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凍った3枚のお札

 ある日の休憩時間、noteに未読メッセージが。それは、コンテストに応募した「ドキンちゃんのタルトタタン」という記事にコメントがついたお知らせだった。

それがこちらです💁‍♀️。
(宣伝も、割としっかりします。)
https://note.com/largavida_10/n/na3bfeca5107c

 ガタッ!と勢いよく立ち上がりみんなの視線を集めた後、ゆっくりと椅子に座った。座り直したかったんですよ、という体で。顔も、そんな感じで。
 
 早速読ませてもらう。嬉しすぎてマスクしてても分かるくらいニヤニヤが止まらない。
コメントの中に、『冷凍したどら焼き、たい焼き、カステラもおすすめデス』とある。私が凍らせてから半解凍したチーズ蒸しパンが無性に食べたくなると記事に書いていたからだ。

残りの休憩時間を気にしながら、私もその方に向けて返信する。
返信し終わってから帰り道にあるスーパーやコンビニの地図を、頭の中で広げた。

まずはたい焼き。あんこよりクリームが好き。コンビニでゲット。

次はどら焼き。スーパーであんことホイップクリームを挟んだものが売られていて、思わず手に取る。

最後はカステラ。これは家にあった。

 家に帰って3つのスイーツを並べてみる。どれも凍らせたことなんてないから、常温とどう違うのかわからない。でも3つとも疲れた心身に一気に効きそうで、まるで三種の神器みたい。
いや、三種の神器は言い過ぎか。

三つ……さんこ…………サン時………参円………………3枚………のお札……?…⁇………!……!!!!!!

 疲れた頭の、変な回路が働いて導き出された言葉はこのスイーツたちにぴったりハマって、そうだそうだと納得しながら冷凍庫にしまった。

 そして早速、1枚目のお札を使う時が来た。
その日は特に忙しくて、通常業務が何一つ出来ないくらい雑務に追われた。当然その後に業務をこなすから、ヘトヘトになって家に着くとご飯もお風呂もどうでも良い!と投げやりでリビングの床に大の字になる。ひとしきりウダウダしてから、ノロノロ立ち上がってお風呂に行く。通りがかりに冷蔵庫が「ここにしまったお札、使います?」と投げかけてきた。

ーそうだ、今こそ使いどきだ。

 冷凍庫から1枚目、クリーム鯛焼きをお供にお風呂へ。洗うべきところを洗って湯船に浸かる頃、たい焼きはちょうど良い解凍具合になっていた。しっかり肩まで湯船に浸かりながら、一口。

    何で今まで試さなかったの、私。

 コンビニで見た時の柔らかそうな皮の感じは、半解凍されてもそのままの柔らかさを保っている。ふわふわと柔らかなものの中身は、冷たくて硬さがあるクリーム。とろっとした感じでは無くて、凍っていたからかちょっと硬い。食べ進めると、中心はシャリっとしたクリーム部分に行きあたる。
 ほ〜っと一息吐いて、その冷たさと湯船の熱さのギャップに身を任せた。


 2枚目はどこの家も朝から車の音がする休日。目が覚めた瞬間から頭が痛くて、低いテンションで洗濯機を回す。お昼ご飯を求めて冷蔵庫を開けて、閉めて、もう一回開けた時に賞味期限の書いてある牛乳を見て思い出した。冷凍庫のどら焼きにも、賞味期限がある。

 サッと閉めて、冷凍庫からどら焼きを出す。良かった。賞味期限、まだ切れてない。料理をする気も無くした私に「使うなら今ですよ。」と、どら焼きがささやいた。
 録画しておいたドラマを再生しながら緑茶の準備をする。お高いものではないけど、やはりどら焼きなら緑茶。三角パックに入った玄米緑茶をでっかいマグカップに放り込み、お湯と水(ぬるい方が緑茶には良いと聞いた。猫舌だから、そこも丁度いい)を注いで、どら焼きと一緒に席につく。ドラマのクライマックス手前で、一口。

 何で今まで試さなかったの、私。(2回目)

 「包む」たい焼きとは違って「挟む」どら焼きだからか、どら焼きの皮は若干しおれている。それをあんことホイップクリームが支ている。食べると、口の中で硬いあんこが「本当はどら焼きなんですよ。」という顔で柔らかさを取り戻していく。冷えて温度が感じにくいからか、最初は感じられなかった甘さが柔らかさと一緒に蘇ってくる。最後のシメに玄米緑茶で整えると、食べ終わる頃には「にじ」の鼻歌が出るくらいまで回復していた。


 そして、3枚目。は、残念ながら冷凍庫には入っていない。2枚目の時には確かにカチカチの豚肉のパックの隣にいたはずなのに、今は豚肉だけが冷えている。この家の人間の誰かが、私の3枚目を食べたに違いない……!


 だが、名探偵になる予定も、なっても無駄だと知っている(悟っている)私は、一切れだけの個包装のカステラを売っているところを頭の中の地図で探しながら、誰かの何枚目かのお札であろうアイスを冷凍庫から出した。








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