見出し画像

060_タイムリミット~今の幸福を抱きしめて~

「久しぶりすぎて、さやかの唇を忘れかけたわ」
「思い出してくれた?」

「うん」
「よかったー」

ボクは、いつもの席で、
彼女が作るハイボールを
飲んだ。

「いろいろあったみたいだけど、何があったの?」
「うん、いろいろあったよ」

「思い出したくない感じだね」
「うん、そうだね」

「じゃあ楽しかった話して、雪山行ってきたんでしょ?」
「うん、それはすっごく楽しかったよ」

そう言って、
彼女は、大学のサークルで言った話を
楽しそうにボクにしてくれた。

その時の写真も見せてくれて、
当然、男もいるわけだけど、
さすがに、そこに嫉妬はなかった。

彼女と同世代の男に嫉妬していたら、
さすがに余裕なさすぎだし、
そこは競争相手ではないと勝手に思っていた。
正しく言うと、彼女が同世代の男性を選ぶことは、
至極当然で、自然で、そこは受け止めようと、
前から決めていた。

彼女に彼氏ができたら、
きっと、会うこともできなくなる。
それは、お店で会うことも含まれる。
彼氏がキャバを辞めてくれと言ったら、
それでお終いなわけで。

そういう意味では、
今の彼女との、この関係は、
見えないタイムリミットがあって、
ボクは、時折、それに怯えることがある。

彼女に会えなくなるという不安、
考えても、どうしようもない不安、
そして、
ボクは第三者で、当事者にはなれない。


ハイボールを傾けながら、
いつかの会話を思い出した。

ーーーーーーーーーー
「ねぇ、俺たちの関係って、
 どうやったら終わるんだろ?」
「なんでそんなこと聞くの?」

「だって、さやかに彼氏ができて、
 突然連絡なくなったら、寂しいよ」
「それはないよ」

「どうして?」
「こんな短い期間で、
 こんなに私に会いにきてくれて、
 私のことを好きって言ってくれて、
 そんな人に対して、
 急に連絡とらなくなるなんて、
 できないよ」

「そっか」
「うん」
ーーーーーーーーーー


ボクは、
彼女の言葉を信じた。

けど、
タイムリミットがあるのは事実。

隣にいる彼女の顔を見つめ、
もう一度キスをした。

ゆっくりと唇を重ね合わせ、
彼女とシンクロする。


「さやかに会えてよかったよ」
「急にどうしたの?」

「ん?久しぶりで嬉しくなっちゃっただけ」
「そっか(笑)ありがと」


ボクは、
あと何回、
好きと言い、

キミは、
あと何回、
ありがとうと言うのだろう。


未来の不安をかみしめて、
今の幸福を抱きしめた。