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Lifestyle|17歳、フィンランドからの手紙 〈12.北極圏の暮らし〉

小さな頃から森が身近にある日々を送り、いつの日も自然とともに過ごしてきたcocoroさんは昨年の夏、憧れの地・フィンランドへひとり旅立ちました。渡航から1年が過ぎた今、18歳になった彼女は何を思い、何を感じているのでしょう。まっすぐに見つめたフィンランドを綴ります。

Moi!cocoroです。

フィンランドの北極圏、スウェーデンとの国境近くにあるRaanujärvi(ラーヌヤルビ)という小さな村。1月の初め、その村に暮らす日本人女性のユリハリユ勝美さんを訪ねました。

勝美さんがフィンランドへ移住したのは、2007年の春のこと。日本で出会ったフィンランド人のパートナーと一緒に、北極圏にあるラップランド大学へ入学。手工芸に関心があった勝美さんはテキスタイルデザインを学んでいました。

渡航から3年の間に2人の子供が生まれ、ユリハリユ家は4人家族に。そんな時、パートナーの仕事がきっかけで初めて訪れたのが、ラーヌヤルビでした。勝美さんが以前から漠然と思い描いていた田舎暮らし。村の人々の人柄に触れるうちにこの土地に惹かれ、ラーヌヤルビで暮らすことを決めたのだそう。

勝美さんの運転で町の中心から出発するとすぐ、信号のない、ただひたすら真っ直ぐ伸びる道と、白い雪で覆われた木がどこまでも続く風景に。そして40分ほどが過ぎ、車の窓から見えたのは、森とその中にぽつぽつと建つ伝統的な木造の赤い家。どこか懐かしさが漂う風景を眺めていると、「ここではトナカイの飼育をしている人もいるんだよ」と教えてくれました。

「ヤルビ」はフィンランド語で湖の意味。村のすぐそばには「ラーヌ湖」という、村と同じ名前の湖があります。そんな大自然の中、勝美さん一家が暮らしているのは、自分たちで改築した古い小学校の校舎。

でもそれは100年以上前に建てられたもので、すでにバラバラのログに解体された状態。勝美さんたちは昔ながらの方法で、そのログに記された番号を頼りに、一本一本を組んでいきました。中には番号が消えかけているものもあれば、ログ自体がすでに腐っているものも。作業は決して簡単ではなかったはずだけれど、ひとつひとつ自分たちの手で作り上げていったからこそ、この家は勝美さん家族にとって唯一無二の、かけがえのない場所なのだと確信しました。

古い小学校の造りを残す、大きな長窓や高い天井。玄関ホールから続くドアの先には手作りの石窯があり、ケーキやパンはもちろんのこと、煮込み料理やグリル焼きなど、いろんな料理に大活躍。家を暖めてくれる役目も担っているそう。そしてその横にはキッチン、長いダイニングテーブル、くつろげるソファがあって、家族がいつも一緒に過ごせる空間が広がっています。部屋に飾られたキャンドルやそこにある物、一つ一つに物語が秘められているようで、大切に、丁寧に、日々の暮らしが紡がれているのを感じました。

とは言っても、北極圏・ラップランドでの暮らし。日照時間が限られているため、暗く厳しい寒さが続く冬。田舎暮らしは買い物に行くだけでも時間がかかり、小包などの郵便物は60キロ離れた大きな町まで取りに行かなければいけません。大事なライフラインも、水道管が凍って水が出ないこともしばしば。決して「住みやすい」とは言えない場所に根を下ろすと決めた勝美さん一家。そこにはそれ以上の想いがありました。

冬に備えて薪の準備
勝美さんが一人で積み上げたのだそう

季節や自然を敏感に感じられること。心と身体の静けさを楽しめること。夏や秋の森で採れる豊富な食材、数々の自然の恩恵。そして、この村での生活だからこそ鍛えられた、簡単に手に入らないものは自分で作る能力と、忍耐、心の強さ。

「ラップランド暮らしはね、メンタルが強くなるよ!」
そう笑って答える勝美さんは、おおらかで凛としていて、彼女がどれだけ今の暮らしを愛しているのか、自然と伝わってきました。

料理や編み物、物作りが得意な勝美さん
手作りのティラミス
子供たちもお母さんの作る料理が大好き

現在、子供は3人に。家のすぐ近くにある小学校では、勝美さん自身もスクールアシスタントとして働いています。6歳のプレスクールから小学6年生まで、全校生徒11人の小さな学校。勝美さんは主にプレスクールと小学1年生の子供たちの読み書きや算数のお手伝い、図工、家庭科、音楽、そして掃除や配膳、放課後クラブを担当しています。

アイリッシュセッターのジェイク君
つぶらな瞳がとっても可愛い!

人口200人ほどのラーヌヤルビでは、学校の先生と子供たち、そして保護者も、まるでみんなが家族のよう。心温かい村の人々のおかげで、やりがいを感じながら、子供たちと楽しい日々を過ごしているという勝美さん。太陽のようなエネルギーに溢れ、一緒に話していてとっても楽しくて!人懐っこい彼女の人柄が、会ったばかりの私もすぐに大好きになりました。

この日は勝美さん一家のお気に入り、
石窯ピザを頂きました

「勝美さんが一番に大切にしていること、自分なりの生き方とは何ですか?」
私は最後にこんな質問をしてみました。

「困難や大変なことも、もちろんあります。決してうまくいくことばかりではありません。でもそんな時こそ大切なのが、ポジティブな気持ちを忘れないこと。」

北極圏の小さな村で凛として生きる勝美さんの姿には、確かにその人生観が映っています。私も18歳という節目。彼女との出会いは、自分のこれからを見つめるきっかけになりました。そして実は勝美さんに会ってから、私もいつかラップランドで暮らしてみたいなぁ…なんて秘かに憧れています。

夜空には満点の星
家の前でオーロラもよく見れるのだそう

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
また次回のコラムもお楽しみに。

Moi moi!