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Culture|星さんに聞く、フィンランドと食 〈02.フィンランド料理の素朴さを味わう〉

ラプアン カンクリ 表参道では今、「HerkulLinen / 食とリネン」を開催中。前回に続き、フィンランドの数々のレストランで調理を経験し、その後に自身の料理店を開業、現在はヘルシンキからオンライン料理教室を行うなど、多方面で活躍する料理家・陶芸家の星 利昌さんに、フィンランドと食にまつわる様々なお話を伺います。

フィンランド料理といえば、どのような料理が思い浮かぶでしょうか。

サーモンスープ、ミートボール、マッシュポテト、ポロンカリユトュス(トナカイ肉の煮込み)、カレリアンピーラッカ、カルヤランパイスティ、マカロニラーティッコなどなど、フィンランドにはたくさんの伝統料理があります。これらのどの料理も素朴な味わいをしており、自然や食材の滋養が深く感じられます。伝統料理を味わったり、自分で作ることで、国の食文化や歴史を感じとることができます。

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フィンランド料理の歴史を辿ってみると、昔から−10℃、–20℃もしくはそれ以下になる冬場の厳しい気候や過酷な風土ゆえに、新鮮な食材を育てることができず、香辛料なども中々手に入りにくかったといいます。そのため食文化が他国に比べて発達しにくかったというのも頷けます。

今ではハウス栽培や国外からの輸入によって、いろいろな食材が手に入りますが、日本やフランス、イタリア、スペイン、トルコ、その他食材豊富な国のように、バリエーションに富んだ感じではありません。一方、夏場はフィンランド産のとても美味しい食材がたくさん手に入ります。

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あるフィンランド人によると、昔は、食事は楽しみや幸せのために食べるというよりも、ただ空腹を満たすものという認識だったそうです。

今回は、フィンランド語を習っている先生から教わった、フィンランドの食文化の土台を表しているこの言葉を紹介したいと思います。

Kevät keikkuen tulevi.
ケヴァット ケイックエン トゥレヴィ.
春はゆらゆらとやってくる。

長い冬を終え、フィンランドの春は3〜5月頃には訪れますが、温かくなってきたかと思えば急に寒さが戻ったり、5月に雪が降ったりと、春の訪れが行ったり来たりすることを表しています。

実際、私もフィンランドに住んでいてそう感じますし、ようやく春の訪れが来たかと思うと、また寒くなり、まだかと思うようなことを何年も繰り返しています。私はそのうち来るだろうと、そこまで気にしませんが、春を強く待ち望んでいる人は、春がいつ来るのがわからないこの時期が一番辛いそうです。統計的に自殺率が1番高くなるのも4月だそうです。

そしてこの意味とは別に、もうひとつの意味があります。

フィンランドでは昔から、夏から秋にかけて、年間を通しての食材を収穫し貯蔵し、冬に備えてきました。冬の寒さは昔も今も厳しく、雪で覆われ、食材が育ちにくい、もしくは育たないです。それに加え、昔はその大切な食料が獣から奪われる危険性もあるため、木の上に倉庫を作っていました。寒さ、食材が穫れなくなる恐怖、獣から奪われる危険の中で、昔の人々は食材を大切に守り生き延びてきました。長い長い冬を乗り越えるための食料を準備し、冬越えをしていたのです。

その冬を乗り越えた後に春が来ます。その春が来る頃には食料が残っておらず、人々はふらふらで食料を探し求めていたそうです。かなりおぞましいですが、冬が寒すぎて、明らかに食材が育たないので、今のような輸入環境や室内栽培が整っていなかった時代のことから考えると、この状況は容易に想像ができます。

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このようなことがフィンランドの食文化のベースにあり、食材が貧しかった頃を乗り越えて、今に繋がっています。そして、フィンランドの伝統料理はこの頃から伝わってきています。

この背景からフィンランドでは、繊細な料理というよりも、マッシュポテトやミートボール、サーモンの焼き物などの大ぶりな料理が代表的です。このような料理を食べると素朴さが感じられます。食文化の背景を知ると、単純に美味しくない料理だとか、華やかでないとかそういうようには感じません。この過酷な状況下でも伝わってきて現在に残っている料理はとても興味深いです。

フィンランドが独立した1917年12月6日から104年になりますが、食やレストランに対する認識が豊かになってきたのはここ10年くらいではないでしょうか。

数年前までは、日曜日のスーパーマーケットはほぼ閉まっており、土曜日も夕方には閉まるというのが基本で、休日前に買い物をしておかないと、本当にどこも開いていない状況でした。当時フィンランド人の友達が、「あ、今日土曜日だ、スーパーへ急がないと、明日何もない。」と言って、信号無視してスーパー最優先で食べ物を買いに行ったことを思い出します。それが今では、日曜日に閉まっているスーパーを見つけるのが難しいくらいにまでなっていて、24時間営業のスーパーマーケットもたくさん見つけることができます。

そしてマーケットでは、夏から秋にかけて、色とりどりのフィンランド野菜や果実がたくさん並び、それらはとても滋養深く、栄養が感じられます。冬は根菜類がたくさん並びます。私がレストランを始めた頃、冬場は本当に根菜類しかなく、どういった料理を作ろうか本当に悩みに悩み続けていました。今はもう少しバリエーションも増えてきています。

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私が14年前の2008年にフィンランドに来た頃に比べて今は、スーパーマーケットの営業時間は拡大し、レストランの数や異国の食文化が増え、レストランへ食べに行って楽しむといったことをする人も増えてきました。それと同時に、家畜や家禽に反対する人やオーガニックな食材を求める人、牛乳やソーセージ、ハムなどの加工食品や保存料に疑問を持つ人、食を通して健康を考える人など、新しい食文化について考える人も増えてきています。

こういったことから、お肉を食べることに抵抗を持つ人が増え、多くある乳製品やお肉を使った伝統料理の需要が減って、伝統料理へのリスペクトがなくなってきている風潮も感じています。

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フィンランド料理は美味しくないということは全くなく、食材を吟味して、滋養を引き出し、食材の味を楽しむことで、とっても美味しい料理になります。素朴さの中に、フィンランドで昔から採れた食材や料理の知恵が隠れています。

フィンランド料理からは、フィンランドの歴史や風土を感じとることができるので、日本で見つけた時はぜひその素朴さを味わってみて下さい。フィンランドの風景が頭に浮かんでくるかもしれません。

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