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Design&Art|デザインを探して 〈06.人とモノの物語〉

日本でも世代を超えて長く愛されている、フィンランドのデザイン。アアルト大学でデザインを学び、現在は日本とフィンランドを繋ぐデザイン活動を行っている、lumikka(ルミッカ)のおふたりが、フィンランドデザインをつくる様々な要素を探り、その魅力を紐解きます。

なにかをつくること。

私たちの生活にはたくさんのモノが溢れていて、その背後には、いつも人との物語がひそんでいます。子供の頃の思い出とか、ありふれた日常の風景とか。

デザイン(Design)の語源は、計画を印として描くこと・残すことだと聞いたことがあります。では、“フィンランドデザイン”が現代に残したものとはいったいなんなのでしょう。

先史時代よりつづく、人とモノの物語。
今回は、タンペレとヘルシンキの街を歩きながら、モノへの思考を巡らせます。


大きな街を歩いていると、たびたび目にするのがこのセカンドハンドショップ。日本だとリサイクルショップと呼ばれることが多いのかもしれません。

セカンドハンドやリサイクル品、ヴィンテージ品など、いわゆる「中古品」を指し示す言葉はさまざまですが、フィンランドには、それらの「モノ」を長く循環させるための仕組みと文化が根付いています。


これらのショップには、家具のような大きなものから雑貨や本まで、多種多様なモノたちが次の居場所を求めて待ち続けています。

フィンランドのセカンドハンドの文化は、今でこそ環境問題や現代社会と紐づけられて語られることもありますが、元を辿れば、戦中・戦後の欠乏の時代を耐え抜く術のひとつだったのではないかと思います。

その文脈は戦後のフィンランドの「モダンデザイン」とも繋がっています。金銭的にも精神的にも厳しい時代に、人々が長く使える普遍的なモノを求めたことは極めて自然なことだったのでしょう。


新しいモノ、古いモノ。

「新旧」という言葉は、たびたび対比的な使い方がされるものですが、フィンランドにおいては連続的で、分断することのできない言葉の連なりです。街のセカンドハンドショップでは、生まれた場所も時代も異なるモノたちが同じテーブルの上に肩を並べており、もはや新しさと古さの概念は意味をなしていません。

置かれているモノのひとつひとつに、かつての使い手の痕跡や思い出が閉じ込められているんだなと想像してみると、なんだか愛おしくも思えてきます。


それなりの値段がつけられている絵画から、捨てられる一歩手前のガラクタまで。ショップには生活にまつわる様々なものが混沌と置かれていて、まるで博物館のようです。

けれどそれは、とても庶民的な博物館です。かつての王族の暮らしを展示するような国立博物館とは決定的に違っている、あくまでも匿名の、そしてごく一般的な生活を記録するための博物館です。

一部が破損していたり、名前のイニシャルが油性のマジックで書かれていたり。そこにある全てが、人の生活の一部として確かに”生きていた”モノなのです。


モノの多くは、街の回収ボックスや持ち込みによってセカンドハンドショップへとやってきます。運営者は、非営利な組織のこともあれば、民間の企業だったり、個人だったりと様々です。

しかし、そのほとんどが「普通の家庭からやってくる」という点においては共通しています。

それは、著名なデザイナーのプロダクトを取り扱うヴィンテージショップでも同様で、モノたちは、絶えず家庭とショップを行ったり来たりしているのです。


「フィンランドデザイン」って、砂浜に落ちている角の取れた丸い石のようだなと思うことがあります。他のごつごつとした石と比べるとたしかに手触りは滑らかで、だけど他の石と競うこともせず、ただ、同じ地平の上で肩を並べて佇んでいます。

丸い石は、それはそれでやっぱり綺麗なのですが、いびつな石が妙にしっくりと手に馴染む、そういうことも往々にしてあるものです。

結局のところ、私たちが探しているのは「美しい石」ではなくて、「石のそばにある美しい風景」なのだと思います。それは、砂浜から見る夕焼けのことかもしれないし、砂浜の上に広がる夜空のことかもしれない。

ただひとつ言えることは、その美しさはひとつの石がつくる風景ではないということ。

有名なモノも、無名なモノも。
新しいモノも、古いモノも。
セカンドハンドの文化、そのものも。

すべての要素があつまって、はじめてそれを「フィンランドデザイン」と呼ぶことができるのではないでしょうか。

「デザインを覗く」シリーズからはじまり「デザインを探して」シリーズへと続いた私たちlumikkaのコラムシリーズも、今回で一区切りです。2021年から約1年半、18ヶ月もの間「フィンランドデザインとは何か」と考え続けてきました。

全てのコラムに共通して、具体的な答えを出すことはできませんでした。しかし、その曖昧さの中にこそ、本質的な何かが隠されているのではないかとも思っています。

次回からは、また少し違った視点からフィンランドと向き合ってみようと思います。

1年半もの期間、コラムを読んでくださった皆さまありがとうございました。新しい場所で、新しい気持ちで、またお会いできれば幸いです。

夏のフィンランドにて、lumikkaより。

https://lumikka.shop/
instagram:@lumikka_official

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