目 5音節
その後に
3行詩
1行目 5音節
2行目 7音節
3行目 5音節
・歌詞の例 ※上の動画の歌詞です (一番のみ)
Mirala cara a cara
Mirala cara a cara
que es la primera.
Que es la primera
mirala cara a cara
que es la primera
mirala cara a cara
que es la primera
Que es la primera
y la vas a seduciendo
a tu manera
y la vas a seduciendo
a tu manera.
Esa gitana
se conquista bailando
por sevillana(s).
・訳
見つめ合って (踊る)一番だよ
一番だよ 向き合って
うっとりさせながら 君の踊り方で
夢中にさせながら
ジプシー娘はセビジャーナスを踊りながら
ハートを射止めるんだ
・音節で切ってみます (繰り返し部分は省きます)
7音節 Mi-ra-la-ca-ra a-ca-ra
5音節 que es-la-pri-me-ra.
7音節 y-la-vas-se-du-cien-do
5音節 a-tu-ma-ne-ra
5音節 E-sa-gi-ta-na
7音節 se-con-quis-ta-bai-lan-do
5音節 por-se-vi-lla-nas.
◉アーティスト
特に優秀な演唄者であったとして著名なアーティスト、更にセビジャーナスのスペシャリストとしてのグループやソリストがいる。
◆マヌエル・パレハ・オブレゴン
セビージャ出身のスペインの音楽家、作曲家でありまた彫刻家でもあった。
ビアノで作曲をし演奏するスタイルで、彼の作曲の中でもウエルバ地方のファンダンゴスやセビジャーナスがよく知られ、それまでギターやパリージョなどで演奏さてきたものにオーケストラのアレンジを加えるなど斬新なスタイルを導入しでセビジャーナスブームのパイオニアと呼ばれた。
1993年に白血病で62歳の生涯を終えた。
※カルロス・サウラの「セビジャーナス」でピアノを弾いて歌っています!素晴らしい!
◆ニーニャ・デ・ロス・ペイネス
セビージャ出身で20世紀で大変偉大な唄い手の一人とされ、数多くのセビジャーナスの録音も残っており今日までも長く唄い続けられている。
※大変著名な唄い手でありますがここでは簡単にご紹介しました、
◆ロス・エルマノス・トロンホ
ウエルバ県アロスノ出身の二人兄弟。
ファンダンゴスで有名であるが、セビジャーナスにおいてはセビジャーナス・ビブリカ、セビジャーナス・アロスノとして知られるスタイルを唄うことでよく知られている。
◆エルマノ・レイエス(ロス・レジェス)
セビージャ県カスティジェハ・デ・ラ・クエスタ出身の兄弟、ディエゴとミゲル。1958年彼らの初めての録音したレコードから約20年セビジャーナス歌いとしての芸術性に貢献し続け、それまでの伝統的なセビジャーナスのスタイルに革命を起こしたといわれている。
◆エル・パリ
セビージャのトラバドール(抒情詩の詩人)と呼ばれ主にセビージャやセビージャの伝統などを唄い知られている。
※などなどこの限りではありません。
◉セビジャーナスのテーマ
テーマとしては 大まかに以下のようなものがある。
※カルロス・サウラ監督の「セビジャーナス」で検索するとYouTubeで色々なシーンを観る事ができます
1:セビジャーナス・ポプラレス
一番ポピュラーなセビジャーナスで毎年新しい歌詞、メロディーで沢山作曲される。
主にはセビージャのフェリア・デ・アブリル(勿論セビージャ以外の近隣地方でも)盛んに唄い踊られ、歌詞の内容は人生、愛、歴史、暮らし、セビージャを賛美するものなどあらゆる内容で歌われる。
これ以外に現在数々のフラメンコのアーティストが唄い演奏されるものもこの「ポプラレス」に含まれます。
※YouTubeよりフェリアでの一コマで愛らしい若者のパレハ動画を。
2:セビジャーナス・ビブリカス
旧約聖書や神の教えを説くエピソードや聖書でおなじみの人物などもその歌詞に登場する ダビデ王、サムソンとデリラなど。
以下の動画では、
ダビデ王が水浴びをしているダビデ王の家臣ウリヤの妻バト・シェバを見染めてしまい、ウリヤを戦いの最前線へ追いやり戦死させたという言い伝え。
アッシリア軍率いる将軍ホロフェルネスによって包囲された町ベトリアの住人であった美しい寡婦ユディトは、気があるとみせかけホロフェルネスに近づき誘惑し、酔い潰れている間にその首を切り落とし町を守ったという言い伝え。
サムソンとデリラの言い伝え。
美しい髪を腰まで伸ばしそれが自慢でもあったアブサロムが父であるダビデ王を失脚させることに失敗し逃亡する際に、その美しい髪が木に引っかかってしまいそれが元で命を落としたという言い伝え。
についてうたってる。
チャノ・ロバート、ニーニャ・デ・ラ・プエブラ なども録音している
※この動画はエルマノ・トロンホの弟、パコ・トロンホがうたっています(こちらもカルロス・サウラ監督の映画セビジャーナスより)
3:セビジャーナス・ロシエーラス
スペインの最大の巡礼祭であるロシオの巡礼祭。
国内外の各所から多数の信者が集いウエルバ県アルモンテ自治区のロシオ村までを一週間という期間をかけて徒歩で(馬車もあり)踏破する道中に歌い踊られる。
とても独特なロシオの聖母を讃える歌詞が多く笛を吹いたりタンバリンや太鼓などを打ち鳴らしながら唄い踊りギターをかき鳴らしたりする。
※ NHKで2001年放送の『100万人のフラメンコ巡礼』というドキュメンタリーでロシオ巡礼を取り上げたものを先日再放送していましたね。
※この動画はロシオ巡礼の様子がみられるので選びました。毎年このタイプのセビジャーナスは幾つも幾つも発表されます。
4:セビジャーナス・コラレラス
コラレラはアンダルシアの民謡という意味と、囲い馬とか裏庭などという意味がある。
※corral de trianaなどで調べてみると「コラル」がどんな場所なのか知る事ができますよ。
このコラレラスは、古くからセビージャや近隣の地域に多く存在し、四角やコの字形などの古い囲い庭、裏庭を意味する続き長家のような場所をさす。家族や親戚やらご近所さんが集い、おそらく日常的に歌われ踊られてきたもので、とても庶民的で軽快なスタイルを持つ。
(レブリハのグループの音源が多い)
※コラルでの動画ではないけれど大好きなので選出!
5:セビジャーナス・ボレーラス
セビジャーナスの起源であるというセギディージャのスタイルが色濃く残っているスタイルで、こんにち、踊りにおいては「エスクエラ・ボレーラ」の流儀で踊られる。
バレエ的な要素が濃く、特別な技術を必要とするので他のものと比べると庶民が多く踊るスタイルではない。カスタネットを用いバレエシューズで踊られる。
※カルロス・サウラ監督のセビジャーナスの中でもみられるのであえて別の動画を選出。
6:セビジャーナス・マリネラス
カディスとウエルバなど大西洋に面した地域に由来するテーマ
船乗りのこと、入江や塩田の美しさなどが歌われるようです。
※わたしはこれについては今回調べるまで知らなかったです。
この動画は一例です
◉ セビジャーナスの基本的な音楽構成
1:ギターの前奏
(リズムメロディー)から始まる(長さは決まっていない)
2:3小節の前唄
(ギターの締めの最後の小節から歌が食って唄われる事が多い)
3:前唄の3小節目の次の小節頭1拍目が踊り始め
(mirala cara a caraの場合)
ギターのリズムメロディーで始まり
唄入りのメロディー12小節が3回繰り返され(1小節に四分音符が3つ入る場合)
4回目の頭で締めの振りで止まる。
◉踊り
元々は男女などのペアで踊られるが、勿論、一人でも大人数でも踊られる。
あくまで一般的な形だと、
1番から4番まで踊られる事が多く、各番は3つのパートに分ける事ができる。
一番ずつの曲の中には3つのパートがある。
(例 Aパート, Bパート ,Cパート)
・Aパート 歌
・パソ・デ・セビジャーナス
・Bパート 歌
・パソ・デ・セビジャーナス
・Cパート 歌
各A 、B 、C の部分に唄が入り
AからB、BからCの各々の間は歌の小休止
その間ギターの決まったフレーズが入り
踊り手はそこで必ずパソ・デ・セビジャーナスを踏んでいる。
(そのパソ・デ・セビジャーナスは歌の最後の部分から始まる事が多い)
振り付けは必ずこれを入れると決まってはいないが、
各番の基本的な動きは大きな違いはない。
(全くオリジナル振付やメロディの場合は例外)
●Mirala cara a cara
Mirala cara a cara
que es la primera.
ミララ カラ ア カラ ケ エス ラ プリメラ
(一つ目ミララのラが1拍目)
(プリメラのラからパソ・デ・セビジャーナスを踏み始める)
上の説明は Mirala cara a cara 場合だが
他によく知られてる唄で見てみることにする。
例えば
●Sevillanas del siglo 18
¡Viva Sevilla,
viva Sevilla!
ビバ セビージャ ビバ セビージャ
(一つ目のバが1拍目)
(セビージャ の ジャ からパソ・デ・セビジャーナスを踏み始める)
同じく前唄最後から食って唄い始まるため
初めのビバの バ が一拍目になる
●Pasa la vida
Pasa la vida, pasa la vida
パサラビダ パサラビダ は一拍目から入っている
(パサラビダ パが1拍目)
(パサラビダ パサラビダ の後のギターフレーズのあたまの1拍目
からパソ・デ・セビジャーナスを踏み始める)
※私がここで書いていることは私が知りたいと思いそこで出会ったことを書いています。
フラメンコではコンパスがとても大事です。
上でご紹介した歴史的な背景や認識についてや、歌やギターにつきましても、歌い手さんによって、またギタリストさんによって唄われ方や演奏のされ方は違います。
入り方がわからないとよく耳にすることより解説してみました。
ですので、私がお伝えしたことはあくまで例としてご理解ください。
ご了解のうえよろしくお願いいたします。
最後までお読みくださりありがとうございます。
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